TSUTAYA ・ BOY 【第1話】


結婚と恋愛は、きっと全くの別物だ。

私は、ななこ。35歳。

“ 恋愛 ” はできるのに、“ 結婚 ” はできない。


世の中には、何度も結婚と離婚を繰り返す人がいる。

なぜそんなに“ 結婚 ”できるのだろうか。

彼女たちと私の違いは一体何なのだろう。

 “ 結婚したい ” と、何人もの男性に

思わせることができる彼女たちを、

私は尊敬してしまう。



30歳を過ぎ、幾度となく、婚活パーティーや

出会い系アプリにチャレンジしてきた。

けれど、心ときめく人など現れない。

興味が湧く男性にすら出会えない。

最終的に、私の結論はこうなった。

“ 私はもう、恋することが

できなくなってしまったんだ ” と。


母の言っていた通り。

20代早々に、

婚活をしておくべきだったのかもしれない。


樹木希林さんも、こんなことを言っていたっけ。

“物事の分別がついてからでは、

結婚はできない” と。


もしもこのまま、

婚活ばかりに時間を費やしていたら、

将来が不安だ。


“ 美 ” を武器とする業界にいられるのは、

せいぜい40歳までだろう。

今後、どう生きていけばいいのだろうか。

考えただけで恐ろしくなった。


とにかく婚活よりもまず優先すべきは、

自分の将来の安定を確保することだ。

私は婚活を中止して、

資格取得の勉強を始めることにした。


2019年6月

彼氏を作ることも、婚活をすることも、

すっかり頭から消えてなくなっていた。

好きな分野について、深く学んでいると、

毎日自分がレベルアップしている感覚になり、

不思議と自信まで湧いてくる。

勉強をすることで、

こんなに視界が開けるとは思ってもいなかった。

母にも、最近表情が明るくなったわね、と

言われるようになってきた。

目標を持つということは、雰囲気やオーラ、

目の輝きを変えてくれるのだろう。

婚活中の私には、これが

足りていなかったものかもしれない。



6月も終わりに近づく日曜日。

この日は珍しく太陽が顔を出した。

私は相変わらず、カフェで勉強だ。

“あぁ〜、気持ちいい〜・・・”

窓から差し込むあたたかい光に包まれながら、

カフェラテを手に取り、窓の外を眺める。


今日はやけに、

道行くカップルたちが目にとまる。

手を繋ぎ笑顔で歩くカップルたちが

とてつもなく眩しくみえる。


幸せそう・・・


なんだか少し、切なくなった。


こんなデート日和に、

私は一人きりで何をしているんだろう。


本当にこれで、よかったのかなぁ・・・ 。


勉強を終え、映画を借りに行くことにした。

悩んだり、物思いにふけたくなると、

私は決まって映画を観る。


不思議とこんな時には、 

手にとった作品の中に

答えを見つけることがあるから。


行きつけのTSUTAYAは、隣駅。

最寄駅のTSUTAYAよりも

店員さんのセレクトセンスがいいのだ。


電車に乗り、隣駅のTSUTAYAに到着すると


あぁ、やはり・・・

店内はガラリとしている。


こんな晴れた日曜日に

予定もなく、映画を借りにくるなんて

私くらいだろう。


しばらくして、フラっと背の高い男の子が

入ってきた。

寝起きを思わせる無造作ヘアー。

サンダルに上下ネイビーのスウェット。

シンプルコーデなのにオシャレに見せる

彼のスタイルとセンスの良さ。


きっとご近所さんなのだろうけど、

TSUTAYAでこんな人、

見かけたことがなかった。


こんな日にTSUTAYAに来るなんて。

あの人も、きっと彼女がいないんだろうなぁ。


ふと、照明を落とした部屋で

恋人同士のように彼と寄り添いながら

一緒に映画を観ている画が浮かぶ。


“ あんな人と一緒に、映画を観られたら

幸せだろうなぁ・・・。” 


彼をこの目で捉えたのは、ほんの一瞬なのに。


ここまで妄想を掻き立てた自分に呆れてしまう。


はぁ・・・。

日中に見たカップルたちの影響力はすごい。


気を取り直して

私は作品を選びはじめた。



もう、どのくらい時間がたっただろう。


気がつくと、

目と脚と頭に疲労感がでてきていた。

もう店内をじっくり3周はしている。


ふと携帯電話に目をやると

TSUTAYAに来てから1時間半も経過していた。


こうして時間を無駄にしてしまう自分に

いつもウンザリだ。


TSUTAYAは5本で1000円なのだが、

あと1本が決まらなかった。

気になるものは見尽くしていて

毎回、5本選ぶのには

かなりの時間がかかるのだ。




ふと顔を上げると、さっきの男の子。

ありえない。あの子もまだ悩んでいたようだ。

相当な映画好きだとみた。

“ あの子におススメを聞こうかな ”

・・・いやいや。

こんなところで店員さんにならともかく、

お客さんに声をかけるなんておかしい。

絶対に却下だ。


私は映画好きの女友達に連絡を取ることにした。

その時、横から声をかけられた。

「あの〜・・・」

さっきの男の子だった。

私は思わず目を大きく見開いた。

近くで見ると、より背の高さを感じた。

「あっ、突然声かけちゃってすみません。

お姉さん映画詳しそうだったんで。

良かったら、おススメを教えてもらえないかな

と思って。」

・・・!!!?

私は少し興奮しながら答えた。

「あの、実は私も最後の1本が決まらなくて。

お兄さん映画好きそうだったから、

オススメ聞いてみたいなと思ってたんです。

でも、勇気がなくて。(笑)」

それを聞くと、そうだったんですか、と

彼は照れくさそうに笑ってみせた。

私はドキッとした。

細くて優しい目も

横に大きく広がる唇も

キュッと上がった口角も・・・

私の大好きな形だった。


たぶん、この瞬間

ほんの一瞬で。


私はまんまと恋に落ちてしまった。


一目惚れなんて

これまで一度も

したことがなかったのに。













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