TSUTAYA ・ BOY 【第2話】

〈前回までのあらすじ〉誰にも恋ができず、婚活を諦めた35歳ななこ。一人で生きていく力をつけようと資格取得の勉強に励む。そんなある日、TSUTAYAで歳下男性から声をかけられ、まさかの恋に落ちてしまう。

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二人は、TSUTAYA店内をまわりながら、

お互いの好みを探り合う。

プレゼントを選ぶように、

互いにおススメの1本を見つけ出したところで、

彼は立ち止まり、こう言った。

「今度、一緒に映画観に行きません?」

あまりにも突然で積極的なお誘いに私は戸惑う。

嬉しい。とっても嬉しい。

でも、明らかに彼は、

私よりかなり歳下に見える。

こんな歳下のイケメンとデート?だなんて

そんな自信、私にはどこにもない。

「映画・・・、私も行きたいな。

でも、私かなり歳上だと思うので、

大丈夫かなぁ?って。」

「えっ?歳は全然気にしないですけど。

おいくつくらいなんですか?

たぶんそんなに変わらないと思いますよ。」

と彼はサラリと言う。

「私・・・35歳なんです。」

一瞬、彼は制止したように見えた。

あぁ、やっぱりかなり年齢差あったんだなぁ。

「・・・見えないですね!

でも、僕は全然気にしないですよ!

よかったら、一緒に映画行きましょうよ!」

優しいなぁ。

まぁ、“ 映画友達 ” に、年齢なんて関係ないか。

「・・・ありがとうございます。

じゃあ、行きます。」と私は笑顔を返した。


「ちなみに、僕は何歳くらいに見えてます?」

本当は、28か29くらい?と思ったけど・・・

念のため

「26か27くらいかなぁ?」

「すごい!よくわかりましたね!27です!」

想像よりも若くて、私も驚いてしまった。

若いなぁ〜・・・

「そういえば、何のお仕事されてるんですか?」

自由でゆるい雰囲気漂う彼の職業は、

想像がつかなかった。

「僕、よく見えないねって言われるんですけど、

都庁で公務員の仕事してるんです。」

こ、公務員〜?!!!

「み、見えない・・・」

「ですよね、前職がアパレルで。

勉強して転職したんです。」

なるほど〜、なんだかスッと腑に落ちた。


でも、こんな出会いだけでもステキなのに。

彼はオシャレで背も高くてイケメンで、

さらに結婚相手に理想的な “ 公務員 ”だなんて。

こんなこと、現実にあるんだ・・・。

「お姉さんは、何のお仕事なんです?

アパレルですか?」

「あ、いえいえ、私はアロマのエステティシャンをしてます。」

「へぇー、アロマ!興味あるんで

よかったら今度アロマも教えてください。」

かわいらしい顔でニッと笑う。

この笑顔、大好きだ・・・。

「そろそろ借りて、帰りますか」


それぞれ別々のカウンターで精算を始めた。

私は少し寂しくなった。

もう少し、彼と一緒にいたいな。


精算が終わり、

TSUTAYAを出ようとした瞬間、

「もう夕方だし、お腹空いてません?

良かったら、ゴハンに行きませんか?」

と彼から提案があった。


もちろん、彼とまだいられるならと思い、

私は喜んでOKした。


昼間、一人で寂しかったのが、嘘みたい。

隣駅に、こんなステキな

“ 映画友達 ”ができるなんて。



彼は、この駅に住んでいて、

まだ引っ越してきたばかりだそう。

散歩が趣味らしい。

散歩をしながら、美味しいお店を

開拓しているというので、

おススメのお店へ連れて行ってもらった。


到着したのは、こじんまりとした小洒落たお店。

店内は大人の男女で賑わっていた。


初めて見るメニューに戸惑う私をみて、

彼は「嫌いなものはない?」とだけ聞き、

おススメを注文してくれた。


出てきたお料理は、

私の食欲と美的感覚を刺激する。

・・・お店選びのセンスいいなぁ。

美味しいお肉とワインをいただきながら、

彼に感心していた。

幸せ・・・。

男性と、こんなふうに過ごすなんて、

いつぶりかなぁ。

彼は質問をしたり、話を聴くのが

とても上手だった。

気がつけば、私は自分の恋愛観を

すっかり話してしまったように思う。

前の彼と別れた理由、

「嘘の多い人だったから」ということも。

嘘つきは嫌い、次は、信用できる誠実な人と

結婚前提のお付き合いをしたい。


お会計は、彼が出してくれようとしたけれど、

悪いから自分の分くらいは出すと、申し出た。

彼は、じゃあ俺が5000円出すから、と。

2000円だけ受け取った。

歳下に奢ってもらうのは、遠慮してしまう。

いつもの私の悪い癖。


帰り道、なんとなく二人は無言だった。

もうすぐサヨウナラだ。

突然彼が口を開いた。


「あの、俺じゃダメですか?」

「え?!」

「俺じゃ、恋愛対象として、見れませんか?」

驚いた。彼がそんなことを考えていたなんて。

「あの、私はもう、結婚相手を探しているから。

ただ、付き合う相手は、探していないの。」

彼は言葉を詰まらせた。

「俺も、結婚願望はあるんです。

いつまでに、結婚したいんですか?」

彼が尋ねる。

「年内か、来年には、結婚したいかな。

親が心配しているから。

自分が結婚したいというよりは、

親を安心させたいのが、一番なんだけどね。

だから、今すぐにでも、結婚したい人でないと、

付き合うのは難しいかなぁと思ってる。」

「俺、今は結婚資金がないから、

すぐには結婚できないですけど。

2.3年後とかじゃ、ダメですか?」

悲しい。私だってあなたと付き合えるのなら、

付き合いたい。

でも・・・

もう同じ失敗をしたくない。

「・・・うん、ごめんなさい。」

私はこれまでの恋愛で、

結婚のタイミングが合わず失敗してきた。

だからこそ、そこだけは譲れなかった。


各々の想いを抱えながら5分くらい歩いた。

次第に彼の歩くスピードが落ち、

立ち止まってこう言った。

「俺のうち、ここなんです。

よかったら、一緒に何か映画みませんか?

もう少しだけ、一緒にいたくて。」

私も、まだ一緒にいたい。

でも、家かぁ。

時計は21時半を過ぎていた。

きっと、映画を観たら、23時半・・・。

万が一、電車がなくなったら、

隣駅だし歩いて帰ればいいかぁ。

とにかく、まだ彼と時間を過ごしていたかった。

「・・・うん、一緒に映画観たいな。」

私はそう答えていた。












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