いつの間にか私も『銀のライオン』になっていた
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『何十年かに一度、世界中のあちこちで、同時多発的に白いライオンが生まれることがあるという。極端に色素の弱いライオンらしいが、仲間になじめずいじめられるので、いつのまにか群れから姿をけしてしまう』
『でも、彼らは魔法のライオンなんですって。群れをはなれて、どこかに自分たちだけの共同体をつくって暮しているの。(中略)ライオンたちは岩の上にいて、風になびくたてがみは、白っていうよりまるで銀色みたいに美しいんですって』(『きらきらひかる』より抜粋)
病院みたいに清潔なマンションの一室。
ちょうどいいボリュームで流れる環境音楽。
壁にかかった『紫のおじさん』の絵。
ベッドに入る直前にアイロンで仕上げるシーツの、パリッとした感触。
クスクス笑い、紅茶を飲む鉢植え『ユッカエレファンティペス』
ベランダから見上げる星空。
クリスマスプレゼントの、天体望遠鏡とシャンパンマドラー。
中学生だった私が貪るように読みこみ、狂おしいほど憧れた小説『きらきらひかる』
大人というものはこれほど自由で独創的で、寂しいんだと知った一作。
アルコールに溺れ不安定な精神を抱える妻と、途方もなく優しく誠実で完璧な夫――でも男性しか愛せない――の『ふたりぼっち』ともいえる結婚生活が描かれています。
大好きで、好きすぎて、サンフランシスコのアパートまでついてきた一冊。
読みこんで、世界に浸りすぎて、『私も何か書いてみたい』と思った14歳の夏。
小さな、大学ノート風のメモ帳に文章を書き始めたのがちょうどこの頃で、まだ詩とも短編とも呼べない、概念の集合体のような代物でしたが、
『いつかは長編を書いてみるんだ』
曙に輝く明星の如く、強い希望が灯った瞬間でもありました。
今では、稚拙ながらも12万語の物語を書くようになっています。
結婚しているのに、夫に恋人(しかも男性)がいるってどういうこと?
戸惑い、それでも理解したいと試みた中学の夏。
夫の恋人の『背中は背骨がまっすぐで、コーラの匂いがする』と描かれている場面を再現したくて、何度も炭酸飲料の匂いを嗅いだ夏休みの夜。
理解されないのならそれでいい。私たちは今のままで満足なんだから。
主人公の張り詰めた横顔が今にも見えてくるようで、こんな大人になりたい、けれどたいへんそう……そう思った思春期の夜明け。
いつの間にか自身も『お堅い』仕事を辞め、
いわゆる『世間』から少し離れた生活を送り、
部屋をちょうどよく暖め、加湿器を動かし、
壁には絵を飾り、
ベランダで植物を育て、
星や月を見上げる日々を過ごしている……。
子どものころ頭の中に描いた風景は現実のものとなり、それなのにまだ、純粋な憧れを抱き続けている不思議な二重感覚。
世間から少し離れた場所で暮らす主人公たちが自身を『銀色のライオンみたい』と話していたように、私もちょっとだけその縄張りに触れているような気がするこの頃。
ひとの想像力・思考力には、具現化に向かうとてつもない力が秘められているんだなと強く感じています。
クリスマスの一幕、フライドチキンやアイスクリームで溢れた奇妙なパーティーの一場面を楽しむこともでき、今の時期にぴったりの物語だと思います。
この世にいる『銀のライオン』たちに愛を込めて、贈りたい一冊です。
黒武者 奈那子
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