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ヘンネノムムフのフリュリルレ①

私がヘンネノムムフについて書く日が来るとは思いもしなかった。

ヘンネノムムフ(通称・ムムフ半島)は豊かな自然と画期的な国政で栄えた国を持つ、地上の楽園である。

さて、今回私が語るのは豊かな自然の中で起きた誰に知られるわけでもない物語である。
画期的な国政を語るのは、得意な誰かにお任せしよう。
歴史は苦手なんだ。

ムムフ半島の北にある広大な森。
モノぺぺノームと呼ばれるその森で、私は出会ったのだ。

***

私は家でいつも通り、本の妖精達のしでかした後始末をしていた。
彼らは、書物の文字をあっちこっちにしまい込む癖がある。
その癖、読みたい時に文字がないと怒り出して家の本という本を木に吊るしてしまうんだからたまったもんじゃない。

あまりにも大きな木に吊るされた時は、ノールノールレノの長い舌を借りねばならない。
ノールノールレノはお返しのキャンディを要求してくる可愛いやつさ。
…私には、虫入りキャンディの良さはわからないけれどね。

そんなわけで、その日もノールノールレノに仕事を依頼し、なんとか木から可哀想な本達を助けてやった。

しかし、最後に手に降りてきた本は私の知らないものだった。
だいぶ長いこと木の上に居たのか表紙はふやけ、題名はかすれ、角は折れ、散々な姿だった。

『かわいそう』『かわいそうね』『かわいそうだわ』『どうしてそんなひどいことするの??』

妖精達が口々に言ってくるが、私のせいではない。そもそも、私の蔵書にこの本は無かったと記憶している。そして、木に本を吊るしたのは君達じゃないか。
私は抗議の目を彼らに向ける。 

『ミュハンゼが知ったら泣いちゃうかも』『ミュハンゼが知ったら怒るかも』『ミュハンゼが知ったらショックで死んじゃうかも』『馬鹿ね。ミュハンゼはもう死んじゃったじゃない』『あぁ、そうだ!そうだ!ミュハンゼは死んだんだね』『ふふふっ』『はははっ』

可愛らしい声で、不謹慎なことを話すのは妖精の癖かもしれない。
読者である君に一応、言っておくが、彼らが全てそういう生き物というわけではない。
人間が悪意としているものが彼らには解りにくい傾向はあるけれどね。

さて、彼らが話しているのは私の祖父の事だ。
彼は絵描きとしてその半生を費やした。
そんな彼は絵とおなじくらい本を愛していた。
そのなかでも、彼の故郷に伝わる物語を何度も、何度も、子守唄代わりに聴いたものだ。

古の森の中にいる優しい生き物の話。
私は、それはもう夢中で物語を聴いた。何度聴いてもワクワクする生き物たちの素晴らしい世界に想いを馳せた。


懐かしい記憶を思い出しつつ、手の中のシワシワの本を再度見る。
かすれた表紙の文字がヨタヨタと動き出した。

「無理すると本の形を保っていられなくなるよ」

そう声をかけたが、文字はすっかり形を整えた。

『約束のモノぺぺノーム』

私は今にも解けそうな本をそっと開いた。

男はある日、森で迷いました。
彼にはどうしても帰りたい場所がありました。
愛おしいあの子にこの花を。
男の手には虹色のウルルノが握られていました。
『なぜ同じところばかりグルグルと…』
先程から男の見る景色はどうにも同じ。
とうとう、男はその場に座り込みましました。
すると大きな木の枝が揺れて
上からか鈴のような声が聞こえてきました。
『人間の坊や。そのウルルノを連れて行くことはできないよ』
男が顔を上げると美しい生き物と目が合いました。
まるで宝石に命を吹き込んだかのような深いブルーの瞳。
一枚一枚が薄い貝細工のような鱗。
深い雪解けの水のように冷たそうな翼。
大きな大きなその生き物はじっと男を見つめました。
『どうか!どうか虹色のウルルノを連れ帰ることを許してほしい!家で待つ愛おしいあの子にはこれが必要だ!!』
男には大切な家族がいました。
虹色のウルルノは最後の頼みの綱でした。
男は何もかも知っていたのです。
虹色のウルルノが特別な花だということも。
花を持ち去ろうとすれば目の前の生き物が出てくることも。
あとは、その生き物次第だということも。
生き物は考えるように男を見つめました。
男はただひたすらに祈りました。
『あぁワルツヒェイルのご加護よどうか…』
その言葉を聞いた生き物は少しだけ目を輝かせて言いました。
『人間の坊や。その、ワルツヒェイルとはなんなんだい?』
『ワルツヒェイルとは我々、人間が護り神と崇めるモノです』
男は答えました。
『ねぇ、坊や。その虹色のウルルノをあげるかわりに、ワルツヒェイルとやらの物語を描いて私にくれないか?』
『ワルツヒェイルの物語を?』
『だって、坊やは絵描きのようだ。絵の具の匂いがしている。違う?』
『確かに…そうだが…』
『では、モノぺぺノームのフリュリルレが坊やを家まで帰してやろう。その手のウルルノと共に』
『本当に?!有難うございます』
『そして、坊やは私に物語を』
『えぇ、えぇ!確かに!』
そういった途端、風がごうっと吹き
男が目を開けると見慣れた我が家の庭なのでした。

「こりゃ、驚いたな」

私はヨレヨレの本を優しく閉じた。
本は閉じたその場から崩れさった。

「おじいちゃんたら、なんて約束を取り付けていたんだ!!」

私はすぐさま回収した本達を抱え家に走った。
あのヨレヨレの本の物語はたぶん、祖父が主人公だ。
「愛おしいあの子」は、自分で言うのは恥ずかしいが、私の事だろう。
私がまだ、小さい頃、とんでもない流行り病があって、私もそれに苦しんだ。
薬が効かない特殊な体質だったから、このまま死ぬのだと、朦朧とした小さかな体で目をとじた。
しかし、次の日の朝、体はすっかり軽くなり、なんなら病にかかる前より元気なくらいだった。
窓辺には見たこともない花が咲いていて、疲れた笑顔の祖父と泣きそうな顔の祖母がベッドのそばに立っていた。

「あの日あの時、見た美しい花が、幻の花、虹色のウルルノ!!」

しかも祖父は故郷の森モノぺぺノームで、あの、絵本に出て来る伝説のフリュリルレに出会ったのだ!しかも、約束までして!!

「そして、大問題だ……絵本は、まだ我が家にある」

それは確かに我が家にあった。
絵本と言うには大きな…大きな…

「これは絵画じゃなくて絵本だったのか…」

居間に飾られた5枚の絵を眺めた。


『フリュリルレ怒ってるかもね』『フリュリルレは大きいのよ』『あの森には文字がないから嫌い』『ここには古い言葉がいっぱい』『あるじゃない』『え?』『森にはワルツヒェイルの祝詞の石版』

©2023koedananafusi

続く…のか?


どうも。お読みくださった方有難う。koedananafusiです。


昨日の夜、突如思いついた『ヘンネノムムフ』というのはきっと豊かな自然と豊かな国のある場所のことだと思い、その後、思いつくままに物語に仕上げてみました。

考えながら書いているのでところどころ矛盾が生まれそうですが、孫は祖父の約束をかわりに果たすことはできるのでしょうか。
フリュリルレはどうして、ワルツヒェイルの絵本をほしがったのでしょうか。

フリュリルレやワルツヒェイルを検索しても引っかかりませんでした。
まだ私の脳内でしか発見されていない世界のようです。

続きは書くか…いや、私は書き上げられない…本当は砂鯨の続きを書こうかなどと今更考えていたのだが、こうして、脳内に降り立つもので、私は日々文書をペラペラと書いては、また次へと遊びに行ってしまいます。

あぁ、ガリバー旅行記読み直したいなー。

サポート設定出来てるのかしら?出来ていたとして、サポートしてもらえたら、明日も生きていけると思います。その明日に何かをつくりたいなぁ。