“薬膳”と“日式薬膳”
はじめに
薬膳、とひとことで言っても、(特に日本においては)実はその方向性や内容は様々。なぜそうなったかという理由としては、食文化的な問題や法的な問題があります。
たまたま先週、本学の実習室で、午前中に“中国や台湾で食べられている系統の”薬膳・午後に“知識は中医学ベース、方式は日本式の”薬膳の実習がそれぞれ行われており、ビジュアル的に比べやすかったので取り上げてみました。
“漢方系の”薬膳
こちらは午前中の生薬学で行なわれた実習。どう見ても漢方生薬であるものが材料として並び、漢方薬の煎出をしているように見えます。実際、これは漢方処方である《十全大補湯》を作り、それをスープベースとして食材を煮込むという趣向(肝心の食材の写真がありませんが、この時は挽肉の肉団子とうどんが入りました)。
台湾では、特定の処方だけでなく、生薬と食材を一緒にぐつぐつ煮込んだスープがごくカジュアルに売られています。そして、一般生活者の中に中医学的な知識がなんとなく常識としてあり、“今日は冷え込むから、風邪をひかないうちに◯◯の養生スープ飲もう”という感じで、何だか真っ黒で(日本人からすると)薬っぽいにおいのするスープを、これまたカジュアルに飲むのです(具を食べるのはもちろんですが、重要なのはスープで、これは飲み干します)。スープのヴィジュアルがなかなか強烈なので、慣れないと飲んでいいのか戸惑うのですが、調味料はほぼ入らず、生薬と食材から出た味と香りとわずかな脂(最後にお酒をちょっと足したり、場合によってはお酒で煮込むこともありますが)だけなので、飲んでも大丈夫…というよりは、繰り返しますが“生薬成分の溶け出したスープが本体”なので、むしろこれを飲まないと意味がないのです。なお、塩も醤油も入れなくても、生薬エキスをたっぷり吸った具材はとても美味です。
あ、いや。
美味だと思います。私は(←ちょっと気を取り直した。クセはないわけではないのです…)。
“日本式の”薬膳
対してこちらは“中医学の知識をベースとした、日本式の”薬膳の実習準備の様子。
韓国料理なのに日本式? となりますが、“日本式薬膳”というのは、
・いわゆる“生薬”に相当するものをあまり使用せず
・一般食材を、中医学的に説明されるそれらの性質を手がかりに組み合わせて
・その時々の身体の状態を、よりバランスの取れた状態にしていこうとする
ものです。
この時は、冬の薬膳ということで、身体を温め、腎を補い気を巡らすメニューをご紹介いただきました。
生薬ではなく、性質としてはもっとマイルドな一般食材(なので“薬”まで行かないことが多い。生薬としても用いる紅花については、“使うのは本当に少しだけにしないと火照りすぎますから、気をつけてくださいね”という注意がありました)を用いて、穏やかに、でも継続的に、体調のバランスを取り続けようとする食べ方、という感じでしょうか。
どんな食材にもそれぞれの性質があり、組み合わせることができるので、この考え方でいくと、和食でもフレンチでも薬膳として成立するのです。
★
なお、杏仁先生が教えている薬膳は、その中でもかなり中医学理論を重んじるものです。
先生からは、
・中国や台湾の“生薬スープ”型の薬膳は、現地では、なんとなく習慣的に(風邪をひいたら卵酒を飲む、というような感覚で)食べられている
・先生の教えていらっしゃる薬膳は、中医学理論を用いて様々な食材の性質を理解することで、“家庭で、自分で体調にアプローチすることができるようになる薬膳”である
・“中医学理論に裏付けられている”ことから、これまで習慣的になんとなく…で生薬スープを食べていた中国や台湾の方が、生薬の意味や理論を改めて学びに来ることもある
などの興味深いお話を伺いました。
日本式薬膳でも、理論の理解がもっとゆるやかな状態で運用しているものも多いのです。
なぜこんなに違う…?
“生薬を使った”薬膳と“日本式”薬膳。
その時の体調や環境にあわせて、より心身が健やかでいられるように食べる、という方向性は同じです。
それがなぜこのように違ってきたかということについては、日本の食文化的、および法的な背景が特殊であるから、という理由があります。
その詳細についても、いずれご紹介したいと思っています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?