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【INUI教授プロジェクト】⑥      第二章 Assemble『冬音』


集合

【冬音2】


「雄のくせに…梅子って…」

それは冬音が参加して間もない時の事…。
冬音は餌を片手に持ち、しっぽを振りながら見上げる梅子を冷たい目で見下ろしていた。
「私を地獄の底に突き落としておいて、にせの「梅子」を可愛がるなんて。。。!!」

小春が家から居なくなってから徐々に家族の鬱憤は溜まって行き、それが全て冬音に向けられるようになるのに時間はかからなかった。
暴力を受け、ただの性欲の捨て場となった冬美は、家に戻ることのなかった小春に「裏切者」のレッテルを勝手に張り付けていた。
小春が今まで受けてきた仕打ち…これは、「小春が受ける物」であり、決して「冬音が代わりになる物」ではなかったはずなのに…と。
小春のそれとは違い、冬音は憎悪を悪魔の様な家族へではなく、小春へと向けていたのである。
小春を見つけ出したところで出会ったのが、自分の名前を名乗る犬…。小春が自分の存在を、ただ舌を出して飛び回る犬に置き換えられた事にさらなる怒りを隠すことが出来ずにいた。

「可愛がられるべきは、あんたじゃなくて、この梅子よ!!」
冬音はことっと餌を地面の上に置く。

「さぁ、お食べ…今日のご飯は美味しいわよ。。。本当は小春にって思ってたんだけど…でも、殺しちゃったら…替え起きがなくなっちゃうしねぇ…」
梅子は餌をクンクンと嗅ぐと、じりっと後ずさりをする。
「ほら!全部食べなさいよ!「梅子」は一人でいいんだから!
冷たい瞳を細めながら見つめる冬音を梅子は睨んでいる。
「折角下着に隠して持ってきたのよ…っていうか、あんたもいつか小春に裏切られるんだから、忠犬してないでさっさとぽっくり逝きなさいよ!!」

グルルルル…

梅子は言葉無き反逆心を剥き出しにし、この時 自らの心の中の二つの箱…そのうちの『悪人の箱』へと冬音の存在を投げ入れていたのだった。


§

「冬音、行こう!」
手を引っ張られ外に連れ出された冬音の心は踊っていた。。。
ー くっくっく、ほら、壊れてく。。。
夏樹と小春の口論を心の中で楽しんでいた冬音はぐんぐんと前を進む夏樹が振り返らずにいてくれることにホッとしていた。
思わず漏れる笑みを見られたら大変だもの。

「冬音!もう梅子には一切近づくな!!」
「でも…ここから出る事も出来ないし、梅子を出すことも出来ないし…一緒にいないなんて無理な話よ。。。」
「あんな犬じゃなかったんだけど…本当に、小人に憑りつかれちまったか…」

ー そんな訳ないじゃない…小人だなんて。都合のいい、ただの馬鹿だわ。
心の中で、なんて馬鹿なやつなんだ。。。そう思いながらも、手のひらの上で転がせる存在が参加者の中にいたのは冬音にとって、これとない好都合だった。夏樹の存在によって、自分の目的がいとも簡単に進んで行く。。。

「あの悪い小人さん追い払わないと…皆に危害が及ぶかもしれない…」
チッと舌を鳴らすと、夏樹はグルグルと歩き回る。
「何かいい方法があるか俺も考えてみる。」
「そう言えば文秋さん…猛毒の植物も、解毒作用のある植物も…知っている。。。魔法薬作れるかどうか、材料が手に入るかどうか冬音聞いてみる!」
夏樹はじっと先にある森を見つめながら、目じりをひくつかせたいた。

ー アイツが、大人しく冬音の願いを聞き入れる訳はねー。。。
ギリっと奥歯を鳴らし森を睨む夏樹を見て、冬音はただ湧き上がる笑いを堪えるのに必死だった。


: 冬音はプロジェクト参加のために教授から名付けられたニックネームです。
注2: 梅子は冬音の本名という設定ではありますが、これも本人保護の為、七田が置き換えた名前となっております。ご了承下さい。
注3: 冬美という名前が見つかったらご連絡ください。。。冬音に間違いです(笑笑)


しめじさんの「教授プロジェクト企画」はこちらから。

第一章はこのマガジンからどうぞ。


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