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拡大解釈された心理学用語が生み出す闇

【想定している読者層】
 アタッチメントとアダルトチルドレンの記事を書きますので、それらに興味のある方向けです。


1.結論

 拡大解釈は誤解を生みますが、活用範囲の拡大によって有益な部分もあります。そのため、「誤解」がなければ拡大してもいいと思います。

2.アタッチメント理論の誤解

 まず、誤解に対していくつか箇条書きします。

・アタッチメント理論は愛情理論ではない
・愛着障害はまれ
・アタッチメントスタイルは何かの病気の原因ではない
・アタッチメントスタイルの判定は専門家でもかなり難しい
・アンビバレント型は諸説ある
・重要他者が親から移るのは高校生前後の傾向
・アタッチメントスタイルは適応していればどれでも問題ない
・社会心理学的なアタッチメント理論は分家的

 さて、子ども達を相手に仕事をする人達は、アタッチメント理論を学ぶことが重要なのは言うまでもありませんが、ボウルビィの本すら読んだことがないのではないかと、いつも思います。特に小学校の教員に対して思います。

 よく聞くのは、「親の愛情が足りないから、私が代わりになる(なりたい)」みたいな話ですね。

 アタッチメント理論は、愛情理論ではありません。アタッチメントは、「掃除機のアタッチメント」のように、「くっつく」という意味合いのものです。人は「くっつく」ことで、「安全の感覚」が養われます。

 子どもが親にくっつこうとしたとき、親からどんな反応をされてきたかによって、タイプ分けがされていますが、このタイプ分けは病理の原因としてあまり使いません。

 その親の反応も、親の親から受け継がれてきたものです。なので、「親の責任」はある程度免責されて良いのです。

 仮に責任を果たそうとするのであれば、良くない関わりとして自覚している関わりを、とりあえず1%減らすくらいで良いと思われます。虐待してしまうのであれば、専門家と繋がればいいのです。

 教員的な立場にある人が「指導しにくい子ども」を愛着障害などど評価することがありますが、はずれていると思います。医師の判断が出てから使うべきですが、判断があっても、あまり使わない方が良いと、個人的には思っています。

 アタッチメントスタイルは、何らかのリスクにはなり得ますが、病気の原因とまで言うのは言いすぎです。

 また、安定型かどうかや、回避型や不安型といったスタイルは、その道の専門家が10年研修を受けても判断が難しい代物です。不安型に見える回避型などがありますので、判断は非常に厳しい。ロールシャッハの様に職人技的な所があります。

 しかも、どの型であっても、普通に生きていければ、そのことを気に病む必要は全くないのです。

 アタッチメントスタイルの質問紙調査による判定は、本人が現在自覚している顕在的なものですので、潜在的なものとズレている事がぼちぼちあります。そして、これらは、社会心理学的な分野に属していると思われます。つまり、拡大解釈されたものであり、分家的なものだと思われます。

 また、日本人は安定型が多いわけではありませんので、子どもの愛着障害を平気で口にする支援者のアタッチメントスタイルが不安定かもしれません。つまり、問題は支援者側にあることも想定しておく必要があると、私は考えます。ちなみに、訓練を受けた心理職は後天的に獲得された安定型になることがあります。

3.教員の疑問

 ある先生から「アタッチメントスタイルが安定型ではないと思われる子どもは、教師とのかかわりを中心にしたほうがいいですか?」という疑問を投げかけられました。

 私の回答は、「子どもは子ども達同士で関わっていた方が楽しいのではないでしょうか。その子の安全のために、必要そうであれば、先生とのかかわりを中心にすることも一つのやり方だと思いますが、あまり大きな問題が起きていないのであれば、深く気にしなくてもいいと思っています。」

 そう答えながら、やっぱり先生は「子どもにとっての最善」を考えてやり尽くそうとするあまり「囲う状況」にはまっていくのだなと、そんなことを考えていました。

 とても熱心で素晴らしいなと思いましたが、囲うと、その子どもへの責任が大きくなっていくので、先生にとっても苦しいのではないかと思っています。

 アタッチメント理論の誤解が悪循環を生み出しているかもと感じました。

4.アダルトチルドレン

 この言葉に悩まされている大人が増えてきたのかもしれないと思い始めています。なので、この言葉についても本来の意味を捉える必要があると思います。

 元々、アルコール依存の親等を持つ「子ども」が「親の代わりをしている」ことを指している言葉です。そのため、大人に対して使う言葉ではありません。

 子どもが、子どもらしく、子ども時代を過ごせない事によって、その後、不調に陥ってしまう事が問題となったため「アダルトチルドレン」というワードが出てきたものと、単純におさえています。

 大人が「成長しきれていない、まるで子どもかもしれない」と思い悩む場合には、エゴグラム的な部分での悩みかもしれませんので、自分でできる自己理解を深めていくとよいのではないかなと、個人的には思います。
 もちろん、あくまでも可能性の一つです。

 また、エゴグラムは、現在の自分の状況によってかなり変わります。仕事の影響、子育て中等によって変わりますので、現れた結果を確定的に確信せず、今の自分を捉える一つの資料として読むと良いと思います。

5.拡大解釈のよさ

 ちなみに、拡大解釈にもよさがあるとも思っています。拡大解釈も、専門家が悪意をもってやっていることではありません。
 
 理論の適用範囲を広げて、見えてこなかったものを見ようとしてきた努力の結晶でもあります。

 一般的には、占いの結果程度の活用になると思いますが、それで安心が得られるなら、とっても良い事だと私は考えています。

 つまり、大人が自分のことを「アダルトチルドレン」と思って、それで落ち着くなら、それでいいと思います。病理と共にある事で得られる安心がありますからね。

 最後までお読みいただきありがとうございました。