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神様からの伝言

早朝の小田急線は、とても静かだ。
地獄のような通勤ラッシュとは違い、ゆったりと座ることができる。
その日、私は小説を読みながら電車に乗っていた。あと少しで到着だ。
「そろそろ降りる準備をしよう。」そう思いながらも小説が面白過ぎて、
なかなかやめられない。「あともう少し。。。」と言い聞かせつつ、
夢中で読んでしまっていた。

『プシュ~ッ!』
扉の開く音で、飛び上がった!しまった!降りる駅だ!
私は慌てて小説をカバンに突っ込み、電車を飛び降りた。いかんいかん。
乗り過ごしてしまうところだった。セ~フ!!!
ホッとしながら階段を降り、改札口へ向かおうとしたところ、
身軽になっていることに気づいた。

「カバンを忘れた!!!」

ぎぇ~!!!
この日は、カバンを二つ持っていた。いつものカバンと、エコバック。
エコバックの中には、めちゃくちゃ大事なものが入っていた。
『競馬場の通行パス』だ。
このパスがあると、どの競馬場もすんなり入れる。
私は競馬の仕事をさせて頂いているので、パスを発行してもらっていた。
通行パスは一つ一つに番号がふられており、キチンと管理されている
大切なものだ。誰かに貸すことも許されないし、ましてや
無くしてしまうなんて、論外である。
「どうしよう!」
私は、顔面蒼白になった。
すぐさま駅員さんのところへ行き、事情を話した。

「たった今、降りた電車の中に、カバンを忘れました!
大事なものが入っているのです!」
「え?今の電車ですか?何両目くらいかわかりますか?」
「え~っと、ちょっと見に行ってきます!」

「わかりました。次に到着する駅に連絡しましょう。網棚の上にある、黒いカバンですね?」
「はい!どうか、どうか、よろしくお願いします!」

乗っていたのが、急行で良かった。次の停車駅で駅員さんが乗り込み、
私のカバンを取ってくれることになった。どうか、見つかりますように!

とはいえ、まだ安心はできない。
もしカバンが見つからなかったらどうしよう。
パスが、誰かの手に渡ってしまったら?
あぁぁぁぁ。想像するだけで、恐ろしい。
確認するまでは、動けない。命の次に大事なパスが入っているのだ!
しかし一連の出来事で、仕事の時間がギリギリに迫っていた。仕方がない。私は身を切られる思いで、落とし物の書類を書き、現場へと向かった。

現場にはなんとか間に合い、打ち合わせが終了。
ようやく電話をできる状況になった。急いで駅に電話をすると、、、

「はい。確かに、黒いカバンが網棚に置いてあるのを見つけました。」
「良かった~!!!!ありがとうございます!中に、通行証のようなパスは入っていますか?」
「パスですか?・・・あ、これのことですね。大丈夫です。ありますよ。」

「おぉぉぉぉぉ!!!!」
私は、その場に崩れ落ちた。良かった!本当に良かった!
これで、迷惑をかけずに済んだ。あぁ神様、ありがとうございます。

「あ、もしもし?六車さま? あの、念のためにお伺いしたいのですが、
もう一つ、カバンの中に何か入れてらっしゃいませんでしたか?」

「は? パス以外にですか?」
「はい。」

なんだ?
競馬場のパス以外に、何か入れてたっけ???全く思い出せない。

「クリアファイルに入っている書類のようなものですが、、、。」

「あーっ!!!!」

私は絶叫した!!!
クリアファイルに入っている書類のようなもの、それは、
『婚姻届け』だ!!!

「すみません!婚姻届けですか?」
「そうです(笑) お間違いないですね?」
「あぁ。。。すっかり忘れていました!ありがとうございました!」

いやいや、保証人の方にサインを頂き、提出するだけになった婚姻届けを
入れていたんだった。すっかり忘れていた。

「おい、オマエ。その結婚は、本当に大丈夫なのか?」
恐らく駅員さんは思ったことであろう。

うーむ。
確かにこの一連の騒動は、神様からの問いかけだったのかもしれない。
「その結婚は、本当に大丈夫なのかい?」

いやいや、婚姻届けは手元に戻ってきたのだ。
これはやはり、「ご縁があった」ということだ。

いいか、諸君。よく聞きたまえ。
夫婦になるにはな、『縁』が一番、必要なんじゃよ。


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