人間のいちばんの大仕事は「自分をいかして生きる」こと。 新社会人・インターン生に働くヒントをくれる本5選(後編)
私、奥井奈南が「新社会人の自分に読んでもらいたかった本」という観点から選んだ、新社会人にオススメしたい本5選。前回は私と同じキャスター業をしておられた著者2名の本をご紹介しました。
今回は他分野で活躍する大先輩たちの本3冊をご紹介します。仕事でお悩みの方の一助となれば幸いです。
3.ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方 上出遼平
テレビ東京の人気ドキュメンタリー番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」のプロデューサーの上出遼平さんによる本。ビジネス本に分類されますが、冒頭で一般的な仕事術を批判することから始まる、衝撃的な一冊です。
書いてある内容は、現実から目を背けたくなる自分の弱い傷口を、ナイフでエグられているようなものですが、さすが名プロデューサー。言葉選びが芸術的で、読了後はまるで映画やモダンアートを観賞したあとのような美しい余韻に浸ってしまいます。ビジネス本を嗚咽しながら読んだのはこの本が初めてです……。もう一度言いますが、こちらの作品は仕事術の本です。
新人から即戦力で働ける職場は少なく、若手が最初の数年で与えられる仕事のほとんどは雑用に近いタスクですよね。数ヶ月〜数年経って仕事に慣れ、「何でこんな仕事やらされているんだろう」とモチベーションを保つことが難しい時期が来るかもしれません。
上出さんはそんな「雑魚作業」こそ「最高に割りの良い修行」といいます。なぜなら、今後のキャリアで必ず求められる「忍耐力」を簡単な作業を通じ身につけられるからです。
「雑魚作業」を耐え抜き、それなりのスキルを身につけ、周囲からの信頼を得られるようになれば、仕事のチャンスはいずれ必ず訪れます。与えられたチャンスをどんな困難があっても最後まで踏ん張り切り、ものにするためには「忍耐力」が必要になる。
ひとつチャンスを成功につなげられたら、次、そのまた次とチャンスはどんどん舞い込んでくるでしょう。同時に、要求される忍耐レベルもぐんぐん上がっていく。耐えきれなくなり途中で諦めてしまっては、その時点でチャンスの連鎖は止まってしまいます。一見自分以外にもできる、無駄に思える「雑魚作業」は、あなたのキャリアに必要不可欠な能力を身につけさせてくれるのです。
また雑用というのはどの職場にも転がっています。インターン生にも同じことが言えます。それを積極的に拾い、こなしていけば様々な職場を知ることができますし、そこで働く人へ顔を売ることもできます。想像していた仕事内容と違いガッカリする前に、どんな職場でも感謝され、重宝される「プロ雑魚イヤー」を目指してみてはいかがでしょうか。
また、今後長い社会人人生を歩む中で、「自分の仕事は誰のためなのか」と大義を見失いそうになる機会は必ず訪れます。
最初は社会をより豊かにするためだったはずなのに、いつしか自社だけの利益のため、目の前の上司のための仕事に変わっていく。悲しいですが、そんなことは往々にしてあります。
昨今の企業の不祥事の原因の多くは、「仕事は誰のために存在するのか」、大義を見失ったことであるような気がしてなりません。
かくいう私も、キャスターをする番組で視聴者のためを第一で考える反面、番組を支えてくださっているスポンサー企業にとっても良い番組にしたいという気持ちで葛藤することも多いです。そんなときは、「スポンサー企業も一視聴者」という番組の原点に立ち返り、ただ迎合するだけでなく、視聴者同様に番組を通じ気づきを与えられるように意識することを心がけています。
最近は「コスパ」や「タイパ」など仕事の効率化ばかりを重視する風潮を強く感じます。一方、上出さんは「善きこと」「真っ当なこと」をしようと努めることこそがビジネスの成功への近道だと断言します。仕事とは何か、と改めて初心に立ち返るような気分にさせてくれる言葉ですね。
4.苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」 森岡毅
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の再建の立役者である森岡毅さんの著書。将来に悩む地震の子供に向け伝えたい言葉や想いを詰め込んだ一冊です。父から子に語りかけているかのような優しい言葉遣いに、思わずキュンとしながら読み進めました。
就活や転職の際、最も考えるべきは、就職先の会社ではなく、「軸」であると森岡さんは言います。就職活動中、そんな「就活の軸」を聞かれ悩んだ人は多いのではないでしょうか。
残念ながら、その悩みは「キャリアの軸」に変わり、就職後もずっと付きまといます。
仕事が人生の大半を占めるようになり、学生時代に思い描いていた理想のキャリアに違和感やズレを感じることは、ごく自然なことです。一方、そのギャップに悩み、自己否定に走ってしまっては苦しいですよね。
この本のタイトルでもある、「苦しかったときの話をしようか」のメインの話として、森岡さん自身の体験から、このように綴られています。
生活がこれまでとは一変し、悩むのはキャリアについてだけではないかもしれない。職場の人間関係や、周囲の環境、プライベートとのバランスの取り方など悩みの種はつきないでしょう。
こうした変化に戸惑い、自信をなくし、自分の存在価値を見出せなくなって苦しんでいる方へ。「病んでいる」のはあなたが弱いからではありません。
社会人になるということは、言うなれば、「できない自分」と向き合わなければいけないということです。
働いていればこの先壁にぶつかり、悩む機会は多く訪れます。私もNewsPicksのキャスターを始めた頃は社会人になってしばらくした後でしたが、未経験で求められていることが思うようにできず、自分の存在意義を見失ってしまったことがあります。
でも、似たような経験を幾度としてきたことが心の準備となり、自分なりの向き合い方で、新社会人のときと比べより早く乗り越えることができました。今悩むことは自分なりの攻略方法を学び、次の悩みに備えるための欠かせないステップなのです。
なりたい自分の姿と今の自分の限界をしっかりと把握できている人ほど、深く悩みます。しかし、悩み抜いた先で現状を打破するための次の打ち手を見出すことができれば、大きく成長できるに違いありません。
あなたが今不安なのは、あなたが挑戦している証なのです。
5.自分をいかして生きる 西村佳哲
デザインとものづくりの会社「リビングワールド」の代表で、働き方研究家として幅広く活躍する西村佳哲さんの著書。私がキャリアで悩んだときに、必ず本からヒントを得るようになったのは、新社会人のときにこの一冊と出会ったからです。
新卒でアパレル企業に入社して間もないころ、無意識に職場から遠ざかりたいと思っていたのでしょう。大阪府内の会社に向かう通勤電車に乗ったはずなのに、私は気がつくと、勤務先の社員カードを首からぶら下げたまま、石川県の金沢駅にいました。
仕事に戻る気も湧かず、ふらふらと21世紀美術館に足を運んだ際、展示されていたこの本に目がとまりました。学生時代は本を読む習慣はほとんどありませんでしたが、不思議とこの本の表紙に書かれていた一説に吸い寄せられていきました。
この一節を読んだ瞬間、自分が仕事に対して抱いていたモヤモヤが言語化され、目の前の霧が晴れたような気持ちになりました。自分は、自分自身を生かすことができない仕事に違和感を感じていたんだ。このままじゃいけない、と再認識し、ほどなくして辞職届を出しました。
今でも「自分をいかして生きる」は仕事観、人生観の大事な軸になっています。また、この一冊に出会い本の魅力を知ったことで、今回紹介した本たちにも出会うことができました。
漠然とした悩みと不安に悶々とする日々を過ごしている新社会人は多いと思います。せっかく就活を死ぬ物狂いで頑張り、手に入れた仕事なのにどうして自分は前向きになれないのか、と。
そんなふうに自分を責め過ぎないでください。私が悩んだ末に本の魅力に気づけたように、今の苦労がのちの人生の大きな糧になる気づきを与えてくれるかもしれません。
数年後に自分が生き生きと過ごせるための通過点だと思って、新社会人生活を楽しんでくださいね。
構成:大竹初奈
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