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『記事1本書いたくらいで世の中はたいして変わらない』。編集者まむしさんに教わる「取材の極意」とは

先日ライターマガジンが主催する企画『編集者の生存戦略セミナー-取材編-』(3月28日火曜日21時〜)を受講しました。登壇者は、ニュース記者を経てメガベンチャーでWeb編集責任者を務めるまむしさんです。

メディアの編集者視点で、「書くこと」についてのあれこれをフラットな立ち位置で発信されているまむしさん。煽りと感じる表現がなく、自分の中で「はっ!」と気づきになるようなツイートが多々。いつも勉強させてもらっています。

そんなまむしさんが「取材」についてのセミナーをされ、その内容がとても実践的でしたので、noteに記録しておこうと思います。(※10分ほど遅れて受講したたため、はじめのほうは抜けています。ご承知おきください。)

1.記事テーマに沿った取材対象を探す

ある特定のテーマの記事を書こうと思い立ったら、そのテーマに最適な取材対象者を探すことからスタートします。

「働き方改革の解説記事」
ーー 働き方改革に成功した企業の人事

「働き方の成功要因」
ーー 労働環境に詳しい大学教授

「働き方改革の経営戦略」
ーー 働き方改革に成功した企業経営者

※まむしさんのセミナー資料より引用

テーマについて解説した記事について、どんな人が話したり監修していたりしたら、想定読者が関心を持って読んでもらえるのか。それを踏まえた上で、インターネットや新聞など、さまざまな手段で取材対象者を探します。

2.取材を依頼する

企画が通り、取材対象者が決まると、編集者やディレクターもしくは担当ライターが「取材依頼書」を送付します。メールの場合がほとんどですが、電話のときもあります。

依頼文には、取材の趣旨・経緯、掲載する媒体、取材の日時や場所、取材にかかる時間などを、盛り込みます。

なるべくわかりやすく、簡潔に伝えることが大切です。

まむしさんの解説で印象に残ったのが「多くの人にとって“取材を受ける”のは一大事」という内容。

取材依頼書とは、不安を払しょくし、前向きに取材に応じてもらうもの

この観点、個人的に忘れがちになっていたと猛省しました。

ローカル雑誌で取材執筆している私のケースですが、普段の取材アポの流れとして、編集部経由で取材対象者の情報を受け取ってから、電話でアポイントメントを取るという形をとっています。取材対象者は取材を受ける前提でいることがほとんど。なので、私は「電話の相手は、取材を受けるのは当たり前」といった感覚がどこかで持っていたのですね。

でも、初めて取材を受ける方がおられるのは当然。取材当日はどんな流れなのか、どんなことを質問するのか、どんな写真を撮るのか、大方のことを改めて伝えなければいけない。

注力すべきは、お相手に取材への期待を高めてもらうこと。

お相手の立場に立って物事に取り組むことは、どんなプロセスでも大切ですね。

3.取材当日は、取材対象者に気持ちよく話してもらうに徹する

下調べなど入念な準備を経て、いざ取材当日。

いちばん意識しなければならないのは、記事を書くための素材をできる限り集めることです。

そのためには、インタビューイー(取材対象者)に気持ちよく話してもらうことが必要不可欠。

・信頼関係を醸成する
・発言を引き出す
・要点をおさえる
・事実確認を行う
・タイムマネジメントをする

※まむしさんのセミナー資料より引用

最低限、これらを抑えなければなりません。同時進行でこれらを意識して行うとなるとかなりの場数が必要です。これはもう、慣れるしかないですね。

ライターは得てして「想定質問」を準備して取材に臨むのですが、ありがちなのが質問にばかり意識がいってしまうこと。

事前準備した質問を次々にインタビューイーに投げかけると、それは“尋問”になってしまいます。

質問攻め、自分がされたらと思うと想像するだけでしんどい…。

そうならないために必要なのが、場を和ませる「アイスブレイク」。例えるなら、運動前の事前ストレッチですね。

私の場合ですと、お店を経営している方が多いので、当日や前日の天気や取材現場周辺のこと、お店や商品の第一印象やポジティブな感想を、真っ先に、オーバーリアクション気味にお伝えするようにしています。

イメージは、世間話や雑談。ほぼ100%の確率で、するすると流暢に話してくださいます。

あとは、「意見を引き出す」「意見を受け止める」「展開を方向づける」といった3段階に分けたインタビューの姿勢。

冗談を交えながら発言しやすい雰囲気をつくったり、発言した内容を理解したことを伝えるために反復や要約して確認したり、適度な相槌を打ったりするなど、即実践できる内容で必聴でした。

4.取材後は、なるべく早くお礼を伝える

取材を終えると、取材者としてはなるべく早く記事作成に取り掛かりたいもの。

でも、まむしさんはおっしゃいます。「取材対象者は、もしかすると後悔しているかもしれない」と。

直後にこそ、取材対象者の心情を想像することに意識を向けてフォローを入れる大切さを説きます。

<お礼、連絡をしよう>
1.お礼
2.お話の中で、特に印象深かったポイント
3.記事の方向性
4.今後のスケジュール
5.ざっとまとめて足りない質問があれば

※まむしさんのセミナー資料より引用

盲点でした。ここまで意識をめぐらせれば、確かに取材対象者は安心されますね。取材で頂戴した時間に対して、改めて文面でもお礼を伝える。さらに今後のスケジュールもお知らせしておけば、トラブルを未然に防ぐことにもつながります。

徹底した相手への配慮、し過ぎるに越したことはないです。取材後のフォロー、より意識してやっていこうと思いました。

取材は“「直接話して関係をつくること」が不可欠”

超実践的な取材・インタビューの姿勢・技術をシェアしてくださったまむしさん。セミナーの最後に、とても大切なことをおっしゃっていました。

<これから必要とされるのは、取材で人脈が蓄積される人、だと思う>

『誰が言うか」がメディアにおいては大きな影響力を持っているのが今。

「媒体読者とインタビュー相手を引き合わせること」が取材なのだとしたら、読者を代表して聞いたり、取材相手と「長期的な関係」をつくって、いざというときに助け合えるような関係性をつくっていくことが、今後さらに求められるのではないかな、と思います。

インタビュー相手の声を引き出し、その取り組みがさらに前進するように押し上げていくことがメディアの役割。


正直なところ、記事一本書いただけで世の中は大して変わりません。

長期的な視野に立ってそのテーマについて報じ続けるためには、まず「直接話して関係をつくること」が必要不可欠です。「取材で人脈が蓄積される人」になって、市場価値を高めてください。

※まむしさんのセミナー資料より引用

ずしん! 読んだ瞬間、私の胸のど真ん中に矢が突き刺さりました。目から鱗が落ちました。セミナーで涙があふれるだなんて、信じられません。

この最後のスライドに、取材・インタビューの極意が集約されているといっても過言ではありません。

記事を書いて、多くの読者に読んでもらう。一人ひとりの気づきになり、小さく行動を起こしてもらうきっかけにする。これで、メディアの目的は達成されたように思えるかもしれません。

けれど、記事を書いてその内容を広く世に知ってもらうことは、より良い社会をつくる呼び水に過ぎないのですね。

理想とする世界を実現していくために、読者代表として取材対象者と長期的につながり続けること。いざというときに意見をもらえるような関係性でいれば、なにかしらの機会にまた読者に「想い」を届けられます。

「取材して、はい終わり」にしない。
それ以上に、良好な関係性を続けていく。

すべての仕事や人間関係に通じることなのだと、大きく心を動かされました。

このような学びの機会をつくってくださったこと。登壇者のまむしさん、運営のライターマガジンさんに、心からの感謝をお伝えします。ありがとうございました。


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