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子どもの巣立ちと親世代のうつ状態

ecomom連載記事。子育て中のお母さん向けに書いていました。

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非常勤で理科系の小さな国立大学で集中講義。学生数は100人弱。大教室での授業だけれども、一方的に話すだけではたいていの学生は寝てしまう。そこで、なんとか参加型の内容をと思っていろいろやるのだが、感想などを書かせれば書かせるほど(参加度を高めようとすればするほど)実施するがわの負担は増える。

300枚分のレポート用紙
1日3枚書いてもらっただけで300枚近いレポート用紙の束になるわけで、これをチェックし、次の日に備えて読むという作業はなかなかのものがある。けれども、最近の若者と呼ばれる彼らが、彼らなりにいろいろ考えていたり、感じていたりするのを見聞きすることは、こちらにとっても瑞々しい新鮮さを感じる。

たとえば、今日、感じたことを書いてもらったりすると「からりと晴れて、空を眺めて気持ちいい感じ」「掃除と洗濯をしあげてすがすがしい感じ」「料理がうまくできてうれしい」のように、学生さん、かなりがんばって一人暮らし、寮暮らしを送っている。「夏休みが早めに終わり、家から離れてちょっとさびしい感じ」「久しぶりの授業なのでついていけるかな、と不安な感じや焦る感じ」

なかなか、濃やかな感情表現。男子学生が多いせいもあって、もっとゴツゴツした感情が多いのかなと思ったけれども、今年の学生さんたちは穏やかな印象。

成人後期についての授業
授業のなかで生まれてから死ぬまでの発達をみていく授業で、成人後期と言われる中年の時代の解説をするときに学生たちが真剣そうな顔になる。成人後期、この時期、子どもがいるとしたら、ちょうど大学生になる年頃だ。

この時期は、親たち世代がうつ状態に陥りやすい時期でもある。人生の峠をこえて、子どもたちが心理的にも実質的にも巣立っていく。夫の定年などが見えてくる。両親の老いを感じ始める。自分自身の老化に直面する…など。これまでの人生、「できなかったことができるようになる」ことを続けてきたとすれば、「できていたことができなくなる」という体験をしはじめる時期でもある。体力にまかせての暴飲暴食ができなくなる。徹夜にめっぽう弱くなる。視力が衰える…などなど。こう書くとなんだが元気がなくなってきてしまうのだけれど、この体験はそう悪い面ばかりでもない。自分にやさしくなるきっかけともできるのだ。

これまで「完璧であるべき」「もっと効率的であるべき」「しっかりするべき」と叱咤激励しながらがんばった、あるいはがんばりすぎた部分に対して、「このままじゃ、続けるのが大変だよね」「よくがんばったよね」とヨシヨシできるという、大人な態度を醸す時期。

例えば、学生たちに自分に対して「~あるべき」でがんばっている部分について書いてもらった。すると、「単位はとるべき」「時間をきっちり守るべき」「親に感謝するべき」などが出てくる。「~すべき」という縛りが自分をがんばらせたり、目標を持ってそちらに向かわせたりする言葉として働いている。

けれども、この叱咤激励対応だけが行き過ぎると「きちんとするべき」なのにできていない自分を攻撃してしまったり、高すぎる目標を設定するせいで、いつも到達できない焦燥感にかられたり、ということにもなりかねない。気分が落ち込む、というような場合、自分のなかの「~すべき」と考えている部分を見つけ出し、「~にこしたことはない」「~だといいな」ぐらいの言い方に緩めてみると、案外落ち込みから戻ってくることができるとも言われている。学生時代から想念を経て、成人後期あたりには、自分に優しくする術を手に入れておく必要がある。

学生たちに「皆さんの親たち世代は、今、うつになりやすい時期だからね」と伝えると半分眠りながら聞いている子も、一様に神妙な顔つきでこちらに目を向ける。子どもたち、二十歳ぐらいになっても親のことが大好きで大事で心配なんだな~と感じ入る授業なのでした。

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