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オンラインでグラフィック事例検討会をしてみた話【保健師伴走活動】

こんにちは。ななと申します。
育休中の保健師で、現在グラフィックレコーディング(グラレコ)で保健師に伴走する活動をしています。

今回は、「グラレコで事例検討会をしてみたら、どんな化学反応が起こるか?」を実験してみたので、その一部始終をまとめてみました。

【背景】なんでグラレコで事例検討会をやろうと思ったの?

グラレコを始めてすぐ、グラフィックファシリテーション(略:グラファシ)という手法を知った私。

・組織やコミュニティ内の共通認識を円滑に生み出す手段として誕生。
・線や色、線のゆらぎを使ったファシリテーションで、「場」がどれだけ活性化し深まったかが重要。

山田夏子「対話とアイデアを生むグラフィックファシリテーションの教科書」

要は、グラフィックで「見える化」することで、「話し合い」を活性化させる方法。

ゆくゆくはグラファシのスキルも身に着けて、保健師活動に活かしたいと思っていた私は、こちらの本を読んで勉強していました。

そこで、グラフィックファシリテーションを導入して、患者さんとの対話会を開いた製薬会社の事例を発見。

対話の内容をグラフィックとして表現することで、その場にいるすべての人が、患者さんの気持ちに寄り添い、自分の経験や記憶の中にある痛みや孤独、くやしさや無力感といった「痛み」を共有できたそう。

そしてこれを機に、製薬会社の社員さんの働く背中が変わったらしい。
自分の働く意味に確信を持って働きだしたそうです。


「これ、保健師の事例検討会に活かせるかも。」


グラフィックによって、今までの事例検討会で浮き彫りにできなかったところが浮き彫りになるかもしれないし、参加者の腹落ちが深まるかもしれない。
役割の押し付け合いだった事例検討会が、支援者各々が主体的に支援に関われるようになるかもしれない。

ということで、保健師LIVEのゲストでお話したときに「やりたーい」と喋りまくったところ、一緒にやってくださる心優しき方々に背中を押され、始動したのでした。

【事例検討会の現状】「事例検討会をやっていない」が6割?!

早速、一緒にやってくださるメンバーとグループを組んで、各々の所属での事例検討会についてヒアリング。

そしたら、
「事例検討会は皆無で、毎月事例報告会をするのがやっと。」
「みんな余裕なくて、先輩保健師も少ない中、ケースを1人で抱えている」

なんと!事例検討会をそもそもやっていない!
私の所属では毎月1回事例検討会が当たり前だったので、結構衝撃でした。

そして恐る恐る、Twitterでアンケートをとってみた結果がこちら。

Twitterでのアンケート

ぎょ!6割が「やっていない」という回答に!

また、ヒアリングでは、
「いつも先輩方の否定的なご指導にびくびくしていた。」
「ただの重箱の隅をつつく検討会」
という意見も。

事例検討会にポジティブな印象を持っている保健師は少ないのかも。

もっと、ライトに事例検討会ができるように、グラフィックで活路を見出したいと思いました。

【目的】まずは、「事例検討会って楽しい!」って思ってもらいたい

まずは、保健師の事例検討会自体への心理的ハードル軽減したい。

事例提供者を責めるのではなく、悩みの共有や労いができる場づくりを意識したい。

この経験が現場で積みあがっていくことで、1人で抱え込まない風土やみんなで育ちあう環境がつくれるのではと思いました。

また、検討する事例に対しては、対象者のアセスメントの深め、支援者の役割等の整理できること、自立支援に向けた支援策の検討できることをゴールにしたいと思いました。

【方法】みんなで話そう!みんなでつくろう!

ヒアリングの中で、事例検討にもいろんな方式があることが発覚。

今回は、アンケートで最も回答数が多かった、日本看護協会の「実践力UP!事例検討会」をベースにつくることにしました。

https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/hokenshido/2014/jireikento_report01.pdf

日本看護協会は、板書を活用して共通認識を促すことを大切にしている方式。
今回は、オンラインで実施のため、手元にスマホカメラを設置し、紙とペンで書き書きすることにしました。

そして、グラフィック事例検討会(略:グラケン)スタート!

今回は、架空事例を作ってやってみました。

情報の整理の段階では、主に以下の3点を意識して書いていきます。

  • 家族中心に情報を整理

  • 情報を色分けで整理

  • 主張や意見は吹き出し

最初に事例提供者の方にばーっとしゃべってもらって、私がときどき「これってこうですか?」と確認しながら描いていきました。だいたい20分くらい。

その後、参加者からの質問でさらに追記していきます。これが10分くらい。

30分くらい情報の整理に使って、こんな感じに。(事例は架空の事例です)

グラレコで情報の整理

次に、アセスメントと支援策の検討。
zoomのホワイトボード機能を使って、参加者全員で書きこんでいきます。

zoomのホワイトボードってすごいんです。今回は主に付箋機能を使って、書き込んでいきます。

アセスメント、支援策の検討を、シンキングと発表を合わせてそれぞれ15分。
ファシリが付箋の意見を拾ってグルーピングしながら、支援の方向性を整理して終了。


付箋機能を使って、アセスメントと支援の検討

事例検討会自体は、全体で60分間でした。

【結果】心理的ハードルは軽減!でも現場に持ち帰るのは壁あり。

今回、運営メンバーも含めて10人で事例検討会を行いました。
保健師以外にも社会福祉士さん1名にもご参加いただき、私とスーパーバイザー除き、7人にアンケートをお答えいただきました。

(1)満足度


まずは、満足度。とても満足が100%。わーい。

【アンケート】グラフィック事例検討会に参加してみての感想
  • グラレコを事例検討に使用するということに興味を持って参加させて頂きましたが、グラレコだけでなく、事例検討会そのものについても、たくさんの学びを頂き、大変有意義な時間を過ごすことができました。

  • リアルタイムで見える化することで、とてもわかりやすかったです!

  • シンプルに楽しかった。自分にとって事例検討は準備が大変・緊張する・責められそうというマイナスイメージが強かったが、心理的安全性が保たれてて、グラレコでイメージも膨らみやすかった。

  • 事例のイメージが可視化でき、みんなと共有できたから

  • 事例検討会がどういうものなのか、どういった効果を参加者にもたらすのか身を持って体感できた。今回やっていただいた内容をベースに、職場でも展開していきたいと思います。

「可視化」と「事例検討会へのイメージの転換」がキーワードですね。

(2)グラフィック事例検討会の効果を感じた部分

次に、グラフィック事例検討会の効果を感じた部分について。

【アンケート】グラフィック事例検討会の効果を感じた部分

やはり、心理的ハードルが下がったみたい。本当によかった。

その他の意見として、

  • 発言を見える化することで、どの人の意見も同じように大切に扱って貰えている、と思える安心感があった。

  • 支援の方向性を明確にできました

  • 情報が増えてく→イラストが増えてく→イメージしやすくなる→色々聞きたくなる

  • 事例のイメージがしやすかった

がありました。やっぱりグラフィックに表現すると、イメージしやすくなって議論が活性化するようです。

(3)普段の事例検討会との比較

普段の事例検討会と比べてみると…、よかった!!ありがとうございます!

【アンケート】普段の事例検討と比較しての所感

どこがよかったかというと、

【アンケート】普段の事例検討会と比べてよかった部分

グラレコの要素だけでなく、雰囲気も大切。

その他の意見として、

  • 事前に時間配分を教えていただけていたので、見通しが立ちやすく、メリハリのあるものになっていたと感じた。

  • 視線がホワイトボードに集中する

  • みんなが発言できる。みんながグラレコの方見て話聞ける。グラレコで事例をイメージしやすい。

がありました。ふむふむ。視線は新たな発見。

(4)グラフィック事例検討会の現場での実践

一方、今回の事例検討会を現場に持ち帰りたいと思うかについては、実践が難しそう。

【アンケート】グラフィック事例検討会を現場に持ち帰りたいか
  • 上司へ相談をして、今後場面ごとに違うモデルを利用できれば良いと思います。

  • 今の部署が事例検討の機会がない

  • 持ち帰る場所がない…悲しみ…

  • 事例をグラレコで仕上げていく過程が難しい

環境面もだけど、やっぱりグラレコ自体へのハードルもあるのかも。

(5)ブラッシュアップできそうなポイント

他にも、心優しき参加者の皆様にたくさんご意見いただきました。

  • 全体を見ようとすると、描いていただいたグラレコがだんだん小さくなってしまうので、チャットで途中グラレコの画像を共有してもらえたら、自分で保存して開いて見たりもできるかなと思いました。

→ホワイトボード機能を使って、付箋をどんどん貼っていくと、グラレコも付箋も小さくなっていきましたね。情報の整理が終わった時点で、参加者の手元にグラレコがわたるような工夫が必要だと感じました。

  • グラレコをすることで、とても見えやすくなりますが、家族の中で誰に焦点を当てるかが重要になるかと思いました。 また、継続して事例検討をすることで他の家族に対しても焦点を当てて、問題解決に向けた糸口が見える気がしました。 いずれにしても、グラレコ最高!!!

→今回、アセスメントの時間が短く、また「何についてアセスメントするか」の議論やアナウンスがなかったため、焦点がぼやっとしてしまいました。目的の整理と、構成の検討、ファシリスキルの向上をしていきたいと思いました。(グラレコ最高はめちゃくちゃ嬉しい)

  • 本人の気持ちや発言を吹き出しにして表していたのが分かりやすかった。重要な情報は太いマーカーを使用していて分かりやすかった。家族や支援者との関係性は矢印がギザギザだったり点線・太線だとより関係性が見えやすいと感じた

→グラフィックの表現の幅を増やすことで、関係性がより見える化しますよね。これはぜひとも次回やっていきたい。

  • グラケンを現場に落とし込みたいというところが最終ゴールとするならば、現場の状況(やり方を変えにくい)を聞くと、やはりある程度の形を確立して学会などで認知してもらうのが必要なのかもなー思いました。そこまでのスモールステップの設定も色々考えられそうですし、ワクワクしますね。現場の事例検討ができないっていう課題にもアプローチしていく必要性も感じました。とにもかくにも色々これからもプロトタイプや検討していきましょう!!

→事例検討会が実施できるかの問題は、人材育成の課題にもつながっていますよね。事例検討会を入口に、現場の育ちあいができる環境にアプローチしていきたいと思いました。

  • 対象のイラストは何種類か用意されてると取り組みやすい。

→あらかじめテンプレートみたいなものがあると、ハードルが下がるかもしれませんね。

  • 職場で事例検討会を行ったことがなく、ほぼ初めてな感じで参加しましたがとても良かったです。 冒頭で提示していただいた看護協会の手引を読んでみましたが、まさにこのグラフィックを用いた事例検討が的を得ていてすごく良い取り組みだと驚きました。 なかなかグラフィックを用いるというところにハードルはありますが、今回やっていただいた検討会をベースに職場でも実践していこうと思いました。また開催していただける機会を楽しみに待っております。

→グラフィックへのハードルについては、「実はそんなに難しくないよ」という会を別途設けたいなと思いました。色分けや吹き出し、図を使うこともグラフィック!イラストもコツをつかめば意外といけます。グラレコ研究会したいな。

  • 事前にテーマと登場人物、困りごとなど大まかな情報をあらかじめ書いておいてからスタートするとアセスメントの時間をより確保できると思いました。さらなるアップデート期待しています!

→時間配分は、今回ブラッシュアップしたいと思ったポイントでした。リアルタイムで書くと良い部分を吟味して、有意義な時間配分を模索していきたいです。

みなさん、本当にありがとうございました!

【考察】満足度の高い事例検討会にはいくつか要素がある。やれることからやってみよう。

さて、アンケートや感想から、今回の満足度に繋がる要素を整理してみます。

キーワードは、「1つの媒体」「グラレコ」「付箋」「メンバー(グラウンドルール)」。

今回、満足度に繋がった要因として、「参加者の共通理解を促進できたこと」「参加者の心理的安全性が保たれたこと」の2点があると思います。

これらの構成要素のキーワードは、「1つの媒体」「グラレコ」「付箋」「メンバー(グラウンドルール)」

満足度の高い事例検討会の構成要素
  • 1つの媒体

ホワイトボードや紙など、参加者が一つの媒体を追うことで、事例の全体像を同じ認識で共有できました。
また、参加者の視線が事例提供者ではなく、媒体にいくことで、事例提供者も負担が軽減できたと考えられます。

  • グラレコ

グラレコを取り入れたことで、対象をイメージしやすくなったとの声がありました。視覚的にパッと入ってきますよね。
特に、登場人物の感情がイラストにされていると、イメージしやすいとのことでした。
加えて、事例提供者がグラレコに合わせて説明速度を調整するため、副次的に、参加者の理解が追いつきやすいというメリットもありました。

「1つの媒体」「グラレコ」は主に、参加者の共通理解促進につながったと思います。

  • 付箋

普段の事例検討会は、発言するときに挙手するのもおどおどしてしまうもの…。
付箋に書いておけば、手をあげなくてもファシリが拾って指してくれることは、参加者の安心感につながったと思います。

  • メンバー(グラウンドルール)

オンラインとはいえ、普段からTwitterを中心にやりとりしている気心知れたメンバーでやれたというのは大きいです。
あらかじめ、グラウンドルールを確認し、それが守られている空間だからこそ、意見が出しやすかったのではないかと改めて実感しました。

「付箋」「メンバー(グラウンドルール)」は、主に心理的安全性に貢献したと考えられます。

現場で実践!まずは、やれることからやってみよう。

今回の事例検討会、いきなり全部現場に持ち帰るのは正直ハードルが高いと思います。

そこで、現場の状況に合わせて、できそうな要素から持ち帰ってみるのはいかがでしょうか?

ハード面やスキル面の状況に合わせてもよいです。
「グラレコはハードル高いけど、とりあえず付箋でぺたぺた貼るのからやってみようかな。」
「職場に模造紙あったかも。そこに今度は書いてみようかな。」

いつもの事例検討会で感じていた課題に合わせてもよいです。
「自分の所属でやるのはドキドキするけど、グラウンドルールを置いてみたらどうなるかな。」
「他機関とやる事例検討会、齟齬が多いな。一緒に書きながらやってみたらどうかな。」

なんだっていいんです。できることから、実験してみてほしい。
実験してみることで、「もっとこうすると良いかも!」が生まれるし、仲間をつくれるかも。

事例検討会を機に、組織全体で学び合う環境ができたらなという願いがあります。

【今後の展望】ブラッシュアップして、実践者を増やしたい。

アンケートで頂いた感想をもとに、ブラッシュアップして、グラケンを継続していきたいと思います。

そして、事例検討会って面白いと思ってもらう人を増やし、個々のアセスメント能力も向上していけたらなと。

今後は、より多くの人たちに参加してもらうためにも、保健師インフルエンサー集団(笑)が運営する、保健師オンラインコミュニティONE DOORの枠で定期的にグラケンをやっていきたいと思っています。

ご興味がある人は、ぜひTwitterでDMください~。(@nana_hkns)

レッツ!グラケン!