マガジンのカバー画像

約1ページの物語

9
運営しているクリエイター

#小説

深夜宅配、後

深夜宅配、後



 荒木は腕組みしながら封筒を睨み付ける。
一体何を送ってきたのだろうか。蛍光灯に透かしてみるが、見えるはずもない。

中を確認しよう。いや、しかし…。
手をかけては辞め、を繰り返した。

 わざわざこの時間を指定し直接手に取らせたのは、別れる決定的な物を送ってきたからではないだろうか。そう思うと中々開ける覚悟が決まらない。
 一緒に暮らしている頃は何かと仕事を優先しては、よく怒られたものだっ

もっとみる
深夜宅配、前

深夜宅配、前

 インターホンが鳴った。
 既に日付を越えてから二時間は過ぎている。こんな時間に誰が来たのかと怪訝な顔で画面を覗きこんだ。

 そこにはにっこりと笑みを浮かべる見知らぬ男が立っていた。
 …部屋を間違えたのか。踵を返しソファーにどかりと腰をおろす。

 もう一度チャイムが鳴った。画面の中の男は、相変わらず笑みを絶やさずに立っている。
 間違いに気づいていないのだろうか。どちらにせよ、このままチャイ

もっとみる
レンズ越しの月

レンズ越しの月

夜風に誘われるようにして外へ出た。
周辺の民家は寝静まっており、世界が自分だけになったかのような錯覚に浸る。
(気持ちがいい、夢の中みたいだ)
そんな心地よさも、時折通るタクシーに現実へと引き戻される。

荒くガスを吐き散らしていく後ろ姿から、空へと視線を移す。
0.1ミリのレンズが溺れた夜は、ひどく色褪せてみえる。

ため息をついて、また歩きだした。

(いいね、夜。朝日が昇れば消えられる

もっとみる
美しい脚

美しい脚

私は脚をよく誉められる。
世に言う"美脚"の条件を全てクリアしているからだ。雪のように白い肌に、無駄のない筋肉。細すぎず太すぎない。惚れ惚れするような脚だ。

今日も私は惜し気もなく素足をさらす。
美しい脚は常に浴びるような視線を受ける。

しかし、私は動けない。
自由に歩くことは出来ないし、よい気分だからとスキップをすることもできない。
一度でいいから自分の好きな服を着て、外に出たい。
こんなと

もっとみる