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深夜宅配、後
◇
荒木は腕組みしながら封筒を睨み付ける。
一体何を送ってきたのだろうか。蛍光灯に透かしてみるが、見えるはずもない。
中を確認しよう。いや、しかし…。
手をかけては辞め、を繰り返した。
わざわざこの時間を指定し直接手に取らせたのは、別れる決定的な物を送ってきたからではないだろうか。そう思うと中々開ける覚悟が決まらない。
一緒に暮らしている頃は何かと仕事を優先しては、よく怒られたものだった。
そういえば、出ていった日もそうだ。
結婚記念日にはプロポーズをしたレストランで食事をしようと約束していた。しかし、予約を後回しにしてしまい気がつい時には満席に。
ではせめて家で一緒にディナーをしようと言っていたのに、それさえも仕事を優先し、一段落して帰った頃にはすっかり日付を越えていた。
家に着いたときには、妻の姿はなく。"しばらく一人になりたい"と書き置きが残されていた。
思い出してはため息をつく。妻なら許してくれるだろうと蔑ろにしてきた日々。それでも、愛してるんだ、とせめて言葉にしていれば何か違ったのだろうか。
…今更考えても仕方がない。
意を決して封を切るが、中を確認するに至れない。年甲斐もなく手が震えてしまう。
「あっ…」
あまりの震えに封筒を落としてしまった。
落ちた衝撃で顔を出したのは、見覚えのある緑の届け出だった。
息をのみ、封筒を逆さまに振る。小さな洋封筒が出てきた。封はされておらず、中には手紙が入っているようだ。届け出には妻の字で名前が記入されている。後は自分の欄が空白になっているだけだった。
頬を後悔が伝う。同封された手紙を読む気にもなれない。
遅かったんだ。半年の期間のうちに連絡をとっていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。そもそも、仕事ばかり優先していなければ…。
謝ったところで、もう許してはもらえないのではないか。そう思うと連絡をとることが出来なかった。
妻から別れの言葉を聞くのが恐ろしく、ここでも後回しにする悪い癖だ。
止めどなく溢れる後悔が頬を伝う。
どうして急に送ってきたのだろう…。
そう思い、日付を確認した。
…そうか。
妻の考えを思い、自嘲的に頬がつり上がる。
「最高のプレゼントだな」
そう呟くと、ベランダへゆっくり歩いていった。
ピー――留守番電話サービスに接続します。
"あ、もしもし。私だけど。
どうせあなたのことだから、自分の誕生日なんて忘れてるんでしょう?
その…良かったらお祝いに食事でもどうかと思って例のレストランの食事券を送ったの。
どうしても当日送りたかったんだけど…。
連絡が前後して驚かせたかしら?
もし、もうあなたにその気がないなら、離婚届にサインして提出して頂戴。
私は…もう一度やり直せたら嬉しいわ。
…。お誕生日おめでとう。またね"
開いたままの窓から風が吹き、手紙がぱさりと音をたて床に落ちた。
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