見出し画像

ジェンダーギャップが解消されるとどんな職場になるのか ~日経新聞Women@Workによせて

9月7日(月)日経新聞 Woman@Workの記事をしみじみと呼んだ。安倍政権の8年間のダイバーシティの取り組みが網羅的に紹介されている。

記事によると女性の就労人口やM字カーブの解消には大幅な改善がみられたとのこと。確かに、8年前と比べると時代の空気も相当変わったように感じる。一方で、女性管理職比率や国会議員比率、所得差の解消は遅れており、ジェンダーギャップ指数は2012年の101位から2019年には121位に下落した。これはこの8年間の是正のスピードが他の国よりも遅かったことを示している。

私自身は、日本でも有数のジェンダーギャップが少ない企業で働いているため、ジェンダーギャップが解消されている会社とそうでない会社の感覚の違いは相当開いているんだろうな、と想像する。個人的な体感としては、ジェンダーギャップを解消すると、まわりまわって管理職の抱える悩みは解消しやすくなる、これが私の実感だ。

上層部の会議が活性化している

これは実は、男性の執行役員の感想だ。私自身が昇格して経営陣の一員になった時、他にも同時に女性が昇格して30%を超える状態になった。その前から経営陣の一員だった男性が、「突然、前向きな議論ができる空気になって、会議の質が格段に良くなった」と驚いていた。私が思うに、女性比率を挙げたというのはあくまで表層的なことであって、その場に貢献できるプロファイルの人を着任させた、ということが大きいと思う。女性比率をあげる、という目標を満たす意図だったが、結果として、適材適所になったということだ。いずれにしても、女性比率を上げることによるメリットを周囲が実感できたのは無意識のバイアスを打ち消す良い効果になっている。

よく「能力を満たさない女性を昇格させるのは良くない」という意見があるが、これまでは「能力を満たさない男性を昇格させる」ということもまかり通っていたのが現実だ。男女限らずそのポジションの期待値を満たす人材を割り当てる。これはそんなに簡単なことではないので、組織の成熟度も求められるだろう。女性比率を上げるというきっかけで、無意識のバイアスが是正されて適材適所の配置が活性化するのは良いことだと思う。

要職の男性が育休を取ることで組織作りが活性化する

うちの職場は外国人もかなりいるのだが、現場の要になるようなポジションで活躍する若手の外国人男性も多い。特に専門性が高い領域ではタレント不足が著しく、男女だけでなく国籍などのバックグラウンドで振り落とす余裕はないのだ。

外国人男性は母国の感覚で、育休を取得する。日本人の感覚だと「この忙しいときにあり得ない」というタイミングでも取得する。しかしながら、周囲も当たり前のように「しょうがないよね。どうやって穴を埋めようか」という手当をする。数か月前から事前に予定を組んでいれば、最悪何とかなるものだ。育休の期間に業務が多少滞ったり、不手際があったとしても「しょうがないよね」と受け止めていく。それをきっかけに、「今後は個人に依存しないように組織を強化しよう」「バックアップになる人材を育成しよう」という取り組みが始まっていく。男性の育休を皮切りに組織作りが始まるのだ。

管理職である自分の感覚としても、世の中ではメンタルヘルスなどで突然出社できなくなるような事例が珍しくない中で、「突然出社しなくなるくらいなら、前もって計画して休んでもらった方が何倍もマシ」と思っているし、むしろ優秀な人が他社に引き抜かれて突然退職することも起こりえる。それに比べたら、前もって予定を決めて復職してくれる人を迷惑がる妥当性はないと思う。

もちろん仕事量が一定で人員が減ると一人当たりの負担が増える。ただ、そういう時にこそ、これまで惰性でやっていた業務やしがらみで続けていた業務を取りやめるべきだ。会社には「何となく続けているけど、やめても誰も困らない」という業務は結構ある。そういうものを管理職が率先して取りやめるとメンバーも受け入れやすくなるはずだ。(こういう点が管理職の腕の見せ所でもある)

そういう点では、育休取得などはいかようにでもハンドリングできるのだが、自分のチームで、(家庭の事情で)育休を取ろうと申し出た男性が、とても申し訳なさそうにしていたり、評価に影響するのを恐れていたりするのを見ると、「男性もジェンダーギャップに苦しんでいるな」と思う。

管理職になることに抵抗感のない女性が増えている

自分も若手のころ管理職になるのを断ったこともあり、女性の「自分には管理職はできない」という先入観がどれだけ強固なのかは身をもって体験しているが、そういうリアクションをする女性は減ってきているように感じている。さまざまなプロジェクトが乱立するなかで、経験者をリーダーに割り当てることができなくなり、リーダー経験のない人にチャンスが回ってくることが増えた。そんななか、「管理職になることなんて考えられない」と言っていた女性が、大きな成功体験をしたり、プロジェクトのリード役をすることで、「管理職になるのも一つの選択肢」とフラットにとらえるケースが増えた気がしている。いきなり管理職になるのではなく、プロジェクトリーダーなどを通じて適性を感じることができれば、管理職予備軍となる人材は男性と同様の水準に上がっていくと確信している。

タレント不足に悩んでいるならダイバーシティ推進は強力な手段

これだけ変化が激しく競争が激化している世の中で、有能な人材をどれだけ集められるかは死活問題だ。有能な人がいたとしてもその人に仕事が集中するような頭数だと、長期的にはその人に依存する体制になって、いずれは組織が弱体化してしまう。有能な男性にとっても、常に業務が集中する状態が続いていると、分業できるなら肩代わりしてくれるのは男女問わないという人も増えていくだろう。もちろん、有能で仕事にフルコミットできる男性でも、ある時家庭環境が変わったり健康状態が悪化したりして、それまで通り働けないリスクと隣り合わせなのだ。だから、人材のプールは多いに越したことはない。

実際私の職場でも、人手不足と業務過多が極まったタイミングで、ダイバーシティに関する意識は急速に進んだと実感している。性別・国籍などのバックグラウンドにこだわっている余裕はないということを身をもって感じるのだ。

逆にいうと、女性に地位を脅かされるとか、男性リーダーにこだわっているのは、組織に人員の余剰があるということではないか。中にいる社員にとってはそれでもいいかもしれないが、会社の将来性にとってはリスク要因だ。いずれ日本全体が労働力不足に陥るのは目に見えているので、有能な人材はますます取り合いになるだろう。そうなった後に、ダイバーシティについていけなかった大企業が弱体化するのは日本経済にとって大きなリスクだと思う。

いただいたサポートは、他のクリエイターの方へのサポートに使います✨