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「ジョブ型雇用 日本の論点(上)」~ジョブ型でも育成は必要

日経新聞8月27日朝刊の記事について感じたことを書こうと思う。

私自身は長いこと外資系で働いていて、ジョブ型雇用の世界にどっぷり浸っているので、ジョブ型雇用に対して不必要な恐れや誤解があるという風に感じることが多い。記事によるとジョブ型雇用の全面展開をためらう企業もあるという。

記事にあるとおり、日本型雇用の象徴的な育成方法はジョブローテーションを通じてゼネラリストを育成するというものだ。一方で、ジョブ型雇用における育成については「即戦力(なので育成をしない)」というように読み取れる。私はここに違和感を感じている。むしろジョブ型雇用を適用すると、配置や育成に関する高度な知識とスキルが必要になるのが実感だ。

ゼネラリスト育成を全面廃止して、ジョブ型に適応したスペシャリスト育成に100%シフトすると思っていないか

これがまず、記事を読んで違和感を感じた点である。私自身が実際に組織の長として感じるのは、ここまで極端にする必要はないし、スペシャリストのみに振り切るのは、むしろ弊害もあると思っている。むしろジョブディスクリプション上、ゼネラリストを意図したジョブを作るべきだし、そのための育成も必要だと思う。

実際、ゼネラリストの適性がある人、スペシャリストの適性がある人、それぞれの個人によって資質が異なるのは、現場で育成に取り組んでいる肌感だ。会社が個人の活用を最大限しようと思ったら、両方のキャリアパスを用意すべきだし、その方が多様性のある人材のチーム編成ができる。とりわけDXなどの全社プロジェクトのようなケースだと、むしろメンバーの中にゼネラリストがいた方が、職能部門間の調整がしやすいように思う。

個々人の資質を見ていても、誰もがゼネラリストとして活躍できるわけではない。むしろジョブ型雇用でスペシャリストのキャリアパスを用意したほうが、ゼネラリストとしてパッとしなかった人材がスペシャリストで輝くということが起こりうる。自分の実体験からしても、間違いなく嬉しい驚きがあると確信している。

一方、ゼネラリストというジョブを明示的に作ることで、ゼネラリストの付加価値について、よりプロフェッショナルなスキル構築が可能になるだろう。さまざまな部門経験による人的ネットワークや業務の土地勘だけでなく、ファシリテーションや利害調整などの特殊スキルを意識的に足していくことで、より優秀なゼネラリストを育成することも可能なのだ。


スペシャリストはそのジョブ(ファンクション)に永遠にとどまらなくてはならないと思っていないか


二つ目に、一度スペシャリストとして特定の職務領域に進んだら、それ以降ずっとその領域にとどまるという先入観があるような気がしている。確かに、専門領域をはじめから決められないケースはたくさんあるし、一度決めた後に適性がないことが分かるケースもあるだろう。これが、ジョブを選ぶことに躊躇いを感じてしまう理由なのかもしれない。

もちろん一度特定のジョブについた場合、その領域の専門性を高めていくことになるわけだが、それでも「ポータブルスキル」と言われる、どの仕事でも必要になる共通スキルというものは存在する。例えばロジカルなコミュニケーションや、段取り能力、数字を扱うスキル、後輩・部下の育成などは、どの職務領域でも必要になる。究極的にはこのポータブルスキルがないと大きな結果は出しづらいのだ。

このポータブルスキルが十分備わっていれば、他の職能への配置転換は割とスムーズにいく。長いキャリアの中で、適性とのマッチングや本人の指向性は変化していくし、経営課題に応じて配置転換が求められるケースも出てくるだろう。だからこそ、専門性とポータブルスキルをバランスよく身に着けることは非常に重要だ。仮に違う職務領域に異動することになっても変化に適応しやすくなるし、特に近接領域(ファイナンスとアカウンティングなど)でのキャリアチェンジにはスムーズに適応しやすくなる。これにより会社にとっても配置のフレキシビリティが増すのは間違いない。

現業の管理職へのサポートは欠かせない

こうなると、現場の管理職に対しても、職務に求められる資質の言語化や、適性の見極めという高度なスキルが必要になってくる。もちろん人事部門の支援も欠かせない。HRビジネスパートナーという制度があるが、各部門の職務に明るい人事担当がいれば非常にパワフルだ。私もHRビジネスパートナーに日々支援をしてもらっているが、管理職が人材関連の悩みを一人で背負ってしまうと業務に支障が出てしまうし、この領域はオープンにできない話もあるので、相談相手がいるだけでも精神的な負担が軽くなるものだ。

日本企業ではこれまで人材育成について可視化・言語化・形式知化が弱いのかもしれないが、ここを強化すると組織のパフォーマンスやモチベーションアップに多大な効果ある。先入観なしにジョブ型の良い所を取り入れる企業が増えていくといいと思う。


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