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小説『集落街』無料試し読み その1

 ※この小説には暴力的な描写がごさいます。そういうものが苦手な方は、お手数ですがブラウザバックをお願いいたします。


プロローグ 

 そこには絶対部外者は入ってはならない。

  そこが〝敵〟と判別したら、情け容赦なく攻めたてる。そこを舐めて かかった奴は、チンピラにボコボコにされ、女なら犯され・男はホモの餌食。穴という穴を使われ、二重の暴行を受けた後は追剥ぎに遭い、悪趣味な解剖屋に持ちかえられる。その後は海か山か、〝処理〟をされた上で放り 出されるか。放り出されることが幸運かどうか、その後の人間のありさまを見れば判断がつくだろう。明らかに頭を弄くられたそいつは、そこが関係している金融屋の、上限ぎりぎりの利子を払うために、一生を費やす。睡 眠が満足に取れないばかりか、定期的なフラッシュ・バックによって発作を起こす。だが、肝心のことが思い出せない――何故自分が借金をしているのか、何がきっかけでこうなったのか、何に怯えているのか。全く、思い 出せない。だから、誰にも話しようがない。友人がそんな有様になったことを知ってしまった場合、警察に言っても無駄だ。理由は、知らない方がいい。

 といっても、そこにはそう簡単に入れない。そもそも地図に描かれていないし、 三方が海に囲まれていて、唯一の出入口には執拗なバリケードがされている。旅行中に運悪く突き当たったとしても、見なかったことにすればいい――といっても、観光地ではないから、日本に来たい外国人は、過剰な心配 はしなくていい。

 好奇心に負けそうな場合、出入口で本を読んでいる角刈りの老人の忠告を聞けばいい。出入口に家を構えている彼は言ってくれる、「見ない顔だな、ここは立ち入り禁止だ」と。この忠告を鼻で嗤った人間は、先ほど 言った目に遭う。黒塗りの車が通り過ぎていくのを眺めながら、「だから言っただろ」と、何もなかったかのように彼は本のページをめくる。

 そこに隣接する町の近隣住民のスタンスは一つ、「知らぬが仏」。一切知らないフリをする 。勘付いても、絶対に言葉にしない――向こうから関わってくることはないのだから、何も自分の命を不安定にさせるメリットはない、と。この前、現実を知らない大学生のカップルがうろついていたが、ああ、馬鹿な奴が 来たな、と忠告しなかった。そして、その大学生のカップルは、それ以後姿を消した。

 そこに住んでいる人間は、自分たちの居場所を〝街〟と呼ぶ。それ以上でも、以下でもない。〝街〟の人間は、〝街〟以外の場所を〝外〟と呼ぶ。 〝街〟の人間は〝外〟を蔑視している。あるとき気分転換に〝外〟に出てみた〝街〟の誰かがこう言った。「空気もマズいし音楽もダサい。おまけに水までマズいときてる」と。

 といっても、〝街〟は〝外〟と隔絶しているわけではな い。必要なものは定期的に〝外〟から取り入れる。それは、食料品などから良質な映画・音楽・本、それだけでなく人も。〝外〟の全てを否定しているわけではないが、〝街〟が気に入るものは、〝外〟ではあまり受けない 。人間も同じ。爪弾きにあった人間や、〝街〟の意図にはまった人間など。

2に続く


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