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【連載11】結婚したくてしょーがない20代女から、大恋愛を経て、結婚なんてどーでもいい30代女になったはなし

めちゃめちゃ嬉しかった。でも、でも、なぜか、うんといえなかった。

また喧嘩するし。また新しい街で失敗するかも知れないし。またブラックかもしれないし。また、同棲ばかり続いて結婚が遠のくかもしれないし。

でも、でも、でも、で私の頭がいっぱいになった。「この人となら新天地でやっていける」とは思えなかった。不安な私に対して彼は特に包容力もなくて、そのまま些細なことで喧嘩して、電話を切った。

私はまた同じ街で仕事を見つけた。仕事内容はよさそうだった。しょっちゅう喧嘩しながらの遠距離恋愛を継続して、元恋人とは体の関係の全くない友達として会うという微妙な状況が続いた。

でも遠距離は私たちに向いてなかった。久しぶりに会っても体が忘れていて、前ほどは興奮しなかった。私はそれでも彼が好きだったから一緒にいられるだけで嬉しかったんだけど、彼は明らかに冷めた顔をしていた。

そしてまた些細なことで喧嘩をして、二年前の大晦日、彼が地元であるこの街に帰省してきて、私に別れを告げた。「俺はもともと自信のある女が好きで、君のような自己肯定感が低いタイプはもともと好みじゃない。好きだったのは体だけ。結婚したいとは思えないから、君のために別れる」。傷ついたし、辛かった。しかも押し付けがましくて、最悪だった。みじめだった。でもまだ好きだった。元彼ときっぱり別れられなかったこと、東京行きに向き合えなかったことが、ずっと申し訳なかった。

「あのとき東京に行けなくてごめん。私、来年東京に出るから。待ってて。」私は泣きながら言った。彼は顔を背けて、「僕に関係なく、自分の判断で、来てください。」冷たく言い放った。もう私を待っていないんだ、と思った。泣いて別れたくないと言ったれど無駄で、一日話をしながら街を散歩して、奇しくもあの時再会した、彼と私の家の間にあるあの駅で、別れた。

別れたあと何度か声を聞きたくて電話をしたけれど、常に通話中になっていて、着信拒否されているようだった。一度だけ、あの入院していた友人が亡くなったときだけ、辛くてSMSをして電話をしたら、出てくれた。「着信拒否してる?」「え?してないよ?」彼は少し上ずった声で答えた。その場では彼を信じた。また次かけたときには、通話中になっていた。嘘をつかれるならもう本当にだめだなと思ったし、別れたあと嘘をつくようならそもそも関係が始まってさえなかったんだな、と思った。そもそも、「大切な友人が入院したときにひどいこと言ってごめん」の言葉もなかったことにも、あとから気付いた。

32歳の私はすっかり自分に自信をなくしてしまった。全部自分の優柔不断と依存症が招いたことだったし、運命だと思った二人とうまく行かなくて、一人はわりとクズで、自分の男を見る目と直感も信じられなくなった。どこから間違えていたのか、どうすればよかったのかさえ、わからなかった。ひとりぼっちになった。強くそう感じて、文字通り目の前が真っ暗になった気がした。

心を入れ替えることに決めて、職場近くの緑の見えるマンションに引っ越しをした。毎日すべてのことに感謝をして、自分を褒める日記を書いた。瞑想の本を読んで実践して、辛いことを書き出してトラウマを解放した。仕事を頑張って、ジムに行き始めた。趣味を見つけて、飲み会やいろんな自己啓発セミナーにたくさん出席した。必死だった。また彼と会う時に好きになってもらおう。また、何度も喧嘩したあと連絡をくれたように。私が念じたら連絡くれたように。きっと連絡をくれる。なぜか根拠もなくそう信じていた。ジムのトレーニングがきついときは、あのとき彼が言ったように下半身の筋肉を鍛えよう、と自分を鼓舞した。仕事がきついときは、好きになってもらえるくらい強くて自立した女になろうと、奮起した。

ある日、変な感覚が下りた。家でゆっくり過ごしている時だった。「あれ、彼結婚したかも」。脈絡はなかった。なんの確証もなかった。でも確かにそう思った。

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