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【最終話・12】結婚したくてしょーがない20代女から、大恋愛を経て、結婚なんてどーでもいい30代女になったはなし

そんな日もありながらも頑張り続けて2年、精神的に成長して、下半身も上半身も筋肉ムキムキになって、趣味も続いて、大会で入賞したりして、仕事も落ち着いて、今なら上京できるな、と思った頃、人伝に彼が結婚していたことを知った。タイミング的に、私と別れた直後かその前から付き合っているようだったし、結婚したのは直感が下りたその頃のようだった。「やっぱりそうか」。頭ではなぜかそう納得して、心はとてつもなく落ち込んだ。

東京に行って生活がうまくいったら、やっぱり私は要らなくなったんだ。私なんてうだつが上がらない時期の一時的な慰み者だったんだ。本当の恋でも愛でも何でもない、ストレスを吐き出すダッチワイフだったんだ。私は使われて捨てられただけ。犠牲になったんだ。運命を感じたのは私だけだった。私みたいに自分に自身のない優柔不断な人間なんて、誰にも大切になんかされない。結婚なんてしてくれない。私に価値なんてない。

話を聞いた次の朝、彼が夢に出てきた。彼と私は裸で抱き合っていて、彼は泣きながら、ごめん、と私に謝った。鮮明な夢だった。起きて、私のことを忘れてはいなかったのかな、と寝ぼけた頭で思った。

しばらくとても辛かったけど、辛いときは元恋人が一緒にいてくれた。また趣味や瞑想、仕事に打ち込んで、ちっちゃな恋愛も経て、35歳の今、あの頃あんなに欲しかった経済的・精神的な自立も手に入れて、キャリアアップも成長もして、落ち着いた日々を過ごしているけれど、結婚したいけどする気が起きない、恋したいけど恋愛に心底疲れた女が出来上がった。

この数年きつかったけど、本当に精神的に成長したし、趣味にも出会えて、友人もたくさん増えて、それは本当にこの恋愛のおかげだと思ってる。元恋人のおかげで、心の穏やかな日々を送ることができた。新しい彼とは、傷つけ合ったし、どう考えてもクズなのだが、なぜか嫌いになれないし、別れをきっかけに奮起してここまでこれた。理屈ではどうにもならなくて求めあったあの感覚、信じてなかったけど、ソウルメイトとかいうのだろうという気がする。別れる未来も約束されていたのか、私が電話で東京に誘ってもらったあの日に選択を誤っただけなのかはわからないし、彼は私にとってソウルメイトだけれど、私は彼にとってただの一歴代彼女だったのかも、しれないけれど。

元恋人のほうとは今もよく会っては、話をして楽しい時間を過ごしている。彼は昔と変わらず、私を好きでいてくれているようだ。他に女性の影もない。でも私はもう、彼にはキス一つする気が起きないし、何より結婚してもらえなかったなぁ、という悲しみが拭えなくてなんともならない。なんともならないまま、うちに来て、話して、並んで寝て、キス一つしないまま安眠して、起きて、帰っていく。かけがえのない人には違いないが、この関係をなんと言うのか私は知らない。

20代の時は、とにかく結婚したくてしょうがなかった。30代未婚なんて寂しがり屋の私は無理、ぞっとする、と思ってた。なってみたら、どうということはない。こんなはずじゃなかった感はあるけど、前みたいな不安や焦燥はなくて、自分で自分をコントロールできてる感覚がある。自分の足で立ってると感じる。趣味や友達も充実して、仕事も責任が増えて、わりと楽しい。ただ、辛いことを経て、性格がちょっと諦めたような感じには、なったかもしれない。でも失恋してから妙にモテるようになったので、この疲れを人はミステリアスとか色気というのかもしれない。

運命の人と出会えたら、結婚して、幸せな家庭を築くんだって、幼い頃からずっと思ってた。でも、運命の人っていうのは必ずしも幸せな結末にはならないようだ。うまく行かないことで、自分を成長させてくれる道もある。たぶん、会う前の準備が足りてなかったのかなと、なんとなく思う。もしもはないけれど、もしも、二人と付き合うまえから、私がもっと精神的に成長してて、自立してたら。自分の気持ちをきちんと把握できたら。どちらの付き合いも、結果は違っていただろう。

今後運命の人に出会える気はあんまりしないんだけれど、仮に出会えたときに失礼のないように、依存しないように、傷つけ合わないように。今の自分を大切に育てていこう。恋愛相手だけでなく、友人や家族、同僚のためにも。そう思いながら、ドラマのない穏やかな日々を、ひとりになった世界を、淡々と生きている。


結婚したくてしょーがない20代女から、大恋愛を経て、結婚なんてどーでもいい30代女になったはなし

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