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うみと海

私の想像の中のうみはとてもキラキラしていた。



私は海が大好きだ。ユーチューブで「海 ASMR」と何度検索したかわからないし、水族館も大好きで、江ノ島水族館にはもう100回くらい行った。あと、中学生の頃のLINEのアイコンは海の写真だった。

一番最初に行きたい海外旅行先はメキシコだし、それはさまぁ~ずの番組で「メキシコの海はとてもきれい!」という特集がやっていたからだ。

そんな海が大好きな私だが、記憶もない幼い頃に海で溺れかけたらしく、過保護の両親から長く海に入ることを禁止されていた。(社会人直前の今ももしかしたら禁止されているのかもしれないが、海に行ったことを伝えるほど会話をしないので知らない。)

今回は私が初めてリアルな「海」に入った時のことを書こうと思う。

大学2年生の8月のことだ。恋人がダイビングのライセンスを持っていたので羨ましくなり、小田原のダイビングスクールで取得することにした。それまでも海岸に行ったことはあったが、水辺でパチャつく程度で、ガッツリ入ったことはない。


朝7時。前日にダイビングの教科書を読み込んで夜更かしをしてしまった私は、眠い目をこすりながら小田原駅についた。ダイビングの教科書には、器具の名前や減圧症に関する注意、そしてダイビングをする上でのマナーなど、ダイビングを行う上で必要となる知識が沢山書かれている。かっちょいいことが大好きな私は昨晩ウキウキが止まらず、深海を魚のように泳いで冒険することを妄想していたら夜更かしをしてしまった。(※深海はダイビングでは冒険できません。水圧でペシャンコになります。)


天候は晴れ。初めての海として申し分のない天気だ。青い空、白い雲!そして青い海と砂浜、なーんて絵に書いたような「うみ」を想像しながらダイビングショップまで車で移動する。

潮風のにおいが強くなってきたと思ったら、ダイビングショップについた。

座学を終え、さっそくダイビングスーツに着替えることになった私。人の抜け殻のようなスーツの背中のチャックをおろし、足を入れ…られない。

もう一度、足を入れ…られない。


_人人人人人人人人_
> 足が入らない <
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あれ、めちゃくちゃキツイ。海に入った時に中に水が入らないように、身体にピッタリくっつくようになっているからだ。本来ウェットスーツは自分の体型に合うように特注するのが良いらしい。私がレンタルさせてもらったウェットスーツには過去の使用者が力んだ後だろう。爪の形の穴が開いていた。普通でもキツイのに、身長はちょっと大きめ、体重はちょっと少な目にサバを読んだ私には、当たり前のように入らない。

更衣室でうんうん唸っていると、見かねたトレーナーさんがもう一つ大きいサイズのものと交換してくれ、今度は入った。(それでも10分くらい格闘してようやく入ったのであり、全身の圧迫感が凄かった。全身着圧タイツしてるみたいな感じだ。)

自分の体型があられもなくさらされている状態には軽く興奮したが、全身にピッタリとくっつく不快感にテンションはダダ下がりだ。ウェットスーツを着た後はダイビングの器具を装備する。

腰に浮力を調整するための重石を巻き、空気を入れることができるジャケットと、ボンベ、レギュレーター(空気を通す管)をつなぐ。それを背負うのだが、マジで重い。20キロ以上はあるので、背中に幼稚園児を一人背負っている感じだ。グローブやマスク、足ひれも準備できたら、いざ出発。


海まで、歩いて、行く。


「歩いて」行く。


ちなみに小田原の海はこんな感じ(https://images.app.goo.gl/DhCTTz7NnjHFr81E8)

の海岸だ。この岩がゴロゴロした足場の悪い海岸を、20キロ以上ある器具を背負いながら歩く。


シュコー…シュコー…


水に入ってから息を吸う奴を口につけるのは怖かったので、最初からつけていた私。ダースベイダーみたいな音を立てながら、器具を背負い、足場の悪い海岸を歩く。

テンションは地の底だ。


シュコー…シュコー…バシャ…バシャ…


ヌルっと入水した。


バシャ…シュコー…バシャ…シュコッ!バシャアア!!

太ももあたりまで入水した途端、大いなる海の波動を感じ、すっころぶ私。びっくりした。海は全然荒れているように見えないのに軽く転がされてしまった。そしてそこで初めて、「水の中で息を吸う」という感覚を味わう。

初めて吸うボンベの中の空気は、若干の磯の味がした。


一度海の中に完全に入ってしまえば、そこまで流れは強くない。インストラクターの先生からハンドサインを再度確認され、いよいよ本格的なダイビングが始まった。

かなり興奮していたのであまり覚えていないが、魚が沢山いたこと、そして真実の口に手を突っ込んだことは覚えている。

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別に白い砂浜じゃないし、デカいサメも居ない。だけど真実の口はあった。夏だからと言って水はそこまで温かいわけでもないし、なんなら青い海でもなかった。あと、ダイビングはそんなに楽にできるものでもない。上がった後の疲労感は凄かったし、何より驚いたのは、一番疲れたのが「ほっぺた」だったことだ。(空気を吸う奴をかみしめていたのでそこらへんの筋肉がとても疲れる)

海は、私が思っていた「うみ」とはかなり異なるものだったけれど、非常に楽しかった。

大人になってから「初体験」をすることはかなり珍しい。大抵は物心つく前に「知って」しまっている。長い間想像していたことが実態と異なる、という経験はなかなかできない。海についてはもともとプラスな想像をしていたものだったので、自分から体験しにいくことができたが、私がよくない想像をしていたものでも、体験したら楽しいことは沢山あるのだろう。


とりあえず、私は明日、パクチーをたべてみることにした。







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