見出し画像

『竹取物語』イントロ01。(古典ノベライズ前編)

 部活の合奏練習の後にカレシにふられ、ぼーっとしたまま校門を出て、トラックに轢かれたところまでは覚えているの。
 わたしが意識を取り戻したとき、光差し込む明るい視界を埋め尽くしたのは、シワまみれの大きな大きな――目鼻。

「手に載りそうなほど小っこいのう。誰じゃいな、お前さんは」

 そう言って小首をかしげながらニコニコ顔を寄せてくる巨人のおじいちゃんの恰好は、仙人ひげも、茶色い頭巾も、クリーム色の和服までも、トラディショナルなthe日本昔話風味。
 わたしの頭部を前歯2本でかじり切れるほど大きな口が、ぐいっと近づいてきて、うん、そりゃ怖い。
 おじいちゃん特有の口のにおいがむわっとわたしを包み込んじゃって正直しんどいけど、怖くてしゃべれなかったのもあって、それは巨人相手に言えなかった。

「お前さんは、なんでこんな竹の中に閉じ込められていたんじゃ?」

 巨人に事情をしきりに尋ねられても、それはわたしのほうが知りたい。
 わたしに、なにが起こったの?
 巨人の国に来たのかな?
 下校途中に高校の前でトラックに轢かれて、わたし、たぶん死んだと思うんだけど。
 座ったまま驚きのあまり口を動かせないわたしに向けて、おじいちゃんはさらに言葉を続けたの。(続く)

お読みいただきまして、どうもありがとうございます! スキも、フォローも、シェアも、サポートも、めちゃくちゃ喜びます!