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いつか、ここにあるもの。

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季刊誌「住む。」で連載中のエッセイ集です。
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記事一覧

湯葉的な存在についての集合知。

湯葉的な存在についての集合知。

僕は湯葉が好きだ。

湯葉的な存在でありたいとすら思っている。

・・・という書き出しでいこうと考えたが、そこから先、一向に筆が進まず、困ってしまった。

湯葉的な存在とは一体なんなんだ。分からない。

SNSでそうつぶやいたところ、「湯葉的な存在」について、なぜか、ありがたいことに、いろいろな方からたくさんのご意見をいただいた。そのご意見を紹介したい。

「上澄み」
確かに。でも、上澄みの人間っ

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失ったものと存在するもの。

失ったものと存在するもの。

いま住んでいる家の中をぐるりと見回す。

あるいは、「住む」という意味では、家に限らず、僕たちはオフィスにも人生の何パーセントか住んでいるわけだから、自分が働いている場所、いまいる場所も、住んでいるところと考えて、ぐるりと見回す。

人がいる。物がある。「こと」が起きている。

いま、この瞬間、という時間や、目に見える物体や現象を超えて、そこに目に見えない何かを見いだす、という思考的な実験が僕は好

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肉体と意味の対決。

肉体と意味の対決。

風邪をこじらせたのか、肺炎になってしまい、令和になる瞬間を病院で迎えてしまった。

一か月ほど前から、微熱が続き、また寝るとノドの奥がヒューヒュー言う症状があり、これはいよいよおかしい、と病院に行くことを決意したのが、4月30日の夜。

ゴールデンウィークのど真ん中の、深夜の病院の待合室に入ると、ひっきりなしに、泣いている子どもを抱きかかえた親や怪我をした若者、マスクをしたスウェット姿のカップルが

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「普通の努力」は、普通じゃない。

「普通の努力」は、普通じゃない。

努力というものには、

大きく分けて、3つの種類があるんじゃないかと思う。

まずは、「派手な努力」。

たとえば、エベレスト登山に挑戦するとか、世界記録に挑むとか、そういう努力だ。

当然大変だけど、これは、いい。

その圧倒的な努力感は、周りからも注目の的。やる気もぐんぐん高まるだろう。

次に、「ユニークな努力」。

たとえば、60歳を超えて初めてプログラミングに挑戦するとか、オタクがバンド

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インターネットの岸辺で燃える炎

インターネットの岸辺で燃える炎

ネットで炎上が起きる。心ない言葉があちこちにあふれる。

知らなくてもいい。知らなければよかったのに。でも知りたい。知らずにはいられない。

無関係だった人と人がつながって、傷つけあっている。

ひとりではおとなしかった人たちが、群衆になって、狂騒を繰り広げている。

そして、その炎から目を離すことができない、大勢の人たち。その中の自分。

インターネットが生まれた頃、まだ世界は分断されていて、世

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好きな椅子に座る、自由。

好きな椅子に座る、自由。

先日、新幹線に乗ったときのこと。

自分は、「指定席」のチケットを持っていたのだが、「自由席」の車両の近くを通りかかったときに、ふと思った。

「自由」な席。

「自由」が手に入る席。

「自由席」とは、なんて素敵な言葉だろう。

それと比べて、「指定席」という言葉の窮屈さと言ったら!

自由を奪われた指定された席なんて、ああ、嫌だ。

僕は、「自由席」という言葉の魅力に負けて、指定席のチケットを

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「とりあえず、やってみよう」から、
はじまること。

「とりあえず、やってみよう」から、 はじまること。

「とりあえず、やってみよう」と「ちゃんと考えてから、やるべきだ」は、どっちが正しいんだろうか。

「とりあえず、やってみよう」と誰かが言うと、「いやいや、ちゃんと考えてから、やるべきだ」と誰かが言う。

「とりあえず、やってみよう」派と「ちゃんと考えてから、やるべきだ」派の果てなき論争が、今日も、たぶん、日本中の会議室で行われている。

「ちゃんと考えてから、やるべきだ」派の起源は、紀元前三百年ご

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布団の中で旅に出る

布団の中で旅に出る

ずっと布団の中でごろごろしつつ、充実した人生をおくる方法はないだろうか。

眠い日、やる気が出ない日、疲れている日、そんな日の朝、ふと、そんなことを思う。

そもそも、充実した人生とは、どんな人生なんだろうか。

たとえば、たくさんの予定が朝から晩までぎっしり入っている一日。

楽しいかどうかはわからないけれど、充実した一日にはなりそうだ。

旅のしおりを開いて、ぜんぶ自由時間だったら、ちょっと不

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