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予算を追わないでください

シリーズA出資後の起業家に「予算を追わないでいいですよ」と伝えることがある。資金調達を完了しこれからと意気込む起業家からすると、予算をコミットした投資家からこんなこと言われるのは肩透かなのか「投資家がそんな事を言ってくれるんですか?」と驚かれる事もある。これをお伝えしている理由は、責任感によりトップラインにばかり意識が向いて、プロダクトマーケットフィット(PMF)が遠のくリスクを軽減したいためだ。

初めて買った原付のアクセルを思い切り吹かして転倒、こんな若い頃のほろ苦い思い出はないだろうか?予算を優先すると笑えるようで笑えない同じ事態がよく発生する。シリーズAの資金調達が完了しアドレナリンマックスの起業家は、ここぞとばかりに採用を開始。成長には人材の先行投資が必要という思いから、ビジョンマッチしないメンバーや未熟なメンバーを採用してしまい組織崩壊の火種となる可能性がある。さらに問題なのは、こうした意思統一がしにくいメンバーが多いとPMFに向けた臨機応変で本質的な対話よりも、受注や売上が伸ばせるかどうかが組織の興味の中心となり立ち止まる事さえできなくなる事である。

まだ完全なPMFを達成していない段階でこの状態に入ると手がつけられない。非効率な事業を頑張って伸ばそうとする営業とプロダクトがぶつかり、経営が板挟みになる。採用すると組織が活気づくのと、幾分かは当然売上が成長するので採用になかなか歯止めも効かない。
この結果、エコノミクスが悪いまま非効率経営が拡大し、組織維持のための資金調達が必要となる。

資金があるのに少数精鋭でPMFを目指すことは起業家の忍耐が必要だ。一年半前に投資させていただいたコーチング事業を手掛けるmento木村社長も、これを伝えた時には悩んでいた。トップラインを伸ばしたい自分もいれば、営業メンバーとのコミュニケーションをどうするのかもあり、数週間は腹落ちまで時間がかかったのではないか。イメージのすり合わせが出来た後は、新規営業は辞めてカスタマーサクセスに全社を挙げて集中した。結果的にお客様の満足度もあがり顧客単価も数十倍に拡大した。これによりコーチング市場は小さいという既成概念を払拭できるくらい、優れたユニットエコノミクスの事業を構築できつつあるように感じる。また、優秀でビジョンマッチするメンバーをじっくり採用できた事もこれからの更なる伸び代となっている。

IPOを見据えたグロースフェーズに入れば予算必達を問われる日々はいずれやって来る。リスクマネーは急激な成長を好むものではあるが、同時にリスクマネー頼みの非効率な経営は長続きはしない。小さいチームであれば、小さい資本で何度もトライ&エラーができる。野心はそのままに、売上や組織拡大という虚栄心に惑わされず、シリーズBまでのボーナスタイムを大切にして欲しいと思う。

お知らせ)WiLではシリーズAから投資を行なっています。
シリーズAに入る前段階の壁打ちも含め、弊社キャピタリストに是非お声がけください。

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