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留年率から見る上位ロースクール

ロークスールへ入学を考えていてどのローに進学するか迷っている方に向けて、先月文部科学省が公表した資料を基にローの留年率等を整理しようと思います。

ロースクールを選ぶ基準として、司法試験合格率がやはり一番大きいでしょう。しかし、ここで見落としがちなのがロー入学後の進級率=留年率です。

後述しますが、ロースクールの留年率を舐めてはいけません。既修未修問わず、毎年多くのロースクール生が多大な努力が報われず留年の目に合っています。私の周りでも、非常に多くの友人が進級の壁に阻まれました。司法試験合格には、司法試験のみならず、ロースクール卒業も無視できない壁になっているのです。

そして、司法試験の合格率が高い上位ローと呼ばれるロースクールでも、留年率はマチマチです。

そこで、「身についている力はどうあれ早くローを卒業して受験資格を得たい」と考えるか、「合格に足る力を身に付けるまで留年可能性があっても強いローで勉強したい」と考えるかによって、ローの選択は変わってくるでしょう。

選択が適切にできるよう、各ローの未修・既修ごとに、近年の司法試験合格率と留年率・ストレート卒業率・退学率を整理してみようと思います。

ベースとなる資料は、文部科学省が公開している令和2年度法科大学院関係状況調査(https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houka/mext_01069.html)です。

なお、便宜上、関東・関西圏のうち上位ローと呼ばれるロースクールをメインに、ハイライトにして整理していきます。具体的には、東大・京大・一橋・阪大・神戸・慶應・早稲田・中央について述べていきます。

また、各資料は「令和元年度の」という留保付きですので、早計に一般化はできない点に注意してください。

1 留年率

単年資料ではありますが、文科省の5_令和元年度留年率を降順に整理すると以下のようになります。

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*全体数値は筆者が資料を基に算出

まず全体としてロースクールは非常に留年率が高いことがわかります。全体で未修は41.7%・既修は23.3%ということで、未修の進級率は約6割しかなく、既修でも進級率は約8割と安泰とは言えません。

中でも1年次(未修1年)は留年率が慶應が51.3%、京大が41.5%、東大が33.3%と、大変厳しい年だったといえます。

また、2年次(未修2年+既修1年)においても中央・神戸・早稲田などの各大学で約20%が留年しています。

東大・慶應・京大も同様に20%程度となっていますが、この表には予備抜けによる退学者が含まれていると思われます。予備抜けの多い2年次の東大・慶應・京大では、留年率はさらに減少するでしょう。むしろ、次項の実質的ストレート率を参照された方が実情を踏まえているかと思います。

他方一橋・阪大は、既修の留年率は10%程度と低く、一橋未修においても13%程度と群を抜いて低くなっています。

2 ストレート(修了)率

続いて、8_修了認定の実施状況および標準修業年限以内の修了率を見ていきます。

標準修業年限以内の修了率とは、入学者のうち、未修なら3年・既修なら2年で修了した者の占める割合を言います。つまりストレート卒業した者の割合です。以下「ストレート率」といいます。

なお、ここでは司法試験合格を理由に退学した人は「修了しなかった者」として扱われます。しかし在学中合格する学力があればストレートで修了する実力は伴っているといえるでしょう。
そこで、入学者のうち、未修なら3年・既習なら2年で修了した者の数に司法試験合格を理由に退学した者の数を加えた人数の占める割合を「実質的ストレート率」として算出しています。
トップローでは司法試験退学者が多いため、実質的ストレート率の方がより有意な数値になるでしょう。
(ただし既習未修の区別ができなかったため、実質的ストレート率については全体のみの数値になります。)

また、令和元年度の留年率が1年という短期的視点だったのに対し、ストレート率は2~3年単位で留年率を算出できる点でより正確に留年状況を把握することができます。

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*全体の標準修業年限修了率以外は筆者が文部科学省資料を基に算出
*表左段がストレート率(全体・未修・既習)
 表右段が実質的ストレート率(全体)

(1)全体の実質的ストレート率

実質的ストレート率をみると、一橋が94.6%と頭一つ抜けています。続いて神戸が87.7%、京大が84.6%、東大が82.5%と高水準で、そこからやや下がって慶應が78.7%となっています。全体平均が67.1%ですから、なお高い水準といえます。

中央・早稲田は71%,67%ですから、全体平均と近似しています。

阪大が唯一全体平均を割っており、ストレート率が60%となりました。阪大は既修のストレート率は平均値なのですが、未修のストレート率が著しく低くなっています。

(2)既修のストレート率

まず既修のストレート率では、一橋・神戸が90%の大台に乗っており頭一つ抜けています。

続いて京大も85.0%と高水準です。
東大の司法試験合格退学者のほとんどは既修者ですから、東大既修者の実質的ストレート率は京大と同程度かそれ以上になるでしょう。
慶應も同様に司法試験合格退学者を加えた実質的ストレート率では京大と同程度になると思われます。

中央・大阪・早稲田が73%前後と、全体平均(71.2%)に近似しています。
ただ既修のストレート率では、上位ローは全て全体平均を上回る結果となりました。

(3)未修のストレート率

続いて未修のストレート率では、一橋が88.2%と、とんでもない数値を出しています。次点の神戸と20%近く差を付けており、一際異彩を放っています。

その後は神戸・京大が68.8%、65.5%と、未修の中では高水準のストレート率となっています。
続いて中央・早稲田・東大が50%台で、全体平均(47.2%)よりも良い数字を出しています。

そこから大きく離れて慶應が40.6%、阪大が38.5%となっており、全体平均と比べてもかなり低い数値となっています。

なお、H29入学未修者のうち、司法試験合格を理由とした退学者が全体で3人、しかも東大にしかいませんでした。そのため、未修では単純なストレート率と実質的ストレート率に変化はほぼないと言えるでしょう。

(3)総評

ロー全体のストレート率は、未修が47.2%、既修が71.2%でした(なお、既修者に限っては司法試験合格退学者が多いので、実質的ストレート率は80%程度になるでしょう)。
未修は約5割、既修は約3割(約2割)がどこかのタイミングで留年しているということができるようです。

ロー入試という選抜を受けてなお、この進級率です。この厳しい世界をくぐり抜けて修了した者達が司法試験合格率を構成しているのですから、単純に近年の合格率だけをみて「司法試験は簡単だ」とは言ってほしくないものです。

3 退学率

6_退学率および状況等を整理すると以下のようになりました。

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*予備試験・司法試験合格を理由とした退学者を除く退学率及び全体平均値は筆者が文部科学省の資料を基に加筆。

基本的に、ロースクール退学は、留年を繰り返したための満期退学の他、その他健康上の理由など人それぞれの事情があります。
ただその中でも、慶応の未修1年次の25.6%という数字は異彩を放っているように思います。東大・中央の17%という数字も比較的高いものといえるでしょう。

2年次以降については、全体平均においても8%程度と、あまり高くありません。東大・京大が2年次又は3年次も含めて退学率が高いのは予備試験・司法試験合格退学者の数字が含まれているためでした。慶応も同様です。

3年間を通じて退学率が低かったのは、一橋・阪大でした。

なお、見て頂いて分かるように、留年率やストレート率に比べれば退学率は全体的に非常に低くなっています。ロースクールはどこかのタイミングで留年する確率が一定程度あるということは間違いないのですが、決して卒業できない場所ではありません。ロースクール側も合格率を上げるために原級措置(留年)をとることはありますが、放校にしてまで合格率を上げるようなことはしません。私の周りの友人も2回目の2年生をやりましたが、みんなめちゃくちゃ優秀な成績を収めて進級していきました。留年率が高いからと言って修了できないかもしれないと過度に恐れる必要はないということは理解していただければと思います。

4 R1年度司法試験合格率

ローの選択には、司法試験合格率が欠かせません。進級率と司法試験合格率を併せて初めて適切な評価ができますから、ここでR1年度司法試験合格率を軽く紹介しておきます。

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(1)既修者

司法試験合格率では、既修者は東大・京大・一橋が頭一つ抜けています。この中でも東大はズバぬけて予備抜け退学者が多いので、予備抜けを含めた実質的な合格率はここからさらに5%程伸ばして83%程になると思われます(「東大ローの予備抜け率」)。

京大・一橋・慶應も一定の予備抜け退学者が出ますので、実質的合格率はそれぞれ3%程ずつ伸ばし、80%・77%・61%程になるでしょう。

早稲田・阪大・神戸・中央は予備抜け勢は多くありませんでした。

したがって、R1司法試験の既修者合格率は、
80%前後 東大・京大・一橋
60%前後 慶應
50%強  早稲田・阪大
30%強  神戸・中央

に分かれました。

現在の司法試験トップ層は東大・京大・一橋の「3強」、後を追う慶應、という状況になっているようです(詳しくは「ロースクールの司法試験合格率ランキングと変遷」)。

なお、神戸は年によって大きく合格率が上下する傾向にあります。

(2)未修者

未修者合格率においては、予備抜けによる影響はほとんどありません。

したがって、R1司法試験の未修者合格率は、
35%前後 一橋
30%前後 阪大・慶應
25%前後 京大・東大・神戸・早稲田
15%強  中央

に分かれます。

ただし、近年の上位ローにおいて未修者合格率の有意な差はありません。中央を除き、どこも似たような合格率で推移しています(「ロースクールの司法試験合格率ランキングと変遷」中の未修者の司法試験合格率推移グラフに顕著に表れています)。

そのため、既修者に比べて合格率よりもストレート率の方が重要な判断要素になるかと思います。

5 司法試験合格率と併せた評価

では、進級率(ストレート率)と司法試験合格率とを併せて整理します。
以下の評価は筆者の個人的な感想ですから、参考程度に流し見してくださればと思います。

(1)既修

司法試験合格率の全体平均を常に上回っているのは、一橋・京大・東大・慶應・大阪・神戸・早稲田でした。中でも一橋・京大・東大は合格率で頭一つ抜けています。

この中で、標準修業年限以内の終了率、つまりストレート率が高かったのは、一橋・神戸で約90%です。続いて京大が約85%、慶應が約80%。そして大阪・早稲田が約73%と平均的で、東大が約65%でした。

したがって、合格率×進級率の点で一橋がピカイチといえます。
次点で京大です。

東大は進級率が低くなっていますが、そのうちほとんどが予備抜けなので、予備抜けを差し引いた実質的進級率は慶應(約80%)と並びます。合格率についても予備抜け勢を含めた実質的合格率で考えると、R1年度は京大を抜いて第2位(83%程度)に付いています。
司法試験合格退学せずにストレートで終了する割合が65%ですから、最終的に同じ学年の友達が65%程度しかいないという状況はやや特殊とはいえますが、京大に並ぶ優良ローである点は間違いありません。

慶応は、実質的合格率では一橋・京大・東大の3強から10〜20%程度離されていますが、逆に神戸・大阪・早稲田にも10%程度離す高い合格率(61%)を持っています。また一橋神戸京大に次ぐ79%という高いストレート率を誇ると言う点で、総合点でも3強の次に来る上位ローといえます。

その次に神戸・大阪・早稲田です。この中では神戸は合格率がやや不安定な面もありますが、ズバ抜けてストレート率が高くなっています(神戸92%程度、大阪・早稲田73%程度)。

毎年既修者合格率平均値を割っている中央は今後の合格率に期待したいと思います。

(2)未修

未修の司法試験合格率では「3強」のような存在はありません。近年はどこも似たような合格率を出しています。
参考までに、令和元年の成績は、一橋35%程度>阪大・慶應30%程度>京大・東大・神戸・早稲田25%程度>>中央15%程度でした。

ストレート率の点では、一橋が88%と頭2つ以上抜けています。次点が神戸で68%、京大が65%です。続いて中央・早稲田・東大が50%台で、全体平均(47.2%)よりも良い数字を出しています。そこから大きく離れて慶應が40.6%、阪大が38.5%でした。

これらの数字を見ると、やはり未修でも一橋がピカイチです。とんでもなく修了しやすいのに合格率も未修の中では高い。

神戸・京大は、進級率が68%、65%と高水準でありながら、一定の合格実績を残しているため、一橋に続く存在といえます。

東大・早稲田はある程度の合格率×平均的な進級率ということで、中位の評価になるでしょう。合格率の点でこの後に中央がきます。

阪大は、進級率で修了者をめちゃくちゃ絞ることで一橋に並ぶ合格率を実現しているといえます。阪大は進級率は低いのですが退学率は非常に低くなっています。合格率も悪くないため、阪大の評価は人によって分かれるところでしょう。

慶應は阪大同様に進級率で修了生を絞ることで一定の合格率を確保していると言えますが、阪大や他のローに比べて1年次の退学率が非常に高い点が気になります。

未修者は全体として合格率も低い割に進級率も全体として低いので、唯一まともなストレート率を誇る一橋が「一強」ではないでしょうか。

6 追加情報

以上、ローの合格率×進級率を見てきましたが、ロー受験を考えてる方に有益であろう情報も追加でまとめておきます。

(1)入学試験の合格率

ローに入学するための選抜試験の合格率も資料があったので一応整理しておきます。

ただ、既修・未修別の合格率を割り出すことができなかったので、既修・未修あわせての合格率となります。そのため参考程度に診て頂ければと思います。

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(2)授業料

各大学の年間授業料・年間施設整備費・入学金の資料を整理します。

授業料

授業料+施設整備費は1年間の金額で、入学金は当然入学時に支払うのみです。

便宜上、授業料等は「初年度経費」となっていますが、ほとんどのローで2年目・3年目も同じです。早稲田のみ年度が増えるごとに金額がやや増加します。

授業料+施設整備費で考えると、年間経費は
①中央 170万円
②慶應 158万円
➂早稲田 126万円~140万円
④国立 80万円
となります。

なお、最も安いのは大阪市立大学で53万円でした。

ただ、私大ローは奨学金等も充実しており、一概にこの順だと評価することができません。文部科学省の資料の中には各ローの日本学生支援機構奨学金やその他の奨学金の活用状況の一覧もありますので、気になる方は併せて参照してください。

また、上述した進級率との関係でも、トータルの授業料は変わってくる可能性があります。

7 参考資料

今回ベースにした文部科学省が公開している令和2年度法科大学院関係状況調査(https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houka/mext_01069.html)では、以下の項目の資料が公開されています。

1_入学者選抜の実施状況 
2_各大学院の教育課程の公表URL
3_入学者に求める学識・能力及び修了までの段階
4_成績評価の基準及び実施状況
5_令和元年度留年率
6_退学率および状況 
7_修了認定の基準 
8_修了認定の実施状況および標準修業年限以内の修了率 
9_法科大学院が開設する授業科目
10_授業料、入学料その他の徴収する費用
11_修学に係る経済的負担の軽減を図るための措置
12_日本学生支援機構奨学金の利用状況

当noteでは、4,5,6,8,10を参照しました。その他にも気になる資料がある方は直接資料に当たってみてください。

今回紹介した資料は、ロー進学を考える上で抜けがちな「合格率と進級率の掛け算」に焦点を当てて整理したものです。その他、授業料や、弁護士志望であれば自分が就職する地域や大学のネームバリュー、留学制度の充実具合等も判断材料になると思います。

様々な事情を考えて判断する中で、今回整理した資料が皆さんの役に立てばうれしく思います。

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