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吉田博展に行ってきた話

吉田博の絵が見たい

「死ぬまでにしたいこと」というと大げさだが、
ずっとやりたいと思っていたことがある。
吉田博という画家がいる。
この人の絵が見たい、ということ。
何年か前の日曜美術館でやってた木版画のすごい人。

日本で版画というと浮世絵のイメージが強い。
葛飾北斎の富士山に波がざっぱーんってかかっている絵だ。
それくらいしか、ぱっと思い浮かばない。

浮世絵のことをそんなに知らなかった。
その浮世絵のイメージが、番組を見る前と後で一気に塗り替えられた。
繊細で緻密な仕上がりの版画の世界に魅了された。
「新版画」というらしい。

この人の絵をいつか見たいと思っているうちに、月日が過ぎていった。
吉田博展覧会で検索しても出てくるのは遠くの美術館ばかり。
近くに来るまで待とう。
そんなこんなで、とうとう日曜美術館の司会者が変わってしまうくらい年月が経ち、近場の美術館にはこの人の展覧会は回ってこないのでは?ということに気づいた。
それなら、こちらから行くしかない。

「吉田博木版画の100年」
これだ。場所はMOA美術館。熱海か、ちょうど新幹線が止まる駅だ。
ということで、新幹線に乗って、熱海に向かった。

山がきれいだった話

その日の朝、新幹線から何気なく窓の景色を見ていると,
目の前に雪の降り積もったきれいな山が見えてきた。
写真に撮ろうと思ったが、肉眼で見るほど大きく写らない。
満月の時とおんなじ現象だ。
目で見ると大きくてめちゃくちゃ綺麗なのに写真で撮ると、迫力がない。


伊吹山ドライブウェイHP 冬の風景より

朝の光を受けて、山頂に雪を乗せた山が圧倒的な高さで街の後ろにそびえている。今までも何度も乗っていた新幹線だが、寝てたり本を読んでたりしてこんなにきれいな山をスルーしていたのか。
今日はいつもより世界が輝いて見える。
吉田博の展覧会へのワクワクからなのか。
これもしかして、吉田博のパンフレットの絵になっている山じゃないの?
調べてみると、伊吹山というらしい。

帰ってから冷静に調べ直すと、展覧会のパンフレットの絵は
「日本アルプス十二題 劒山の朝」だった。
(いや全然違う山やん。)

いざ、展覧会

で、いざ展覧会を見たんだけど、そわそわして頭に入ってこない。
絵を前に緊張するってどういうことなのと思いながら、「グランドキャニオン」の絵から見始める。元となった油絵も重厚感があって良いのだけれど、やはり版画の方が透明感があって軽やかで素敵だ。

そして、同じ版木で色を変えて摺る欧州シリーズの
「マタホルン山」と「マタホルン山 夜」
「スフィンクス」と「スフィンクス 夜」
この2種類を並べて見られる幸せ。
昼の美しい風景が、夜になると別の顔を見せる。
マタホルン山では窓に灯りがついて、薄い月あかりが画面全体を照らす。
スフィンクスでは夜空に星が加わる。

次の部屋に移ると、特大版という大きなサイズの版画が出てくる。
「冨士拾景 朝日」「雲海 鳳凰山」
この二つは版画ですと言われないと、筆で描いた絵だと思う。
woodblock printという言葉を見つけて、ああ版画かとなるくらい。
富士山も雲海ももちろん息をのむくらい綺麗なんだけど、
その後ろの空が吸い込まれそうなくらい美しい。
日が昇る前の、あるいは日が沈んでからの。
光が残る空の表現が素晴らしいの。

吉田博「瀬戸内海集 『光る海』」 1926年(大正15年)

そして、間違いなく代表作である「光る海」。
今日はこれを見に来た。
船が描かれてはいるんだけど、注目すべきはこの海の光。
普段は黒黒している海が、日没時にのみ見せる光を反射する輝きがとても見事に表現されている。

さらに、「瀬戸内海集 帆船 (朝、午前、午後、霧、夕、夜)」という6作品があって。
海に浮かぶ帆船を、色や濃淡を変えることでその時間帯ごとの空気感を見事に表現している。
同じ構図なのに、こんなにも印象が変わることに驚いた。
自分は、「朝」が一番好みだった。

映像での作品紹介あり、実際の風景との比較ありの興味深い展示だった。
思ったより早く見終わってしまいそうだったので、ぐるぐると同じ絵を何度も見返し、たっぷりと堪能してきた。

帰り道 次は…

帰りには、駅前の足湯で疲れた足を癒せたのも良い思い出。
入った後、足がすっと軽くなったのでやっぱり温泉ってすごいね。

帰りの新幹線で富士山を見て、本物の迫力にも圧倒されつつ。
ちょうど日没ごろだったので、
緑と黄色と赤が混ざり合ったような空もまた綺麗だった。
絵を見た後で、実際の風景を見るとその美しさに改めて気づく。
吉田博展の余韻みたいなのを感じて、それもまたよかった。

山の素敵な絵がとてもたくさんあったので、
次は山登りがしてみたくなった。
日本アルプスシリーズだけじゃなく、欧州シリーズの聖地巡礼もしたい。
死ぬまでにしたいことを一つ達成し、またしたいことが増えた。
そんなとてもよい休日でした。

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