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上場後初の通期決算はいかに?決算から読み解く「ビジョナル社(ビズリーチ)」の戦略。HRのIR

元リクのなまリクです。HR領域のIRについて書いています。今回はビジョナル社(ビズリーチの親会社)のIR分析です。
※この回は、ビジョナル社「2021年7月期 (2020年7月〜2021年7月)」通期決算発表をもとに解説しています。

満を持してユニコーン上場。

2021年4月に満を持して上場。HR領域ではビッグニュースとなりました。ビジョナル社は「ユニコ―ン企業」つまり評価額が10億ドル(約1000億強)を超える未上場のスタートアップ企業と評価され上場時時価総額は2,000億をこえました。創業者の南さんはスタートアップ界隈ではとても著名な方です。

上場後、時価総額は2,000億程度。PSR(株価売上高倍率)はおよそ10 倍です。

ビズリーチで有名なビジョナル社ですが、昨年グループ経営体制に移行。「ビズリーチ」や「HRMOS」のうようなHR Tech領域のみならず、物流など新領域の開拓で産業のDX化に貢献していくことを掲げています。具体的にはM&A領域のDXサービス「ビズリーチ・サクシード」や、物流DXプラットフォーム「トラボックス」などの事業があります。

上場後初の通期決算はいかに?

上場後初の2021年7月期の売上は売上高286億、営業利益23億。増収増益です。売上高の成長率は鈍化はしているものの約+11%で着地。前Qでの予想は売上267億でしたので上振れて着地しています。前Qではマーケティング投資や人材採用投資(およそ20億程度のTVCMか?)は計画通り実行したものの、売上高伸長により利益も上振れました。

また、2022年7月期の売上予測が337億(YoY+30%)とかなり高読みで基になりますが、平時における成長は+15%-20%範囲ですが、コロナ禍のリバウンドを読み込んでいるようです。

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ビジョナル社 2021年7月期 通期決算発表より。なまリク作成

一丁目一番地のビズリーチの業績は?

今回の決算発表では、プロダクトごとの数字が公開されました。ここでは主力のビズリーチを見ていきたいと思います。

2021年7月期の売上は235億(YoY+12%)。3Q、4Qと2桁成長を記録。コロナ禍からは脱しプロフェッショナル領域における市場は復活した形となります。また、ビズリーチ12周年キャンペーンやTVCMも追い風になり、主要KPIも堅調に推移しました。

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ビジョナル社 2021年7月期 通期決算発表より。なまリク作成

主要KPIの推移は以下の通りです。堅調に推移しているように見えますが、人材の受給GAPを反映してか、企業数の伸びYoY+21%に対して、会員数YoY+6%と求職者集客が伸び悩んでいるようにも見えます。

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ビジョナル社 2021年7月期 通期決算発表より引用

キャッシュカウであるビズリーチ事業は多様な収益体制、具体的には「プラットフォーム利用料(リカーリング売上高)」と「成功報酬」。

ここから読み取れるのは、いわゆる「決定課金による売上」は162億。ここからは推計になりますが、ヘッドハンターを介しない「ダイレクトスカウト且つ決定課金」は100億程度ではないかと推計できます。

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ビジョナル社 2021年7月期 通期決算発表より引用

弱点はどこ?脱却できないHR一本足打法。

ビジョナルといえばビズリーチ。これは創業以来、上場後も状況に変化がありません。現在もビジョナルの売上高の8割以上をビズリーチ事業占めています。来期予測売上(2022年売上予測)から推計してもその比率が下がることはなさそうです。

先の通り、HR Tech分野以外での新規事業の創出がビジョナル社の喫緊の課題ですが、その兆しはまだありません。

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ビジョナル社 2021年7月期 通期決算発表より。なまリク作成


弱点はどこ?レッドオーシャンのHRMOS戦略。

HRMOSの成績は社数941社(YoY+18%)売上は11億(YoY+24%)で着地。利益はマイナス21億と引き続き投資フェーズ、むしろ赤字幅は大きく拡大するほど投資を続けています。

昨期は組織診断サーベイ機能、HRMOS採用新卒エディション、そして労務管理のβ版をリリースしています。さらには勤怠管理のIEYASU株式会社を子会社化することを決議。HRMOS労務管理との連携を視野よりHR tech領域の強化を推進しています。 

しかしながらHRMOSはチャーンレートは1%台と優秀ですが、ARRの成長率がYoYで22%程度。10億程度の売上規模をかけ合わせると、ビジョナルを支える柱としてはまだ道半ばといえるでしょう。

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ビジョナル社 2021年7月期 通期決算発表より引用

加えて、ATS及びHRMは、近年HR各社の参入激しくレッドオーシャン領域です。ATSは各社マネタイズの筋の見えず当面戦国時代が続くと予想されますが、"Winner takes all"の世界だった場合、1,000社未満の社数では先行きは不透明と言わざるを得ません。

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ビジョナル社 2021年7月期 通期決算発表より引用

それでもHR事業は安泰か?

ダイレクトリクルーティング事業で圧倒的なビズリーチですが、安泰とはいえるのでしょうか?競合の動きを見ると近年、パーソル、エン・ジャパンがそれぞれ参入しています。大きな投資こそ見られませんが、大手が参入を開始しているのは事実です。

また、グローバル最大手のLinkedin、国内最大手のリクルートの動向次第では大きく競合にシェアが取られることも想定されます。大きな初期投資が必要な点の他は意外と参入障壁の少ないこのカテゴリにビズリーチ以外のプレーヤーが勃興してくることは、ビジョナルにとって大きな脅威と言えます。

ビズリーチ事業はキャッシュカウであるのは間違いないですが、プラットフォーム利用料は6ヶ月で65万〜80万。中小企業や個人の人材紹介ヘッドハンターには決して安いとは言えないプライシングです。ダイレクトリクルーティング事業はビズリーチほぼ1社独占体制なので、プライシング制圧権を持ていますが、このプライシングを競合にねらわれるリスクを常にはらんでいます。

競合の「こんな戦略どこに?」とならないために。

ビスリーチはビジネスモデルが秀逸な一方で、テクノロジーの優位性や他社を圧倒する顧客基盤があるわけではなく、ビジネスモデルの参入障壁が意外と脆い可能性は否定できません。

今後のビジョナルを占う上では、ビズリーチ事業を脅かすHR競合の状況と、HR Tech分野以外(Incubationセグメント)のシェアが事業成長を見る上でポイントになりそうです。

今回の記事はお楽しみいただけましたでしょうか。また次回の記事でお会いしましょう。なまリクでした🐶🐶🐶

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