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アウトサイド ヒーローズ:特別編12
劇場版ストライカー雷電:インフィニット エナジー ウォー
「オオオオオオオ!」
ストライカー雷電は大剣“ソーラーカリバー”を構えながら、アトミック雷電に向かってまっすぐ突っ込んだ。
「隙アリ、ダ……!」
迎え撃つアトミック雷電は双銃を構える。戦闘補助プログラムによってストライカー雷電のヘルメットに照準が固定されると、ためらいなく引鉄をひいた。
大剣を盾にして放たれた弾丸を防ぎながら、雷電は更に踏み込む。
「オオオオ……ラアッ!」
大剣を横一文字に薙ぎ払った。アトミック雷電は大きく飛びのいて斬撃をかわし、再び銃口を向けた……時には、既に雷電は視界から消え去っていた。
「ナニ……?」
振り返ろうとしたアトミック雷電は蹴り上げられて吹っ飛んだ。
「オオオオオオッ!」
ストライカー雷電はソーラーカリバーの切っ先を突きつけながら、宙に浮いたアトミック雷電めがけて駆ける。
大剣の間合いが敵を捉えた時、アトミック雷電は双銃槌を構えていた。
「小癪ナ……!」
迫る刀身にトンファーを叩きつけると、ソーラーカリバーを弾いた反動で更に飛びのいた。
大きく間合いを取って着地すると、大剣を構え直した雷電に銃口を向ける。両者は再び、距離を取ったままにらみ合った。アトミック雷電のバイザーが赤く輝く。
「サスガダナ、すとらいかー雷電……!」
ストライカー雷電はソーラーカリバーから離した左手を、自らのベルトにつけられているレバーにかけた。
「まだまだ、ここからだぜ……出力上昇だ!」
叫びながらレバーを引き上げ、拳を叩きつけて引き下げる。大剣の刀身から、全身の装甲から陽炎が立ち昇った。
「望ムトコロダ」
二人の雷電は同時に駆けだした。加速しながら街道を走り、拳を打ちあう。斬撃が、銃弾が飛び、ぶつかり合うたびに電光が火花となって弾ける。
「オオオオオオ!」
「アアアアアア!」
傾き始めた陽光が、アスファルトに小さな黒い影を落とす。
上空から、機械仕掛けの小鳥が闘いを見守っていた。ナイチンゲールは高速で追走しながら、透き通ったレンズが青と赤の雷電にピントを合わせ続けていた。
キョート・ルインズからオーツ・ポート・サイトに向かう街道を、一台のトラックがゴトゴトと揺れながら走っていた。
車体が揺れるたび、積み荷が揺れる。荷台からは時折うめき声が漏れるが、タイヤが砕かれた路面を踏みしめる音、車体の振動する音にかき消されていた。
積まれていたのは、手足を縛り上げられ、“簀巻き”にされた兵士たちだった。
「ありがとうございます、オノデラ保安官。私1人ではどうにもならなくて……」
助手席に座ってひと息ついたアマネが礼を言うと、ハンドルを握るオノデラ保安官は穏やかに微笑んだ。
「いえいえ、キョート遺跡を根城にするブラフマーの連中はうちに来るキャラバン隊を使って抜け荷をしたり、キャラバン隊とトラブルが起きる事もしょっちゅうですからね、オーツとしては悩みの種なんですよ。それにしてもこれだけの人数を鎮圧するとは、巡回判事殿はさすがですね!」
「あははは……」
感心した様子のオノデラに、アマネはぎこちなく笑った。
「マギフラワーが助けてくれたんです。でも、その、彼女はそのまま、どこかに行ってしまって……」
「なるほど、それでオーツの保安官事務所に連絡くださったんですね」
「都合よく使うようなマネをして、申し訳ないのですが……」
アマネが恐縮して言うと、オノデラは「いやいやいや!」と言って、ハンドルから離した片手をブンブン振った。
「本当に、お気になさらず! キョートのブラフマーが大人しくなれば、オーツも助かるのは、先ほど話した通りですから。捕まえた兵士たちも、多くは居場所をなくして仕方なくキョートに流れ着いた者たちです。ちゃんと更生すれば、オーツで働き口を見つけて、やり直すこともできるはずです」
「それでも、オーツの町になじめない兵士は……?」
前方に視線を戻したオノデラ保安官は、困った表情で「ははは……」と笑った。
「そういう人は、外海に出る貿易船団の護衛船に乗ってもらうしかないですねぇ」
「ははは……」
外海には巨大な海棲変異生物がうろつき、“なわばり”に侵入した人間の船にも容赦なく襲い掛かってくるという。
空と同様に人間の生存には適さない世界を想像したアマネはオノデラ保安官のつぶやきにつられて、乾いた笑い声をもらした。
「ええと……ところで、レンジさんや、ナカツガワの皆さんはどちらに? てっきり、“にせ雷電”もブラフマーと関わりがあるのだと思っていましたが……」
「いえ、直接関係があるわけじゃないんですけど……色々あって、別行動になってしまって。しばらく、連絡を取れてませんね」
オノデラはダッシュボードに取り付けられた黒い箱のスイッチを入れた。インジケーターが点灯し、小さな画面に表示された数字が、小刻みに変動し始める。
「広域通信ルーターをつけましたから、これで連絡をつけてみては?」
「アトミック雷電……"にせ雷電"は通信をジャミングすることができるみたいなので、どうでしょうねぇ……」
だめで元々、という程度の気持ちで、アマネは自らの通信端末を取り出した。起動すると"connected"の文字が画面に浮き上がる。すぐさまピロリ、と通信回線が開くことを伝える電子音が鳴った。
端末機に表示された発信元の名前は……ナイチンゲール。
「え……えっ、えっ? もしもし、ナイチンゲール?」
慌てて耳に当てて呼びかけるが返事はなかった。代わりに重い物が激しくぶつかり合う音が、スピーカーから飛び出した。
不意打ちを食らったアマネは「きゃっ!」と悲鳴をあげて、携帯端末を放り投げた。
「おっと!」
オノデラが急ブレーキをかけるとハンドルの上に、端末機がぽとりと落ちる。荷台に積まれていた兵士たちの悲鳴は、けたたましいクラクションの音にかき消された。
「ごめんなさい、オノデラ保安官!」
「いえ、大丈夫ですよ。……大丈夫でしょう、きっと」
ハンドルを握っていた保安官は少し申し訳なさそうに後方に目を向けた後、ハンドルから滑り降りてきた携帯端末を受け止めた。
「落としましたよ……これは」
アマネに手渡そうとして、目を落とした画面に釘付けになる。受け取ったアマネも一緒になって、携帯端末の画面を見つめた。
青白い閃光と赤い電光が点滅する。画面の中央では、メタリックグリーンとガンメタルの装甲をまとった雷電と、クロームイエローの雷電が激しくぶつかり合っていた。
「雷電と闘っているのは、これが……?」
「ええ、アトミック雷電……“にせ雷電”、です」
「こちらから、発信元の位置を逆探知できます。すぐに現場に向かいますか?」
オノデラは自らの携帯端末を取り出し、ハンドル横のハンガーにとりつけた。画面を操作すると、位置情報追跡アプリのレーダーサイト画面が表示される。
アマネは画面の端に表示された光点をじっと見た後、首を横に振った。
「……いえ、レンジ君なら、きっと大丈夫です」
――それに、ドクトル無玄も、マジカルハートの介入を嫌がるだろうから。今は、私も他に、できることを……!
「それより、逮捕した被疑者の護送を優先しましょう。私が調書をまとめて、手続きしなきゃいけませんから」
「わかりました。最後まで、お付き合い願います」
「もちろんです。行きましょう!」
トラックがオーツ・ポート・サイトに向かって再び走り始める。アマネは握りしめた携帯端末に、再び目を落とした。
春の陽は既に傾きはじめていたが、二人の雷電は街道を北東に駆けながら尚も闘いを続けていた。
「オオオオオ!」
“ソーラーカリバー”の出力を更に上げ、ストライカー雷電は勢いを増していく。アトミック雷電はトンファーで受け止め、いなして攻撃をかわすが斬撃の嵐に押され、防戦一方となっていた。
「グッ、グググ……!」
重量級の金属塊を軽々と振り回す雷電を前に、アトミック雷電はトンファーを構えた防御体勢をとる。
動きがとまったアトミック雷電に向かって、雷電は大剣を片手で振り上げた。もう一方の手でベルトのレバーを上げて、再び下げる。更に出力を増した斬撃を、横一文字に振り抜いた。
「オラアアアアッ!」
熱を帯びた刀身に、青白い電光が走る。稲妻となった斬撃が襲い掛かり、トンファーに突き刺さった。双銃槌の片割れが砕け散る。雷電は勢いのままに突っ込み、返す大剣の柄でアトミック雷電を殴りつけた。
「オラアッ!」
「ガハッ!」
ヘルメットに強打を受けてのけぞるアトミック雷電に、ストライカー雷電は更に踏み込んだ。
「オラッ! オラッ! オラオラッ! ……オラアアアアッ!」
そのまま至近距離の間合いに持ち込み、加速した拳を続けざまに叩きこむ。とどめとばかりに叩きつけられた“ソーラーカリバー”の刀身が直撃すると、アトミック雷電は街道の外へと吹っ飛んだ。
「グッ……! ナカナカ、ヤル……」
森の中に落ちたアトミック雷電は、よろめきながら立ち上がる。残っていたもう一つのトンファーも失い、全身の装甲にヒビが入っていた。ストライカー雷電は大剣の切っ先を、アトミック雷電に向けて突きつけた。
「ソル/ガイアフォームの雷電の方が、パワーは上だ。まだやるつもりかよ、アトミック雷電!」
「フ、フフ……マダ、マダ、ダトモ!」
アトミック雷電はクツクツと笑うと、挑発するように両手を握りこぶしに構えた。体勢を立て直すと、ストライカー雷電に向かって走り出す。
「くそ、しつこい……ぐっ!」
雷電は大剣を構え、迎え撃とうと駆けだそうとしたが、全身を覆う装甲スーツにわずかな違和感をおぼえていた。
――数拍、遅い! 意識に体が、ついていかない……!
薄暗くなりはじめた視界の中、赤い電光の尾を引きながらアトミック雷電が迫る。
「ハアッ!」
「ガッ……!」
咄嗟に身構えたが反応が遅れ、雷電は思い切り蹴りつけられて吹っ飛んだ。
「残念ダッタナ、すとらいかー雷電! モウ陽ガ沈ム。ソウナレバ貴様ノすーつハ役立タズダ! ソレニ……」
“ソーラーカリバー”を取り落とし、アスファルトを転がるストライカー雷電を、アトミック雷電はしたたかに踏みつけた。
「がはあっ!」
「ハハハハハ! そーらーかりばーガ手元ニナケレバ、僅カニ残ッタ太陽光えねるぎーモ使エマイ! ドウダ! 私ノ勝チダ、すとらいかー雷電!」
「くっ、そ……があっ!」
ストライカー雷電のバイザーにひびが入る。視界にノイズが入るが、アトミック雷電は攻撃をやめなかった。
レンジは歯を食いしばりながら、振り下ろされたアトミック雷電の足首をつかんだ。
「ナニ? ……クソ、放セ!」
「嫌だね! このまま……やられてたまるかよ!」
アトミック雷電は脚を振り回してもがくが、レンジは手を離さなかった。
「マスター!」
必死に食らいつくストライカー雷電の左手に、白い翼が舞い降りる。矢のような勢いで飛んできた機械仕掛けの小鳥は雷電スーツの手首に巻き付いて、腕輪となって一体化した。
「ナイチンゲール!」
「マスター、私を使ってください!」
「無駄ダト言ッタハズダ! 私ガあとみっく雷電デアル限リ、貴様ラハ他ノふぉーむヲ使ウ事ハデキン!」
アトミック雷電は吼えるように言い放ち、雷電の手を振りほどこうと脚を振り上げる。
レンジはその瞬間に両手を離した。勢いをつけて転がりながら、自らのベルトに手をかけた。
「わかった、ナイチンゲール! いくぜ……“重奏変身”!」
雷電は叫びながらベルトのレバーを上げて、再び下げる。
「OK, Ensemble-Gear, setting up」
涼やかな声が応えると、腕輪が白い光を放った。パーカッションとシンセサイザーのコードが刻むリズムにのせて、エレキギターとストリングスの音色が立体音響で響き渡る。
「何ダト……!」
驚き、固まったアトミック雷電の目の前で、全身の装甲を破壊されていたストライカー雷電が白い光に包まれた。
「……Finished!」
四重装がフィナーレを迎えるとともに、眩い光が粒子となって消える。
ガンメタリックのマントをなびかせ、メタリックグリーンのラインに彩られた、白磁の装甲に身を包んだ雷電が、光の繭の中から立ち現れていた。
「”STRIKER Rai-Den” ……”SOLAR/GAIA HYBRID form”, starting up!」
腕輪となったナイチンゲール……“アンサンブル・ギア”が、高らかな声で変身完了を宣言した。
(続)
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