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アウトサイド ヒーローズ:エピソード2-12

エントリー オブ ア マジカルガール

 悲鳴をあげて拳を振り回すパワードオートマトンの足元を、縫うように雷電が駆ける。ヘルメットの通信機から、ドットの声が話しかけた。

「『マギフラワーの必殺技なら、オートマトンをとめられる! でも、技を撃つまで時間がかかるし、その間は無防備になっちゃうんだ! 足止めを頼むよ、雷電』」

「了解。あの子はマギフラワーってのか! どこでつかまえてきたんだ?」

 振り下ろされた拳を避けながら、雷電が尋ねる。

「『詳しいことは言えない……。でも、心強い味方だよ!』」

 雷電は巨人の足元を走り抜け、小山のような背中に駆けのぼった。オートマトンの弱点、胸部の真裏に配置された集積回路を狙うが、パワードスーツの装甲に覆われていて、狙い撃つことは難しかった。

「ダメか!」

 オートマトンが振り返る。雷電は背中の装甲を殴りつけ、鈍い音を立てるとアスファルトに飛び降りた。巨人の拳が宙を飛ぶ。

「大方、断りきれない状況に持っていったんだろう?」

 通信機に話しかけながら、ヒーローは再び走りだした。

「『ふみゃっ……!』」

 ドットがわざとらしく可愛らしい鳴き声をあげる。

「図星かよ! そうやって妙に悪知恵が回るところ、おやっさんに似てきたんじゃないか?」

「『う、うう……』」


 オレンジ色の丸い塊が言葉に詰まって小さく震える。マギフラワーは、杖を水平に構えたまま、丸い塊の横に立っていた。

「どうでもいいんだけど、作戦の通りに動いてよ。こっちはこのまま動けないんだから!」

 ドットはぴょんぴょんと跳ね、雷電に話しかけた。

「準備ができたら場所を教えるから、それまでおとりになって、逃げ回ってほしいんだ!」

「『“任せろ、釘付けにしてやるぜ!” ……すまん、スーツが勝手に……うおっと!』」

 雷電が叫び、通信が途切れた。連絡口の建屋の向こうから、パワードオートマトンの叫び声と地響きが聞こえる。

「大丈夫かな……」

 ドットがアマネの視線に入る高さまで跳びはねた。

「大丈夫、雷電はあのパワードスーツとも、オートマトンとも闘ってきたんだから!」

「事件のレポートを読んだんだけど、それって、スーツとオートマトン別々に闘ったんだよね。……一緒になったらどうなの、なんとかなりそう?」

 魔法少女兼巡回判事が尋ねると、ドットは跳ねるのをやめて地面にはりついた。

「きっと、大丈夫……うん、信じてるから……」

「確かに、信じるしかないのよね……」

 一人と一つは心細さを感じながら、建屋の向こうから響く物音に聞き耳を立てていた。


 振り回された大腕に殴られて雷電が吹き飛ぶ。狙い定めた一撃ではないためか、衝撃は思いの外軽い。雷電は空中で体勢を整え、片膝をついて着地した。

「いてえ……なあっ!」

 すぐさまパワードオートマトンの拳が振り下ろされる。雷電は横に跳んで避け、再び走りだした。

「『雷電、大丈夫?』」

 通信機からドットが尋ねた。

「今のところはな! あと何秒持たせたらいい?」

「『えっと……188、187、186、』」

「わかった、時間が近づいたら教えてくれ」

 雷電はげんなりしてドットの言うカウントをとめた。

「『了解だよ!』」

「それと、雷電スーツの充電はどうだ?」

「『必殺技、あと2発は撃てるよ! ……でも、あのオートマトン相手には、あまり役に立たないと思う』」

 パワードオートマトンが雄叫びをあげ、右の大腕を振り回す。雷電は後ろに大きく跳び去った。

「切り札はそっちにあるんだろ? なら、いくらでも使いようはあるさ」

 ドットに答えると、ヒーローは異形の戦闘機械に向き直り、バイザー越しに睨み付けた。

「かかってこいよヨシオカ! “今度こそ、引導を渡してやるぜ!”」

 機械人形の全身に巡らされたセンサーライトが、燃えるようなオレンジ色に明滅した。

「Gooおオオオoooh! ゾoooオオオオオooooohchrrrrrrr……!」

 自らの機体を砕かんばかりに身震いし、スピーカーを潰さんばかりに叫ぶ。機械の亡骸に埋もれていた幽鬼が目覚め、怨敵に狙いを定めていた。

 巨体が地を駆ける。兵士たちを叩きのめした時よりも速く、激しく、容赦のない鋼の嵐がアスファルトを砕きながら迫ってきた。

 雷電は大きく弧を描きながら、パワードオートマトンを引き付けて走り続けた。動きが大振りになったために、避けるだけならばそれまでよりも楽になっていた。

「問題はゴールか……。丸いの、あとどれくらいだ?」

「『あと23、22、21、20、』」

「よし、目標地点に誘導する!」

「『了解だよ!』」

 怒り狂う戦闘機械を引き連れた雷電は、バイザー越しの視界に赤く投影された目印に向かって走りだした。


 地響きを立てて三本腕の巨人が迫る。マギフラワーの構える杖から、可愛らしい音楽が流れ出した。

「何、これ?」

「もうすぐチャージが終わるんだ! あと8、7、6、5……」

 ドットがカウントしているうちに、雷電とパワードオートマトンがマギフラワーの正面、赤くマッピングされた目標地点に走り込んできた。

「雷電! 足留めをお願い!」

 カウントをやめてドットが叫ぶ。

「任せろ!」

 駐車スペースほどの赤い四角形に巨人が足を踏み入れた途端、雷電はアスファルトを踏みしめ、パワードオートマトンの足元に飛び込んだ。

 前転しながら足元をすり抜ける。パワードオートマトンは急制動をかけ、転がる銀色の珠に向かって右の大腕を振り下ろした。

「雷電!」

 ドットが叫ぶ。雷電の動きが見えていたマギフラワーは冷静だった。

「大丈夫……!」

 鈍い銀色のヒーローは巨大な指の間から抜け出し、パワードスーツの腕に飛び乗っていた。

「“サンダーストライク”!」

 叫びながら貫手を放つ。雷電の音声コマンドを受け、ベルトのバックルも音声を発した。

「『Thunder Strike』」

 スーツの全身に走るラインが青白く輝き、電光が弾ける。スーツ稼働用の電力を瞬間的に消費して高圧電流を纏った高出力の一撃を放つ、ストライカー雷電の必殺技。

 鈍い銀色の腕が巨人の右腕に突き刺さり、勢いのまま砕き断った。間近で見ていたドットが跳び跳ねる。

「やった!」

「まだだ!」

 アスファルトに落ちる巨大な拳を蹴って、雷電は更に跳んだ。むきだしになったオートマトンのセンサーが、宙に浮く雷電の右足を捉えていた。

「“サンダーストライク”!」

「『Thunder Strike』」

 再び電光を迸らせながらドロップキックを放つと、雷電の足はオートマトンの胸部装甲にめり込んだ。バランスを崩していた巨人は両膝をつく。

「『……Discharged!』」

 ベルトの音声が、必殺技を撃つだけの充電が尽きたことを告げる。ヒーローは素早く赤い四角から離れた。

「後は任せた!」

「オッケー! マギフラワー、準備を!」

 ドットの合図を聞いて、魔法少女は杖を握る手に力をこめた。

「“ブロッサムシューター”!」

 水平に構えた杖の先、花の飾りがぐるりと動いてパワードオートマトンに向けられた。花の中央に桃色の燐光が集まり、輝きを増していく。

 巨人が起き上がり、顔を上げたところでドットが叫んだ。

「今だ!」

「ブルームアロー・フルチャージ!」

 アマネの声に合わせて、杖に集まった桃色の光が矢となって飛び出した。眩い光がパワードオートマトンを貫き、緩やかに傾斜しながらショッピングモール上空へと伸びていった。

 光が消えると、オートマトンの上半身ごと操縦席が消し飛ばされたパワードスーツが崩れ落ちた。

「やった、やった! 大成功だよ!」

 杖をついて放心するマギフラワーの回りをドットが跳び跳ねる。雷電も魔法少女に駆け寄った。

「マギフラワー……だっけ? お疲れさん。うまくいったな!」

 魔法少女のインカムから、ピロリと新しい通話回線が開く音が鳴った。

「ストライカー雷電もお疲れ様。……ごめん、私行かなきゃ!」

「ああ、気をつけて……?」

 ピンク色の少女は、言うなり一目散に走って建物の陰に消えた。

「丸いの、結局あの魔法少女は何だったんだ?」

「だから、この格好の時はドットって呼んでよ……むぎゅう!」

 雷電がドットのボディを掴み上げ、左右に引っ張ったりこね回すように揉んだりしていると、スーツ姿のアマネが走り込んできた。雷電の前で立ち止まり、息を整えて顔を上げる。

「ヒーローさん、助けて!」

(続)

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