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アウトサイド ヒーローズ:特別編6

劇場版ストライカー雷電:インフィニット エナジー ウォー

「『OK! Generate-Gear, setting up!』」

 ベルトの人工音声がレンジの声に応えると、立体音響によってシンセサイザーの電子的な音楽が流れ出した。
 “にせ雷電”は突っ立ったまま、雷電の変身を見守っている。雷電スーツがまばゆい光に包まれると、黄色い装甲スーツを纏った男はひずんだ笑い声をあげた。

「ククク……ハハハハ!」

 光を帯びた装甲に、緑色の稲妻が迸る。音楽が最高潮に達した時、光が弾け飛んでメタリックグリーンの装甲に身を包んだ雷電が姿を現した。ベルトの人工音声が、変身完了を宣言する。

「『Equipment! “SOLAR-POWER form”, starting up!』」

「フハハハハ! “すとらいかー雷電・そーらーぱわーふぉーむ”、変身完了ダナ!」

 “にせ雷電”は嬉しそうに叫ぶと、腰の左右に提げていた、武骨な拳銃型の銃器を抜いた。

「ソノ性能ヲ見セテミロォ! 来イ!」

「ウオオオ!」

 雷電・ソーラーパワーフォームはメタリックグリーンの大剣を構えると、クロームイエローの二丁拳銃を構える“にせ雷電”に向かって走り出した。


 “模造テリヤキ・イール、安くて早い!” “オーガニック・フルーツ・ジュース” “各種サイバネ部品有リ升”……

 蛍光色の光をとりどりに散らす看板がぶら下がる地下空間。そこかしこから流れ出す音楽が混ざり合ってうねり、光と音が猥雑な渦となってぶちまけられたナゴヤ・セントラル・サイトの目抜き通り、ヒサヤ・ブロードウェイ。
 客を捕まえようと声を張り上げ続ける客寄せ、道行く男たちを捕まえようと、給仕服の娘たちが手を伸ばす。そして正面を向いたまま歩き続ける、大多数の通行人たち。
 絶え間なく流れる人の列に、丸い穴がぽかりと空いている。円の中央にいるのは機械頭と真っ赤な二本角の、異様な風貌をした二人連れだった。

「あの人って、ミュータント……」

「しっ! 見ちゃだめよ……」

 二本角の男を見上げた少年を、母親が慌てて引っ張っていく。目を合わせないようにしながら人ごみの奥に消えていくと、それまで素知らぬ振りをしていた他の通行人たちも男たちから顔を背けた。
 機械頭の男が肩をすくめ、頭部のセンサーライトをチカリと光らせる。

「いやあ、見事な歓迎ぶりですねえ、タチバナ“保安官”!」

「タワケか、いちいち煽るんじゃない、メカヘッド!」

 二本角のミュータントにしてナカツガワ・コロニー保安官のタチバナは、顔をしかめてメカヘッドを睨んだ。

「他所の町の保安官なんて肩書、何の役にも立たん。仕方ない、この町じゃあなあ……」

――ミュータントであるというだけで反社会勢力への関与を疑われ、悪い意味で一目置かれるこの町では、距離を取られるのも仕方がない。ましてや、オニ・デーモンのように恐ろしい風貌と鍛えられた肉体を持つミュータントの男なら、母親が必死に子をかばうのも無理はなかろう……

「そりゃあ、そうなんでしょうけどね。こんな扱いをされてまで、見回りをしなきゃいけないというのは……滝アマネ巡回判事殿がいれば、こんなことにはならなかったんですけどねえ」

 子どもを守ろうとしていた母親に同情していたタチバナは、メカヘッドの愚痴る声を聞いて「はあ……」とため息をついた。

「巡回判事殿は、ワケあって別行動中だ」

「そうなんですか。キョート探索に、同行していたと聞いてますが?」

「まあな。だがちょっと、子守りにな」

「子守り? それってもしかして、先輩のところの……」

 好奇心旺盛な犬耳と鱗肌の子どもたちを思い出していたメカヘッドに、タチバナは「うむ……」とうなずいた。

「見て見ぬふりをして、本当に困ったときに助けりゃいい……と思っていたのがよくなかった。それを巡回判事殿が追いかけていってな。幾つになっても、子育てってのは難しいよ」

「なるほど。マジカルハートがついているから、子どもたちはひとまず、大丈夫でしょうけど……巡回判事殿のことも、いつまでも知らないふりを続けるわけにはいかないかもしれませんね」

「まあな。だが、巡回判事殿にも、色々と思うところはあるんだろう」

 タチバナはマダラから聞かされていた、“マジカルハート”が身につけるパワードスーツ・ドレスの仕様を思い出していた。
 元々ミュータントには使えないようにプロテクトされていたシステムに手を入れた結果、“限りなく変異がゼロに近い、それでいてミュータントである人物”でなければ十全に扱えない“失敗作”。それを使っているということは、彼女は……

「本人が自分から話してくれれば、それが何よりなんだがな……」

「あの年で“魔法少女”を名乗るのは、相当辛いでしょうからねえ……」

 深刻そうなタチバナの顔を見て、メカヘッドは納得した様子でうなずく。

「タワケ! それはセクハラだぞ!」

 タチバナがメカヘッドを叱り飛ばしていると、ポケットに入れていた携帯端末が呼び出し音を鳴らした。取り出すと画面には、マダラの名前が表示されている。

「タチバナだ。どうした、マダラ?」

「『おやっさん、例の“にせ雷電”が出た! 今、雷電と闘ってる!』」

「そうか、場所は……わかった、俺もすぐ行く」

 通話回線を閉じ、端末をポケットに戻すと、タチバナはさっさと歩き始める。説明を受けず、ぽかんとしていたメカヘッドが慌てて追いかけた。

「タチバナ先輩、ちょっと待ってくださいよ!」

「ああ、すまん。例のニセモンが出た」

 タチバナはハッとして立ち止まると、振り返って後輩を見る。言葉少なに事情を伝えると、再び歩き出そうと踵を返した。メカヘッドが急いで、隣に並んで歩きだした。

「わかりました、けど……何でそんなに気にしてるんです? いつもはマダラ君と一緒に、モニタールームに詰めてるのに……」

「そうだな。だが、どうしても気になってな」

 メカヘッドが尋ねると、タチバナは振り向かずに答えた。

「ウチの雷電スーツは、旧時代のオーパーツをマダラが改造したものだ。だが、あのニセモンは何だ? 同じモノが早々見つかるとも思えんし、それをマダラと同じか、それ以上の技術を持ったメカニックが改造したとなると……」

「言われてみれば……映像を見せてもらいましたが、凄い性能ですよね、あの黄色いスーツ」

「それと、ニセモンの目的だ。ヤツは完全に雷電をマークしてる。その癖俺たちを追いかけるんじゃなくて、追いかけさせようとしてる。訳が分からんが……」

 タチバナは大股で歩き続ける。視線は目の前のさらに先、火花を散らす二人の雷電に向けられているようだった。

「あの異常な雷電へのこだわり、妙に引っかかってな。……行くぞ」

「了解です」

 通行人たちが脇によけ、作られた道を真っすぐ歩いて、タチバナとメカヘッドは地下回廊を進んでいった。


 “にせ雷電”が構えた二丁拳銃から、赤い光弾が次々と放たれる。
雷電は走りながら、幅広剣を盾にして弾幕を防ぐ。“ソーラーカリバー”に受け止められた赤い光は泡のように潰れ、メタリックグリーンの刀身に吸い込まれて消えた。

「『“ソーラーパワーフォーム”は、光を吸収してエネルギーにするんだ! そのままやっちゃえ、雷電!』」

「フフフ……!」

 二丁の銃を構えながら、“にせ雷電”は楽しそうに笑う。雷電はそのまま走り続けた。光弾を防ぎきると、“ソーラーカリバー”を高く振りかぶった。

「オラアアアア!」

 雄たけびとともに、極厚の金属板を真横に振り抜いた。装甲スーツの相手を胴打し、そのまま吹っ飛ばそうと放った一太刀は……“にせ雷電”が両手に構えた拳銃のバレルによって受け止められた。

「なっ……!」

「ハハ! サスガニ、思イ切リガ良イ」

 “にせ雷電”は陽光を浴び、バイザーを赤く輝かせながら楽しそうに笑う。
 雷電が幅広剣を再び構え直そうとした時、“にせ雷電”は右の拳銃をくるりと回転させた。メタリックグリーンの装甲に向けられた銃口が閃光を放つ。

「ぐあっ!」

 強烈な衝撃を胸部装甲に受け、雷電がのけぞる。実体弾だ!
 “にせ雷電”は双銃の引き金を引き、実体弾を連射した。雷電は大剣を盾にして弾丸を防ぐ。

「くそ、タマを切り替えられるのかよ!」

「当然ダ。ソノぎあノ設計図ハ、誰ガ書イタト思ッテイルノダネ? 先程マデハ、光充電ノ動作ちぇっくニ過ギン……ハアッ!」

 ひずんだ声を放ちながら、銃身をくるりと回転させる。武骨な二丁拳銃をトンファーにすると、“にせ雷電”は身を守る雷電に殴りかかった。

「フンッ!」

 腕一本から放たれたと思えぬ、重い打撃が大剣を弾く。

「この……っ!」

「フン! フ、フ……ハアッ!」

「『パワーが、違い過ぎる!』」

 乱れ撃たれる双棍をさばき、雷電は防戦一方となっていた。マダラが悔しそうに漏らした声が、雷電スーツのヘルメットに響く。

「出力ガ違イ過ギルノダヨ、“すとらいかー雷電”。モット、ソノぎあノぱわーヲ引キ出シテミタマエ!」

「なに……! どういうことだ、マダラ?」

「『“ソーラーパワーフォーム”のパワーは、そんなもんじゃないんだ』」

 乱打を打ち返しながらレンジが尋ねると、マダラが悔しそうな声で返す。

「『“ライトニングドライバー”のレバーを上げて、下げれば出力を上げられる。でも、システムの解析ができなくてリミッターをつけられなかった! パワーを上げ過ぎると、暴走する可能性がある……!』」

「ドウシタ? コノママデハ、きょーとノ二ノ舞ダゾ! ……ハアッ!」

 “にせ雷電”は痛打を放ち、雷電を突き飛ばした。流れるような動作で銃口を雷電に向けると、両手で引き金を引く。
 実体弾がメタリックグリーンの装甲に突き刺さり、雷電スーツのバイザーに“COUTION !”の黄色い文字が表示される。

「ぐっ……!」

「『スーツの装甲が削られていってる! 雷電、気を付けて!』」

 マダラが叫ぶ。“にせ雷電”は仁王立ちになって、雷電に双銃を突き付けていた。

「ちくしょう……やるぞ!」

 “にせ雷電”を睨みつけながら、腰に巻いたベルト……“ライトニングドライバー”のレバーを上げて、再び下げる。

「『BOOST!』」

 ベルトの人工音声が叫ぶと、“ソーラーカリバー”の刀身から白い煙がのぼりはじめた。バイザーには“BOOST MODE”という、真っ赤な文字が映し出される。“にせ雷電”の銃弾をするりとかわし、雷電は走り出した。

「ウオオオオオオオ!」

 射線が見える。反応して、体が動く。避ける動きは最小限に。そして真正面からぶち当たる弾丸は、かざした大剣で防ぎきる。

「オラアア!」

 “にせ雷電”の目の前にたどり着くと、“ソーラーカリバー”を重さに任せて叩きつけた。

「早クナッタガ、マダ足リン!」

 黄色い装甲の雷電は打撃のごとき斬撃をかわすと、双銃をトンファーに切り替えて構える。
 しかし、雷電は大剣を大地にめり込ませたまま、“ライトニングドライバー”のレバーに片手をかけていた。

「もっとだああ!」

 再びレバーを上げて、下げる。全身の装甲から煙が噴き出した。スーツの各部がきしむような感覚に襲われながら、雷電は片手で“ソーラーカリバー”を引き抜いた。

「ウラアアアア!」

「ガアアアアアッ!」

 そのまま遠心力に引かれるまま、大剣を真横に振り抜く。跳び上がっていた“にせ雷電”は打撃を受け、勢いよくエレベーター建屋の残骸に突っ込んだ。
 土ぼこりがあがり、すぐさま残骸がコンクリート塊となって吹き飛ぶ。“にせ雷電”が土煙の尾を引きながら、瓦礫の中から跳び出したのだった。

「見事ダ、流石“すとらいかー雷電”ノ変身者! すーつノ性能ヲ、良ク引キ出シテイルデハナイカ! ……ダガ!」

 ひずんだ声で楽しそうに叫びながら、“にせ雷電”も加速する。大剣と双棍が火花を散らし、激しく打ちあった。
 メタリックグリーンの斬撃をクロームイエローのトンファーがいなし、カウンター気味に撃ちこまれる打撃を、大剣の刀身が受け止める。速さも、威力も、互角!

「ハハハ! 素晴ラシイ、素晴ラシイナ! 雷電!」

「うるせえ、往生しろやああああ!」

 雷電は更にレバーを操作し、スーツの出力を引き上げた。熱を帯びていた“ソーラーカリバー”の刀身から、激しく炎が噴きあがる。

「オオオオオオオオ!」

 バイザーに赤い“DANGER!”の文字。全身に痛みが走るが、雷電は更に加速した。トンファーを僅かに凌ぐ速さで大剣を振るう。互角の打ち合いは、雷電が押し始めていた。

「『雷電、そろそろスーツが限界だ!』」

「グウッ……! 素晴ラシイ! ソノママ、限界ヲ超エテミロオオオ!」

「うるせえって……言ってんだろおおおオオオオオ!」

 オニ・ダイモーンのごとき気迫で、雷電が“にせ雷電”を押し込む。斬撃の嵐をいなし、かわしながら、“にせ雷電”はひずむ声で笑っていた。

「ハハハ、ハハハハハ!」

「何が、おかしいいいいい! ……オラアアアアアア!」

 雷電の大剣が“にせ雷電”を捉えた。黄色いパワードスーツは吹っ飛んで、再びエレベーターの残骸に突き刺さる。
 既に大きく破壊されていたエレベーター建屋は、“にせ雷電”の直撃を受けて根本から崩れはじめた。

「見事ダ! ハハハ、ハハハハハハ……!」

 建屋の壁に突き刺さった“にせ雷電”は笑い声をあげながら、エレベーターの竪穴から下に落ちていく。足元の土台が崩れ、雷電も大剣を持ったまま大穴の中に落ちていった。

「『雷電!』」

 マダラが叫ぶ。白磁の装甲を纏った鳥が円を描いて上空を舞うと、雷電たちを追って穴の中に突っ込んだ。ぴりり、と作動音を鳴らしながら、機械仕掛けの鳥は白い矢となって地の底に消えていった。

 ナゴヤ・セントラル地下6層。市街中心区域から離れ、閑静なオフィス街といった風情の区域に、鈍く重い衝突音と激しい衝撃が走る。

「……あっちだ、急ぐぞ!」

 戸惑う住人達をかき分けてタチバナが走り、メカヘッドが後を追いかける。逃げる人の流れに逆行しながら二人がたどり着いたのは、地上に向かう大型エレベーターの残骸だった。

「何だ、こりゃあ……」

 エレベーターがあったと思われる空間は、地上から落ちてきた瓦礫に押しつぶされて小山になっている。タチバナが驚いて突っ立っていると、メカヘッドがようやく追いついた。

「雷電たちの闘いの余波で、崩れ落ちたんでしょう……はあ、すさまじいな、これは」

「雷電はどうなってる? ……おい、マダラ、状況は?」

 端末機を開いてタチバナが怒鳴っていると、瓦礫の山の中から二つの人影が立ち上がった。双銃を携えた黄色い雷電は、大剣を杖代わりにしているメタリックグリーンの雷電を見て、楽しそうに笑った。

「……フハハハ、ハハハハハ!」

「ちくしょう、まだやる気かよ……!」

 雷電は大剣を構えた。刀身から炎が噴きあがり、武器を握る手にも炎が伝って燃え広がり始める。それとともに、雷電スーツから火花があがった。

「ぐっ……!」

「ソロソロ、限界カネ? ハハ、ハーッハッハッハ……!」

「うる、せえ……!」

 雷電がレバーに手をかける。マダラが通話回線を開いて叫んだ。

「『レンジ、雷電スーツがもう限界だ! これ以上やったら、ナゴヤの地下を焼き尽くすことになるぞ!』」

「なに? ……ぐっ、があああ!」

 マダラの警告に固まった雷電に向かって、“にせ雷電”が双銃の引き金をひいた。

「ドウシタ、“すとらいかー雷電”! マダ、終ワッテナインダロウ……?」

「ふざけるな、一旦終わりだ! これ以上、ナゴヤの町を巻き込むわけにはいかないだろうが!」

 雷電は大剣を瓦礫の山に突き立て叫ぶ。“にせ雷電”は銃を構えながら、体を震わせてくつくつと笑った。

「マダ、ヤレルハズダゾ、“すとらいかー雷電”! ソレトモ、“そーらーぱわーふぉーむ”カラ変身ヲ解除デキナイヨウニシテヤレバ、納得モデキルノカナ……?」

「何! そんなマネが……?」

「ソノぎあヲ設計シタノハ私ダト、言ッテイルダロウ! ヤル気ヲ出セナイノナラバ、イクラデモヤリ方ハアル、トイウ事ダ。サア、満足デキルマデ付キ合ッテモラウ。剣ヲ抜ケ、“すとらいかー雷電”!」

 双銃を突きつけながら吼える“にせ雷電”を睨みつけながら、レンジは炎を帯びた“ソーラーカリバー”に手をかけた。

「くそ、くそ! やるしかないか……!」

「お待ちください、マスター!」

 涼やかな声が響くと、白く光る矢が雷電スーツのベルトを掠めて足元に突き刺さる。雷電を追って竪穴に飛び込んだ機械仕掛けの小鳥が、猛烈に加速しながら舞い降りたのだった。

「『STRIKER “Rai-Den” ……shutting down』」

 ベルトの人工音声が声をあげると、雷電スーツが光の粒となって消え去った。“ライトニングドライバー”のバックル部分が外れて、瓦礫の中に転がり落ちる。
 雷電スーツが解除されたレンジが膝をつくと、機械仕掛けの小鳥がぴりり、と鳴いてそばに跳ね寄った。

「マスター、雷電スーツを強制解除しました」

「ああ、ありがとう、ナイチンゲール」

 “ソーラーカリバー”の刀身から噴き出す炎は、少しずつ小さくなり始めていた。“にせ雷電”はつまらなさそうに首をかしげて、よろめきながら立ち上がるレンジを見ていた。

「フン、いれぎゅらーメ。何度モ邪魔ヲ……」

 レンジはひざの土ぼこりを払うと、忌々しそうに呟く“にせ雷電”を睨みつける。

「俺はもう闘わないぞ。どうする、“にせ雷電”」

「フン、徹底的ニヤリ合イタカッタガ……マア、良イ」

 “にせ雷電”は短く言い捨てると、踵を返してレンジに背を向けた。

「マタ会オウ、“すとらいかー雷電”ノ変身者」

「なんでそんなに雷電にこだわってんのかわかんないけど、もう勘弁してくれよ……」

 レンジのつぶやきを聞き、“にせ雷電”は立ち止まった。

「何ヲ言ウ。次ガ最後ダガ、今度ハひんと無シダ。貴様ガ“すとらいかー雷電”ナラバ、自力デ見ツケテ、トメテミセルガイイ……」

「何?」

「デハ、今度コソ、サラバダ」

「待て!」

 再びレンジに背を向けて去ろうとした“にせ雷電”を呼び止めたのは、黙って様子をうかがっていたタチバナだった。“にせ雷電”はバイザーを赤く光らせて振り返る。

「貴様ハ……!」

「お前は、もしかして」

 口を開きかけたタチバナの姿を捉えると、“にせ雷電”は瓦礫の山を蹴って駆けだした。加速をつけてタチバナに駆け寄り……二本角の赤いミュータントに、強打を叩きこんだ。

「ぐはあっ!」

「おやっさん!」

「フーッ! フーッ! ……あかおにイイイイ!」

 “にせ雷電”は怒り狂った声で叫びながら、我武者羅にタチバナを殴りつける。タチバナは必死で自らをかばいながら、パワーアシストののった拳を受けていた。

「やめろ! ……ぐっ!」

「マスター! ……タチバナさん!」

 駆け寄ろうとしたレンジは、スーツを酷使した反動による激痛に呻いた。成すすべのないナイチンゲールは“にせ雷電”に突っ込むが、降り抜いた右手に薙ぎ払われる。

「きゃっ……!」

「フン! ……認メン、認メンゾ、貴様ナド!」

 怒り狂った“にせ雷電”にとっては、小虫をはたき落としたくらいの感覚だった。ひずんだ声を更に激しく震わせながら、再びタチバナにつかみかかる。痛みに声も出ないタチバナを張り倒そうと、手を振り上げた時、

「やめて!」

 若い娘の叫び声とともに大きな手に突き飛ばされて、“にせ雷電”は勢いよく真横に吹っ飛んだ。

「ガアアア!」

 瓦礫を転がりながら受け身を取り、“にせ雷電”は距離をとって立ち上がる。

「誰ダ、邪魔ヲスルナ!」

 睨みつけた先に立っていたのは、青い肌をした長身の少女だった。大きな両手を持つ少女は、“にせ雷電”を真っすぐに見つめ返していた。

「お父さんに手を出さないで! ……“アトミック雷電”!」

(続)

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