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アウトサイド ヒーローズ:特別編3

劇場版ストライカー雷電:インフィニット エナジー ウォー

 荒廃した街を貫いて延びる幹線道路を、二つの影が走る。雷電と、もう一人の雷電……二人の脚は稲妻をまとい、激しくアスファルトを蹴った。

 周囲の景色が無数の線を引くように消え去る中、雷電スーツのオートフォーカス機能は目の前の相手に焦点を合わせていた。


「狙いは……俺か!」


 襲撃者がバンを狙う素振りも見せずに雷電を追いかけ続けているのを見て、レンジは拳を握り込んだ。アスファルトを踏み抜いてブレーキをかけると、電光の走る拳を叩きつける。


「オラアア!」


 雷電の拳は、“にせ雷電”の腹部に突き刺さった。黄色い装甲の上に、波紋のように電光が走る。


「『やった!』」


 闘いを見守っていたマダラが思わず声をあげる。しかし、“にせ雷電”は微動だにしなかった。


「『えっ! 効いてない?』」


「……フン!」


 “にせ雷電”は加工され、ひずみの入った声を発しながら拳を振り抜いた。雷電は後ろに跳びのいて、相手の打撃をかわす。“にせ雷電”は一気に距離を詰め、続けざまに拳を放った。


「ハアアアッ!」


「くそっ、速い……!」


 雷電は乱れ撃たれる拳をかわしながら、腰に提げた金属塊を取り出していた。メタリックレッドのナックル……“イグニッショングローブ”を右手に握り込むと、飛んでくる“にせ雷電”の拳に向けて、真っ向から撃ち返した。


「オラアアア!」


「フンッ!」


 拳が互いにぶつかり合うと火花が散った。雷電の拳がはね返され、“イグニッショングローブ”がはじけ飛ぶ。


「ぐうっ!」


 雷電はのけぞりながらも、左手にメタリック・ブルーの丸盾を握り込んでいた。追撃する“にせ雷電”の拳を、左手の丸盾“ゲートバックラー”で受け止める。丸盾は打撃の衝撃を受け止め、それを雷電のエネルギーに変換する……はずだったが、


「ハアッ!」


「ぐうっ……!」


 “にせ雷電”が振りぬいた拳は、“ゲートバックラー”ごと雷電に突き刺さった。体勢を崩した雷電が後ろに大きくのけぞる。


「『雷電!』」


 インカム越しにマダラが呼びかけるが、雷電が反応するよりも先に、“にせ雷電”が駆けだしていた。赤黒い電光をまとった拳を、無防備になった雷電に叩きこむ。


「ぐはあっ!」


 追撃を受けた雷電はボールのように吹っ飛び、ガラスが全て割れ落ちた商店跡に突き刺さった。瓦礫が散らばり、細かな粒子が砂埃のように舞い上がる。しかし勢いは殺がれず、雷電は建物を貫通して飛び出した。

 背中でアスファルトを削りながら、雷電スーツが路地に投げ出される。


「マスター!」


 白い翼を広げ、ナイチンゲールが舞い降りる。激しい衝撃を受けたレンジは全身の痛みに体を震わせながら体を起こした。


「うっ、ぐううっ……!」


 建物に空いた大穴をくぐって、悠々とした足取りで“にせ雷電”が現れる。


「ヤハリ、マダ動ケルヨウダナ。“すとらいかー雷電”ナラバ、ソウデナクテハ」


 砂煙の中から雷電を見下ろす、赤黒く光るバイザー。そして、ひどくひずんだ声。

 歯を食いしばりながら立ち上がろうとする雷電をかばって、翼を広げたナイチンゲールが“にせ雷電”の前に静止した。


「これ以上、マスターに危害を加えることは見過ごせません」


「邪魔ヲ……スルナッ!」


「きゃあっ!」


 “にせ雷電”が腕を軽々と振り抜くと機械仕掛けの小鳥は弾き飛ばされ、廃墟の壁に突き刺さった。


「ナイチンゲール! ……くそ!」


 雷電はよろめきながら立ち上がると、腰のスロットに最後に残ったメタリックオレンジの拍車を手に取った。


――理由はわからないが、“イグニッショングローブ”も、“ゲートバックラー”も起動しない。この“ウインドホイール”も使えないかもしれない……けど!


 拍車を踵に取り付ける。悠然と構える“にせ雷電”と向かい合いながら、雷電は腰のベルトにつけられたレバーを引き上げ、そして拳を叩きつけるようにして、再びレバーを引き下げた。


「“重装変身”!」


「『……ERROR!』」


「フフ、フハハハハ……!」


 ベルトから警告音のブザーが響き、人工音声がフォーム・チェンジの失敗を告げる。“にせ雷電”は愉快そうに、ひずんだ声で笑った。


「無駄、無駄ダ! ハアッ!」


 とどめ、とばかりに“にせ雷電”が殴りかかる。

 雷電はするりと力を抜いて攻撃をかわした。そのまま両脚に力を込めて踏ん張ると、真上に突っ込んでくる“にせ雷電”に向けて、思い切り拳を突き上げた。


「“サンダーストライク”!」


「『Thunder Strike』」


 “必殺技”の発動コマンドを叫ぶと、装甲に走るラインが青白く輝いた。電光が全身を走り、そして突き上げた拳に集中する。

 高圧電流と瞬間的に強化されたパワーアシストにより、爆発的に威力を増したアッパーカットが“にせ雷電”の黄色い装甲に突き刺さった。


「ムウッ……!」


「おおおお! “サンダーストライク”ッ!」


 雷電が再び叫ぶ。振り抜いた拳をしならせると、打撃を受けた“にせ雷電”に裏拳を叩きこんだ。


「『Thunder Strike』」


 ベルトの電子音声が応え、雷電の拳に青白い電光が走る。二発目の“必殺技”は、“にせ雷電”のヘルメットを確実に捉えていた。オペレートしていたマダラが叫ぶ。


「『すごいぞ、連続ヒットだ!』」


「ぐうっ……!」


「『Empty!』」


 レンジは全身に軋むような痛みを感じながらひざをついた。ベルトの人工音声がエネルギー切れを告げる。連続で“必殺技”を放った結果、雷電スーツは活動限界を迎えていた。


「『雷電!』」


「う……ぐう……!」


 マダラが呼びかける。“にせ雷電”は動かなくなった雷電の首を掴むと、軽々と持ち上げた。スーツの機能が停止し、関節が固まったままの手足がダラリと垂れる。レンジは苦痛にうめき声をあげた。

 赤黒い光を発するバイザーが、動かなくなった雷電スーツを見上げている。


「動かない、くそ……! 動け……!」


「コレデ終ワリダ。“今日ノトコロハ”ナ……」


  “にせ雷電”はひずんだ声で冷酷に言い放つと、雷電を再び放り投げた。


「……ハアッ!」


 鈍い銀色のスーツは再びボールのように飛んでいき、表通りに面した空き地に置かれていた大型コンテナに、勢いよく突っ込んだ。


「がああああっ!」


「マスター!」


 廃墟に叩きつけられていたナイチンゲールは機能を回復させると、雷電を追ってコンテナに飛び込んだ。

 室内には折り畳み式のテーブルが並び、旧式の小型端末機がいくつか置かれている。この幹線道路を行き来するキャラバン隊が設置した、簡易拠点のようだった。

 暗い床の上に、雷電が仰向けに転がっている。


「マスター、ご無事ですか!」


「ナイチン、ゲール……」


 白く光る小鳥が雷電スーツの胸部装甲に舞い降りる。レンジは応えて声をあげるが、充電切れのスーツは身動きが効かなかった。


「逃げろ! みんなと、一緒に……!」


「その命令は無効です! マスター、一緒に……」


 ぴりり、ぴりりと作動音を鳴らしながらナイチンゲールが言いかけた時、背後の大穴に影が射した。

 機械仕掛けの小鳥がくるりと首を回転させて振り向くと、全身に走るラインを赤く輝かせたもう一人の雷電が、コンテナの入り口に立っていた。

 倒れた雷電をかばって、ナイチンゲールは再び両翼を広げる。


「今度こそ、これ以上は……!」


 “にせ雷電”はコンテナの中に侵入する素振りを見せなかった。バイザーを赤黒く輝かせ、倒れた雷電を見下ろしている。


「貴様ニハ、何モデキマイ……サテ」


「ストライカー雷電!」


 言いかけた時、外から凛とした女性の声が聞こえてきた。滝アマネ巡回判事がこっそりとバンから離れて変身した魔法少女……“マジカルハート・マギフラワー”が、雷電たちを追いかけてきたのだ。

 “にせ雷電”は舌打ちすると、大きく片手を上げた。


「コチラノ目的ハ果タシタ。面倒ナ事ニナル前ニ、退散スルトシヨウ」


「逃がしません!」


 両翼を閉じ、矢のようにナイチンゲールが飛び掛かる。“にせ雷電”は造作もなく、飛んできた小鳥を叩き落とした。

 装甲の一部が欠け、白くきらめく粒子となって飛び散る。


「きゃあ!」


「フン、他愛モナイ……デハナ、すとらいかー雷電。次ハなごやデ会オウ。私ヲトメタケレバナ! ……オット!」


 “にせ雷電”は再び上げた手を振り下ろすと、勢いよく跳び上がった。その瞬間、コンテナの外をピンク色の光が走る。

 マギフラワーが“にせ雷電”を狙って、レーザービームを放ったのだった。ひずんだ笑い声が、空に向かって消えていく。


「ハハ、ハハハハ……!」


「ああっ、逃げられた! ……大丈夫、雷電?」


 薄ピンク色のドレスをふわりとなびかせながら、マギフラワーが入れ替わるように降り立った。


「多分、ケガはないよ。スーツのお陰でな。……けど、もうしばらく動けそうにない。ナイチンゲールは?」


 コンテナルームの中に転がっていた小鳥が、よろめきながら起き上がる。


「装甲各部に多少の損傷がありますが、正常稼働の範囲内です。……マダラさん、先ほど“にせ雷電”に接触した時、発信機を打ちこむことに成功しました。信号を追跡することが可能です」


「『あの状況で、よくやったなあ! ありがとう、ナイチンゲール。でも今は、まずレンジと雷電スーツを回収しなきゃ』」


 ナイチンゲールの呼びかけに、通信回線の向こうから感心した様子でマダラが応えた。


「『空白地域でドンパチやったとなりゃ、この後何が来るかわからないからね。とりあえず今は、ナイチンゲールのカメラからそっちをモニターしてるけど……あれ?』」


「ん、どうかした?」


 マダラは驚いた声をあげて言葉を切った。雷電スーツを纏ったままのレンジを肩で支え、一緒に立ち上がったマギフラワーが、インカム越しに尋ねる。


「『いや……ナイチンゲール、さっき見ていた方向に、もう一度パンしてくれないかな? 端末が置いてあったほう……』」


「こちらでよろしいでしょうか」


 ぴりり、と作動音を鳴らしながら、機械仕掛けの小鳥が首をひねる。アマネもつられて、ナイチンゲールの視線を追った。


「『そう、そっちだ。……うん、やっぱり。端末機が、いつの間にか起動してる!』」


 テーブルに置かれていた旧式の端末画面は青白い光を放ち、幾何学的な模様と大量の文字列を映し出していた。

(続)

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