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きさらぎ駅編~執着駅ーシュウチャクエキー~



『少しはオス(漢)の顔になったじゃねぇか、ヨウタ。』

「えっ!?サタン……今……」


僕の名前を……と続けようとする間もなく、彼は自身の翼を広げ僕を見下ろしながら大笑いでこう叫んだ。


『ふはは!!そうだ!みっともなく“生”へしがみつけ!!醜く俺(悪魔)へ縋ってでも生き残って己の願うこと(家族のもとへ帰ること)だけを強く願え!!純粋な欲望が強ければ強いほど現状を打ち破れる力へと変わる!!』


そう叫びながら彼が右手を挙げると僕の体はシャボン玉のような透明なカプセルの中へと閉じ込められた。僕は驚いて彼に尋ねる。


「えっ!?サタン!?これは一体何……!?」


『俺の魔力で作った炎のバリアだ。


 ……俺は今最高に気分が良いんだ、この空間ごとふっ飛ばしてやるよ!!テメェ(人間)の体が焼けねェようそこで見てやがれ!!』


常に無愛想で怒りっぽい彼が興奮している姿を初めて見た僕は次々と起こる出来事に上手く思考がついていかない。僕が混乱しているうちに彼の右腕に炎が集まっていく。そして彼の特徴的な耳の先で赤く燃える炎の色が青い色へと変化した。これは彼の炎が更に高温になったことを指示している。炎が右腕に集まり切った瞬間、彼は地面に向けて拳を放った。


―――灰燼に帰す業火!!(インシネレート・インファナール!!)


―――バリイィインッ!!


何かが割れるような、激しい音が鳴り響く。彼の放った炎は電車内を粉々に砕き辺り一帯の空間がまるでマーブル模様のように極彩色が混濁した世界へと一変した。


「えっ!!?ここっ……さっきまで車内だったのに!!?」

『幻覚だっつっただろ。……此処は邪神の作った“ニンゲンを壊して遊ぶ空間”だ。何度も言わせるな。電車内の光景もすべて幻に過ぎん。そして……』



―――グルルルルルル……


「な、何……!?この唸り声……っ!?」


地の底を這うような不気味な低い唸り声が響いてくる。そうだ、この鳴き声、動物園で聞いたことがある……まるで猛獣の唸る声に似てる気がする……!けれどこれほどまでに不思議な出来事が立て続けに目の前で起こっている事実に、この唸り声の主が僕の見知った猛獣なんかではないであろうことは容易に想像がついた。僕は恐怖に体を震わせているとサタンが語り掛けてくる。


『さっきの魔法で“空間の角”はあそこだけにした。…オイ、ヨウタ。無事に帰りたきゃ絶対に目ぇ開けんじゃねェぞ。』

「えっ!?」

『ニンゲンが直視していい存在じゃねェ奴が近づいてきてんだよ。イイ子ちゃんはさっさと目ェ閉じてろ。』


彼は先ほどの攻撃で電車内の空間を破壊したものの、一部だけ角を残したと僕に告げた。どうやら不気味な唸り声はその角から聞こえてきているらしい。


そして人間が直視してはいけない存在が近づいている。そう言われた僕は急いで目を閉じた。


『グルルルルォオォオ!!』

『……来たか。』


これは後からサタンに聞いた話になるが、僕は目を閉じていたため音を聞くことしかできなかった。どうやら僕が目を閉じていた間に現れた化け物は先ほど彼が残した空間の角から青黒い煙のようなものが噴出し始め、それが徐々に凝固し酷い刺激を伴った悪臭が発生させたようだった。そしてその煙の形はまるで狼にも似たような姿へと変貌したが、今まで知っていた狼とは大きく逸脱した異なった姿をしているらしい。


サタン曰くその化け物は、“生き物の持つ細胞に存在するとされる原形質にも似た青みがかった脳脊髄液のようなものを全身から滴らせ、口からは太く曲がりくねって鋭く伸びた注射針のような舌をだらしなく垂らせている”と後から聞いた。


『久々に骨のある獲物が来たな……ティンダロスの猟犬。』


彼がそう呼んだ化け物は、遥か昔時間が生まれる以前に異常な角度をもつ空間に住む不浄な存在とされるらしい。彼らは絶えず飢え、そして非常に執念深い。獲物の「におい」を知覚するとその獲物を捕らえるまで、時間や次元を超えて永久に追い続ける。何処までも何処までも何処までも……


ティンダロスの猟犬はサタンのにおいを検知した瞬間に彼に向かって勢いよく突進する。しかしサタンは焦った様子一つ見せず目を閉じながら右拳に炎を溜めながら不敵に微笑んだ。


『……たんと喰らえや、俺の炎をな。』


きっともし目を開けていたとしても人間の僕の目には何が起こったか追うことは出来なかっただろうけど目の前に突進してくるティンダロスの猟犬に向かってそう吐き捨てた彼は集めた炎をすべて指先に移し、ティンダロスの猟犬の喉に向けて炎を放つ。


―――爆発する地獄突き!!(エスプロジオーネ・インフェルノ・スピンタ)


『キャイィイイィインッ!!』

『……ちっ、まだホノカのモヤシ炒めの方が歯ごたえがあったな。』


激しい爆発音と犬の悲鳴のようなものが聞こえた後、彼がそう言った。どうやらサタンが化け物を倒してくれたようだった。


「さっ、サターン!!もう目を開けてもいいのかい!?」

『ああ、もういいぞ。あの犬っコロは消し炭にした。まぁ、不死だからすぐに復活すると思うが好き好んでこの俺に盾突こうとは二度とせんだろう。』


彼曰く先ほどの化け物は決して死ぬことはないようではあるが、獲物に定めたものが球体に閉じ込められた僕ではなく外に出ていたサタンであったため彼を襲った。

しかし狙った獲物が力のある大悪魔であったこと、魔法で攻撃されたことなど化け物にとっても想定外の出来事が立て続けに起こり、しかも先ほどサタンの放った攻撃で出来た傷口が回復するたびにまた細胞を焼かれ続けるという魔法が掛けられたためもう一度サタンを狙うということはないだろうと説明してくれた。


(さて……此処からヨウタが脱出するためには、あと一つやらせねぇとな。)


『……ヨウタ、テメェが此処から脱出するために一つの覚悟を決める必要がある。』

「な、何……?」


『俺に殺されろ。』














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