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キスの答え

少し時代は遡って、大学3年生の夏。

既出だが、高校3年生の頃に淡い想いを寄せた、E太と再会した。


友達と食事をしようと入った居酒屋でE太はアルバイトをしていた。注文を取りに来た彼を見て、言葉を失ってしまった。あの頃より少しだけ大人びたけれど、変わらない笑顔。簡単にあの頃にタイムスリップした気持ちになった。


E太も、私の視線に気付き「なっこさん?」そう言って目を丸くした。


「久しぶりだねー」と照れを隠すように、はしゃいだ。E太は、はにかむように笑って、「連絡先教えてよ。また遊ぼうよ。」そう言った。


小さな違和感。チャラくなった・・・・な。


そりゃ3年経ってるしね。お互い大学生だしね。E太だってそこそこモテるだろうしね。女慣れしちゃうよね。


なんだかちょっと寂しかった(勝手)


それから何度か連絡を取り合って、久しぶりに二人で食事をしに出掛けた。待ち合わせ場所にやってきたE太は、やっぱり記憶より随分大人びて見えた。制服から私服になっただけで、雰囲気は変わるものね。


懐かしい話で盛り上がったり、最近のアレコレを聞いたり、あっという間に時間は経った。あの日のキスに触れるのは、やっぱり野暮よね。そう思って、口をつぐんだ。


すっかり酔っ払って、店を後にして。駅までの帰り道に、突然E太があの日のことを話し出した。


私の気持ちは、既出のエピソードに綴ったように、ただただ誤魔化した淡い恋心だった。E太は、F美に恋人ができて傷心のところを、私に勢いで唇を奪われて、それに返してくれた。一体どんな気持ちだったのか、ずっと気になっていた。


E太は言った。


あの日、傷付いた自分の元へ飛んできてくれたこと。

何も言わず、ただ話を聞いてくれたこと。

すごくすごく嬉しかった。

けれど

手を握られた時、キスをされた時は、正直戸惑った。

頭が真っ白になって、勢いでキスを返した。

あの時、僕はなっこさんを好きでは無かった。

その後もバツが悪くて、連絡できなかった。


そこまで聞いて、自分の解釈とあまり違わなかったと感じた。E太から私への想いを感じたことは無かったから。


E太は続けた。


あの時、なっこさんがいてくれて本当に救われた。

楽しかったことも事実。

久しぶりになっこさんに会って、なんか安心するなぁって思った。

好きじゃなかったけど、好きだなぁって思ったよ。


そう言うと、キラキラした笑顔でこっちを見た。


年下のくせに、簡単に心惑わしてくる。危険な男の子。心でそう思った。

でも、E太のこと好きになってよかった。心からそう思った。


それから、私たちは友達になった。何度かお互いの友人を集めて、コンパをしたりね。気を遣わず、色んな話ができる男友達に昇格したのだ。


気付いたら、E太に彼女ができて

気付いたら、疎遠になってた。


今頃、何してるのかな。元気かな。

あの愛くるしい笑顔をまた見たいなぁと時々思い出す。

偶然の再会は、切ない思い出を楽しい思い出に塗り替えてくれた。

そう今は思う。


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