連載小説 魂の織りなす旅路#5/不毛の地⑶
【不毛の地⑶】
今、僕の身には不可思議なことが起きている。僕は僕を知らない。ここがどこなのかも知らない。しかし、この男は僕を知っていると言う。
とりあえず、それだけでもこの男についていく価値はありそうだ。こんな乾いた何もない赤土の上で、何もわからず立ち尽くしていても飢え死にするだけだろう。
僕の記憶は、この男が僕を覗き込んだところから始まっている。それ以前の記憶はない。記憶喪失なのかもしれないが、思い出せないという苦痛も、思い出したいという願望もなく、まるで僕という存在が、突然ここに出現したかのようだ。
悔しいが、確かに今の僕の意識は生まれたてのほやほやなのだ。しかし、とてもじゃないが、始まりの者だなんて怪しげな話は受け入れられない。
男は黙々と僕の前を歩いている。僕は、足元を通り過ぎていく赤土を、ぼんやりと眺めながら男についていく。どこまでも続く乾いた赤土と、ところどころに点在する葉もまばらな低木と。ここは不毛の地だ。
「不毛に見えるだけさね。」
ふいに僕の前を歩く男が呟いた。やはり、この男には僕の心が見えているのだ。そうに違いない。
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