連載小説 魂の織りなす旅路#22/差異⑶
【差異⑶】
冴羽さんはご夫婦ともに陶芸家の、父の知り合いだ。昨年末に、彩夏と2人で冴羽さん宅に泊めてもらい、陶芸の基本的な技法を体験した。
「陶芸家にならないかっていうの。なんかね、お母さんまでその気になっちゃって。」
陶芸体験のとき、冴羽さんご夫婦が彩夏のセンスの良さに目を見張っていたことを思い出す。デザイン関係の仕事をしている彩夏の母親は、娘に美術系の才能を見出してもらえたことが嬉しくてたまらないのだろう。
「陶芸体験のときの彩夏、ものすごく楽しそうだった。」
いつもどこか皮肉めいた眼差しを持ち、明るさの中にも消化しきれない何かを抱えているように見える彩夏が、陶芸のときはとても伸びやかに振る舞っていた。あのときの清々しい彩夏の表情が脳裏に浮かぶ。
「あんなに開放的な彩夏は初めて見たから、彩夏に向いているんだなって思ったよ。」
私がそう言うと、彩夏はふうっとため息をついた。
「確かにね。とても楽しかったの。解き放たれたような爽快感があって。でもね、体験が楽しかったからってそんな簡単に決めちゃっていいのかな。」
「簡単でもないんじゃない? 冴羽さんは彩夏に才能があると思ったから、わざわざ声をかけてくれたんだよね。楽しかったっていうなら、私も楽しかったよ。でも、私には声はかかっていない。
こんな人生を左右する大きなことを、冴羽さんご夫婦が簡単な気持ちで言ってきたとは思えないな。冴羽さんご夫婦にとっては、簡単な誘いではなかったはずだよ。」
彩夏の寄せられていた眉根がふっと開く。
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