連載小説 魂の織りなす旅路#23/差異⑷
【差異⑷】
「ところで、陶芸家ってどうやってなるのかな? 冴羽さんの弟子になるとか?」
「冴羽さんの家の近くに県立の陶芸学校があるんだけど、お母さんには私たちが面倒見るからって、そこに通うことを勧めてくれているの。」
「そこまで言ってくれているんだ。すごいね。」
「そうなんだけど。あまりにもスムーズに話が進むから、ホントにいいのかなって、逆に不安になるんだよね。」
そう言うと、彩夏は目線を落とした。両手で包み込んだマグカップを、心許なげに揺らしている。
「そういう勢いっていうか、自分で起こそうとしても起こせないエネルギーの流れって、人生に一度出会えるかどうかの大きな波だと思うな。
私ね、人生の波に乗るタイミングをとても大切にしているの。どんなに小さな波でもね、躊躇しているとタイミングを逃してしまうものだから。彩夏の今の波は、どんなに求めてもなかなか出会えない貴重な大波だから、私だったら喜んでその波に乗っちゃうけどなー。」
波に乗るのに力は必要ない。身を任せればいいだけだ。あとは波が送り届けてくれる。
「彩夏は陶芸が好きで、本当はやってみたいと思っている。それが本音だよね?」
「うん。きっとね。自分でも何が本音なのかがわからなくなっちゃっていて。冴羽さんが誘ってくれたときはね、その場でその話に飛びつきそうになったくらい、ものすごくやってみたいと思ったんだよ。でもね、そのあとすぐに躊躇したの。陶芸なんかで将来食べていけるのかなって。だってね、現実的に考えてそう思わない?」
「現実的・・・ねぇ。難しいなぁ。」
私は思考を巡らすために、ゆっくりとコーヒーを喉に流し込んだ。
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