第22話『蓋の加減』
思わぬ危険が伴うので、多く語られることではありませんが、ある種の何かが何かにも収まる場合、実際には入れ物になるものの大きさはあまり関係がなく、むしろ入り口がどのくらいうまく噛み合っているか、その閉じられ方についての方が重要です。
十字軍の頃、シリアの街にフランクの軍勢が押し寄せてくることを危惧して、とある職人が作った少し大きな箱に、町がそっくりそのまま、全て入っったという言い伝えがあります。
その蓋の作り方は、とても時間がかかる、根気が必要なものだったため、あまり広がることはありませんでした。
しかし、蓋の性質の本質を見出した陶器の職人が、苦心の末に蓋つきの小さな壺を作り、その中に広大な街を作ったという言い伝えがあります。
どちらの技術も既に絶えてしまいましたが、あくまでも内側に何かがあるのではなく、特別な技術は蓋にある様です。
この箱や壺の伝承は、後の世に大きな影響を与え、魔術や錬金術の研究者たちの研究課題にもなっていたようです。
ニュートンやライプニッツは、何らかの法則を見出していた様ですが、実際に二人の発注通りに箱の制作が成功したことはなく、技術の再現には至らなかった様です。
極めて稀なことですが、二枚貝や何かの動物が、考えられない大きさのものを飲み込んでしまうようなことが起こるのは、この蓋の技術に通じる自然のできごとですが、それでもなかなか、蓋の技術として学び取られ、蓋が再現されることはありません。
大昔から噂される様な、巨大なクジラの腹の中の町などは、クジラの実際の大きさ以上の面積があることが普通です。
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