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雨女の苦悩~テニスの練習を雨天中止にさせ続けて~

「傘持っているのに、なんで差さないんですか?」

先日、同僚に聞かれて気付いた。たしかに、私は本降りにならないと傘を差さない。そう、差したら負けなんだ。

それは、ただ強がっている訳ではない。そのきっかけは、大学時代までさかのぼる。

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私の大学時代はテニス一色。100人を超えるテニスサークルの幹部として活動に勤しんでいた。

「テニスサークルにいた」と言うと、「チャラい!」と言われるし、「週6で朝から晩まで練習していたんだよ?」と言うと、「いや、授業は!」とツッコまれる。

貴重な大学4年間を丸々捧げ、この上なく頑張っていた。しかし、世間の目には、4年間で壮大な空回りをしていたように映るらしい。

サークルに入るまで、テニスをやったことはなかった。先輩に教えてもらい、初めて打ったテニスボールはもちろんネットを越えず、数十センチ前を転がっていった。

サークルの団体戦で優勝するようなテニスが強いサークルだったのに、自分にはテニスのセンスの欠片もなかった。4年間真剣に取り組んだが、走って執念でボールまで追いつき、打ち込みにくいロブで返すのが精一杯だった。

では、なぜそこまでサークルに入れ込んだのか。端的に言うと、ホームがほしかったのだと思う。

大学に入ると、友だちと定期的に会える環境はなく、片田舎の森に囲まれた暗いキャンパスでひとりぼっちな気がした。

そんな中、「学食に行けば必ずサークルの誰かに会える」「暇なときはいつでも練習に行ける」という”ホーム“があることが、たまらなく心強かった。テニスサークルなのに、大真面目に練習しているところも性に合い、練習や飲み会に熱く参加。気が付けば幹部になっていた。

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さて、大学のテニスというのはほぼ屋外で行われ、雨が降ると中止になる。

クレーコート(土)はボールが跳ねなくなるし、ハードコートは滑ってけがをする恐れがあり、ガット(ラケットに貼っているプラスチックの線)にとっても良くないそうだ。 

サークル会員にテニスを上達してもらうには、できるだけ練習の機会を増やす(=雨を降らせない)ことが幹部にとって重要な仕事の一つだった。

ところが、私は雨女だったのだ。

練習を担当する土曜日(授業がないため多くの会員が参加する)は、雨ばかりで、2回に1回は雨天中止になった。

私の一番の大仕事だった夏合宿でも、雨のため半分しか練習できず、私が練習内容の説明をし始めると雷が鳴り、豪雨となった。

夏合宿は例年千葉県で行われていたのだが、「涼しい環境で、より集中してテニスを!」と思い、私の年だけ長野県白馬村に変更。しかし山間の天気は変わりやすく、まさに”飛んで火にいる夏の虫“となった。

例年にはない「BBQもできる!」というウリもあったが、もちろん雨でできなかった。

そんな状況に、会員は大ブーイング。「雨女」と呼ばれ、練習に行くと、冗談半分で「帰れ」「やる気ないんじゃないか」と言われた。

当時、雨女であることを真に受け、相当堪えていた。

「テニスでサークルに貢献できないだけでなく、練習の機会まで奪うのか」「自分が助けられたテニスの練習という”ホーム”を会員に提供できない」と。「テニスが下手なのに」という部分が余計にそう思わせた。

練習を担当する土曜日の前日毎週金曜日は、運動会前の小学生のように本気で晴れを祈っていた。てるてる坊主を始め、雨が降らないおまじない複数試したがあまり効果はない。

そして、苦肉の策として生み出したのが、”雨が降っても気が付かないふりをすること“だった。

雨が降っても練習担当の自分が中止の判断をしなければ、練習は続行できる。そう、雨が降っていると”思ったら“負けなんだ。

もちろん雨が強くなると中止にしたし、練習時間はそんなに変わらなかった。そうやって粘ることが「やる気ないんじゃないか」と言ってくる会員へのポーズだったのかもしれない。

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そんなこんな今でも、「雨=負け」というイメージが頭に強くこびりつき、ちょっとの雨では傘を差さない。

しかし、これだけの理由を説明するのも面倒。だから、傘を差さない理由を聞かれたときには「イギリスの人は傘差さないらしいよ」もしくは「沖縄の人は傘差さないらしいさー」と言うことにしている。

どちらの地域も雨が多いため、ちょっとやそっとの雨はなかったことにしているそうだ(※諸説あり)

ちょっとの雨なら、雨と認めない。そうすることで、雨だと思う日を減らし、今季の梅雨を乗り切ってみてはいかがだろうか。

編集:円(えん)さん

画像:かっちゃんさんによる写真ACからの写真

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