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【#2000字のホラー】コンソメが置いてある。

※#2000字のホラーにエントリーした記事です。


「ただいまー」

誰もいないと分かっているけど必ず言うようにしている。
鍵を開けて玄関に入ると夏のこもった熱気が身体からだまとわりつく。

今日は長女が塾の日で義母が連れて行ってくれた。
塾の終わりに長女を迎えに行き、義母宅にいる次女を拾って帰ってくるのが火曜日の流れ。

18時前。
薄暗い自宅に帰宅する。
「ただいまー」

長女は塾。
次女は義母宅で待っている。
長女を迎えに行くまでにまだ時間はある。
俺は夕飯のお米3合を仕掛けてシャワーを済ませる。

濡れた髪を拭きながらパンツだけで部屋を歩き回る。
シャワー前にクーラーをつけていたから涼しい。
一日の身体からだの熱気がスーッと抜けていく。最高だ。

(昔は全裸で畳に大の字になって扇風機を最強にして浴びてたな)
小学校の時の話だ。
(扇風機にTシャツを被せて涼んだこともあったな)
中学校の時の話。

大人になって涼み方が多少スマートにはなったかも知れないが、
人間本質は変わらないものだとつくづく思う。

(このあと運転するからビールは飲めないな)

髪をパサパサして水気を飛ばしながら冷蔵庫の前へ。

シンクの横のコンソメに目が止まる。
真希まきちゃん買ってくれてたのかな?」
たしか今朝は置いてなかったはず。




うちにはコンソメがなかった。


最近、食材宅配サービスを利用するようになって俺が料理を担当する機会が増えた。レシピも一緒に届くから、俺はレシピ通りに食材を投入するだけだ。妻は食材の買い出しをしなくて良くなった分、たまに何かしらの食材のストックが切れる。宅配サービスではメイン食材以外の調味料などは自前で準備しないといけない。コンソメもその一つ。

(コンソメってけっこう使うんだよな)

サービスのおかげで料理のハードルが下がり、
料理の素人が初めて気付いたことはたくさんある。

基本、和食ではだしをとる、
サラダ油とごま油は使い分ける、
大さじ小さじは慣れれば目分量でいける、
玉ねぎは繊維に沿って切れば涙が出ない、
葉野菜はたまに虫が付いていると心得よ、
…などなど

そして、「コンソメってけっこう使う」。

妻が以前使っていたコンソメを切らして以降、
中華みそ(ウェイパー)で代用していた。
その中華みそもなくなりかけていた矢先。

「コンソメないよ」「コンソメまた買っといてね」
何度か妻にお願いしていたから買ってくれたのか?

(いや、お義母さんおかあさんだな)

妻は忙しかった。
朝6時に出勤し帰宅は19時半。
コロナ禍の人員不足をフォローするため業務過多の傾向にある。

真希まきちゃんは忙しいからお義母さんおかあさんが持ってきてくれたんだろう)

義母は折に触れて手伝いに来てくれ、子どもたちの世話をしてくれる。
洗濯物を取り込んだり、
次女を保育園に迎えに行ってくれたり、
おやつに今川焼きを買ってきて食べさせてくれたり、
時にはおかずを作って持ってきてくれたりうちで調理してくれることもある。

真希まきー、お酢ぐらい買っときなさいよ」
「みりんなかったから足しとくわね」
そんなことをよく妻に言っているが、妻はなかなか買いに行けない。

(俺が買いに行けば全部済む話なんだよな)
妻は時間がないので今度からは買い足しは俺が行くようにしよう。

このコンソメは義母が持ってきてくれたんだろう。
義母にお礼を言って30分後には次女を迎えに行くと連絡しておこう。



「あ、お義母さんおかあさん、お疲れ様です。今日もありがとうございます」
義母は現役で元気に働いている。

「お疲れー」

「さっき僕帰ってきたんで、さち拾ってあと30分ぐらいで芽依めいを迎えに行きますね」

「はーい、こっちは気にしないでね」

お義母さんおかあさん、コンソメありがとうございました。切らしてたの知ってたんですね。助かりました」

「コンソメ?」

「コンソメ置いてくれてたのお義母さんおかあさんですよね?」

「私買ってないよ?今日は私も仕事が延びちゃったからさちを送るのギリギリだったの。あの子塾に遅れるーってブーブー言ってたわ。謝っといてね」

お義母さんおかあさんじゃなかったんですか?」

「私今日は家の中に上がってないからね。真希まきじゃない?」

「そうですか。どっちにしてもありがとうございます」


コンソメは義母が置いたものじゃなかった。
妻か?

妻にLINE。
(お疲れー。こっちは大丈夫だから気を付けて帰ってきてね。コンソメって買ってくれてた?)

すぐ返信が来た。
(コンソメ買ってないよ!お母さんじゃないの?もうすぐ帰るねー!!ありがとー!!)



…じゃあ誰?



キューブタイプのコンソメ2箱。
誰が置いた…?


長女を塾に迎えに行く。
「おかえり。お疲れさん。」

「(ただいま)」
反抗期の長女はできるだけ父に返事をしたがらないが、全くしなかったら文句を言われるから申し訳程度に声を出す。

長女はいつも助手席には座らず、後部座席、俺のバックミラーの視界には入らない位置に座る。

中古の軽の落ち着かないエンジン音が
しばらく車内を満たしてくれる。


顔が見えないのを分かってて、バックミラーに目を遣りながら聞いてみる。
「台所にコンソメ置いてたんだけど知らない…?」

「(知らないよ)」

「まじで…?ばぁばもおかあさんも置いてないって言うんだ。気ぃ利かしてさちが買ってきてくれたとか――」

「買う訳ないじゃん」








え、まじで誰…?


#2000字のホラー