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3回目の美術館は、やっぱりなんだかムズムズした

公園の散歩のついでに、美術館に立ち寄った。
これで3回目だ。
企画展が替わるごとに立ち寄っている。

今回は野草を丁寧にデッサンして水彩で仕上げる、同じ県内出身の画家さんの企画展。

美術館の外の掲示板に掲示されているポスターの絵が素敵だった。
野草には明るくないけど、Google先生片手に実物写真と絵とを見比べながら周ってみよう。


入館する。
入館者は僕と、先に入っていた高齢のご夫婦だけだ。僕が入館のタイミングでご夫婦は退館のときだった。館内はスッキリ広くて暖房と換気が絶妙なバランスで効いている。入館しているのは僕と、強いて言うなら僕についてくる学芸員さんだけだ。

エントランスで(足元を消毒してください)の文字。靴裏を消毒する用のマットがある。徹底しているな。公園の中の美術館だから、靴泥だらけで入ってくる人がたまにいるのかな。僕は靴泥だらけじゃなかったけどおとなしく消毒した。消毒マットから普通の床に戻る。靴裏の消毒液で、歩くと音がやかましい。ナイキのエアマックスだ。「キュッキュッ」という音が、3密を完全に回避した館内に響く。それは困るので、エントランスマットで靴裏の消毒液をしっかりと拭いて入館。なんやろ、ハンドクリームをしっかり手に刷り込んですぐトイレ行って、手をハンドソープで洗い流した感じに似ている。

受付する。
今日は通常料金の260円だった。特別展の時は600円とかに跳ね上がるが、今日は260円。
毎回、感染予防対策の決まった説明を受ける。

入館者は僕だけだ。高齢のご夫婦は退館した。繰り返しにはなるが、館内はスッキリ広くて暖房と換気が絶妙なバランスで効いている。入館しているのは僕と、強いて言うなら僕についてくる学芸員さんだけだ。

「あと、館内での撮影はご遠慮ください」
当然だ。展示品を許可なく撮影するのはダメなんだろう。
そもそも僕にそんな気はない。

しかし学芸員さんと言うのは声量が少なめだ。昔、美術部のクラスメイトが声量ちっさくていじられていた記憶がある。アーティスティックな性質のある人は声量が少ない傾向なのかな。
マスクと受付の飛沫防止カーテンと声量の少なさが影響して、
本当はなんて言われたか聞こえなかったが、
たぶん「あと、館内での撮影はご遠慮ください」と仰ったのだろうと推測した。美術館3回目となると、美術館のルーティンが僕の脳のCPUに入っているので、ある程度推測で補える。

「何かあった時の為に」名前と連絡先を書く。消毒液が乾ききっていない手で、大量に刷られたであろうA6ぐらいのざら紙をしわしわに濡らしながら連絡先を書く。併せて、感染予防対策についてのA4ざら紙の注意書きを、企画展のチラシと一緒に頂く。


少し消毒液の残った靴で軽快に音を響かせながら、
僕は順路の表示に従って館内を進む。

今回も学芸員さんは付いて来る。
これは美術館あるあるだ。
僕はここの美術館しか知らないけど、きっと美術館あるあるだと思いたい。
そう思わないと、僕と学芸員さんしかいない、暖房と換気の絶妙なバランスのがらんとした空間で、静かに付いて来られるのは何とも言えない。作品に集中できない。学芸員さんもイヤだろうな。きっと。

僕は作品に集中しているふりをして、学芸員さんとの距離を測っている。
もはや僕は学芸員さんの気配を鑑賞しに来ている。

そうは言っても僕は美術作品を鑑賞しに来ているので、
描かれた野草をGoogle先生でググってみる。
すごい。
実物の画像と見比べても細部まで緻密にデッサンされているのが分かる。
野草ってきれいだな…



ふと学芸員さんの気配が変わる。
顔は向けずに眼球で学芸員さんの方向を確認すると、さっきまで座っていた学芸員さんが立っている。気持ち数m近づいている。

わかった。
僕がスマホを取り出したからだ。僕は純粋な探求心から、描かれた野草は実物ではどんなだろうと、Google先生ことスマートホンを取り出した。しかし学芸員さんは、僕が許可なく展示品を撮影するんじゃないかという疑念を抱いたとしても不思議はない。

僕は「スイカ畑でしゃがみ込むな。カキの木の下で上を見上げるな」をやってしまったのだ。別にその気はなくても、疑われるような行動を敢えてするなというたとえだ。たぶんこんな言い回しだったと思うけど、なんか違う気もする。取り敢えずニュアンスはこんな感じだったと思う。「美術館の展示品の前でスマホを取り出すな」だ。

これは僕が悪かった。学芸員さんごめんなさい。
僕はスマホはカバンにしまわずに、しかしせめてもの償いとして、カメラを一生懸命床に向けて、より一層「検索している」然としたポジションを取った。そして敢えて学芸員さんのほうにスマホが見えるように体を向き直した。検索アピールだ。これで学芸員さんが安心してくれたかどうかは分からない。

僕はこれまでもこれからも、美術館で撮影行為をすることはなかったしないだろう。

この日に関しては、そういった学芸員さんとの水面下での攻防があったので、展示品についての質問はしなかった。できなかった。

欧州の権威ある美術館ならいざ知らず、日本の地域密着型の美術館は適度にすいている。何より、空調と換気のバランスが絶妙だ。

美術館はいい。
美術館は本来気持ちをムズムズさせる場所ではない。

僕はこれからも美術館へ行こうと思う。