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18-対人関係のスキル①「聴く」

ファシリテーターがよく口にする「場をみる」とは何か。私は「同時多発的に出てくる一人一人の意見・反応・雰囲気を的確にキャッチすること」と理解している。ファシリテーターとして場に立っていると不思議と全体を包む空気感というか雰囲気が出てきたり変化することに気づける。それはきっと、一人一人の意見・反応・雰囲気の集合体が形成するのだと思う。個人的な所感であるが、数名であれば「場をみる」といった表現はしない。多分それは一人一人を細やかにキャッチしているからであろうが、10名以上になってくると、人間の(頭で判断する)情報処理能力には限界があるはずで、これまでの経験値や培った技術や能力が染み込んだ身体や感覚から状況を判断し始める。そんな自分の情報処理能力を超えた状況下でなおかつ判断していく時に僕らファシリテーターは「場をみる」と表現しているはずだ。

この曖昧な空気感であったり同時多発に出てくる意見や反応をキャッチすることは困難極まる訳で、そこがファシリテーターの経験と腕の見せ所な訳だが、そもそも一人の意見・反応・雰囲気をキャッチすることに、ある程度の理解と技術が習得できていないと不可能だと考えている。

そこで対人関係のスキルについて述べる。もちろん、カウンセリングやコーチングといった1対1に特化した領域もあるため、今から書くことはネットを検索すればいくらでも出てくる。多くを語ることは控えつつも、ファシリテーションの現場特有に関することについては、特に書いていきたい。

(もちろん今回も堀公俊の『ファシリテーション入門』 を大きく参考にしている)

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・「聴く」とは?

「聴く」は堀の『ファシリテーション入門』での部分を要約すると「傾聴。アクティブ・リスニング。相手の言う通りに話を受け止め、共感すること。「受け入れられた」と言う(承認された)安心感を紡ぐこと」である。そのため、相手が喋りきった、と思うところまで聴くことが重要だ。相手にまずはしっかり発散してもらい、受け止め切った後で、収束に転じるための問いを立てたり、行動を促していく。その「喋りきった」ということを判断するのも難しいだろうが、前回のコラムで書いたように、相手が発するコンテンツ(情報や知識といった事実レベル)だけでなく、感情や意思が伴うコンテクスト(の種)までは間違いなく聴きたい。時間的にも心理的にも余裕があるのであれば、相手の価値観や考え方、文化まで理解できる背景、コンテクストまで聴ききりたい。

それに加えて「発言の内容」ばかりでなく「トーン・テンポ」も合わせて聴くことで表面の言葉以外の心情まで理解できる。ポジティブな発言であっても、声が小さくなったりたどたどしく語っているのであれば、そこには「悩み」や「揺らぎ」が秘められているだろうし、反対にネガティブな発言でも声に震えもなく声量もあってしっかり語れているのなら「挑戦」「覚悟」が含まれているだろう。そういった表面の言葉と喋り方の誤差が感じられれば、質問などを通して、より深く語ってもらえる機会になったり、相手も気づかなかった気持ちの自覚を促すことができる(訊き方についてはまた次回)。

・聴くを促進させるコツ①-相づち

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「聴く」といっても、喋る側からすると「聴いてもらった」と感じるところまで喋ってもらうには、静かに聴いているだけでは至らない。

一番シンプルで相手の言葉も遮らずに反応をするのは「相づち」だろう。聴いてくれている、という安心感を与えるとともにテンポを促進していく。ちょんの著書『元気になる会議 -ホワイトボード・ミーティングのすすめ方』で紹介されている相づちの例が端的にまとめられているため、紹介したい。

『元気になる会議 -ホワイトボード・ミーティングのすすめ方』p40より
1、うんうん
2、なるほど、なるほど
3、スゴイですねえ
4、そうなんですかあ
5、へえ〜
6、だよねえ
7、それで、それで?
8、そっかあ
9、ほかには?
10、わかる、わかる

ただ「3、スゴイですねえ」は評価のような意味合いも出てくるため、相手との関係性は考慮しておきたい。聴き手に褒められたくて、気に入られたくて自分の気持ちから離れていく時もあるため、使いどころを間違えると良くない(「いいね」といった相づちも)。私自身は「うんうん」「へえ〜」「そっかあ」が多いが、特に使う相づちは「なるほど、なるほど」である。ファシリテーターとして「良い・悪い」や「賛成・反対」といった反応は極力しない方がいい(ここぞ、という時だったり共創的な現場ではするが)。そのぶん「なるほど」は「賛成・反対はさておき、あなたの言っていることは理解しています」というメッセージになる。

・聴くを促進させるコツ②-復唱

「復唱」は相づちよりも共感的な気持ちが相手に伝わる。カウンセリングやコーチングでは「オウム返し」と表現されるが、個人的にはそっくりそのまま返すようなことは推奨しない。相手のテンポや間に合わせて短く使いたいため、語尾や話のキーワードを繰り返すことにとどめておく。

例)
「夏の真っ赤なトマトが好きでさ、」
「トマトね」(キーワード)
「畑にたわわになってるもぎたてをかぶりつくのが最高にうまいのよ」
「うまいよね〜」(語尾)

・聴くを促進させるコツ③-要約、言い換え

相づちや復唱は比較的リズムでできるため簡単だが、「聴く」で一番難しいのが「要約・言い換え」である。相手の発言に区切りが生まれた時に「これで合ってますか?」「あなたの言いたいことはこういうことだよね」という確認と承認の意味として行うが、要約や言い換えを用いらなければならないのは、大抵、相手の発言が長く、徐々に論点が変わって行ったり、様々な意見が点在している時だからだ。他のメンバーと共有するためにも用いるため、相手の言葉や感情をしっかりと聴いていないとズレた要約になってしまう。加えて「要は〜だよね」と簡単にまとめてしまうのも良くない。しかし、要約と言い換えが的確にできると喋った相手は「そう、そういうこと!」と”ちゃんと聴いてもらった”という安心感と満足度が高まり、その効果たるものはとても大きい。(ちなみに、ファシリテーターとしても「そう、そういうこと!」という反応は「ちゃんと聴けている」という合図にもなるため、進行する際の安心材料にもなる)

ではどうやって「聴く」といいか?という部分には、個々が覚えやすいやり方があるだろうから一概には言えないが、堀の著書にトレーニング方法に少し触れているため、引用する。

『ファシリテーション入門』113p、114p
誰かが発言したら、次に発言したい人は、前の人が伝えたかった内容を要約して、それが意図と合致している場合のみ発言が許されるというゲームです(食い違う場合は、もう一度要約をし直し、それでも駄目なら、発言者が真意を伝え直します)。やってみると分かるのですが、たびたび議論が行き詰まってしまいます。正確に話を聴き、自分の言葉で的確に要約することがどれだけ難しいか体感できます。

私も講座で「聴く」ことの難しさについて体験してもらうとき、アイスブレイクで参加者の自己紹介を回す時、次に喋る人は必ず前の人の自己紹介を要約してから喋る、ということをする時がある。中々難しく、ずれている場合、要約された側の人は首を傾げたり、気を使って「は、はい。。。そうですね」と口ごもったりする。そんな時は、こちらが要約して伝え直すことで聴くポイントを伝えたり、逆にうまく要約ができていない合図や反応例として、その表情を解説したりする。

とはいえ、ではどこを押さえておくポイントか理解するには聴く人の向き不向きもあるので一概に言えないが、多分2通りあると考えている。

一つは、話題の分岐点を覚えておく、ということ。コンテンツからコンテクストの種まで聞きとり、次のコンテンツにうつった時を覚えていく、という細部のレベルから、話の論点が変わる大枠のレベルまで含めて、である。これは発言の階層(コンテンツ(情報・事実)→コンテクストの種(経験・感情)→コンテクスト(エピソード・記憶・価値観))を自覚できるようになっておかねばならないことと、議論の道筋を理解することだ(「周知の事実」と「その人の解釈や発想」の差や、「目標・目的・内容・仮説・行動・結果」といった「フェーズ」の差を理解することが例に挙げられる)

もう一つは、心で聴く、ということだ。ちょっと抽象的な表現ではあるが、相手の話をしっかり聴いていると、自分の感情は言わずもがな反応する。良いも悪いも含めて自分が共感した部分は、相手も同じように感情がこもっており、伝えたい部分である要点であることが多い。そして、感情が反応した部分は記憶率が高くなる。そのため、この部分を要約の点として活用するのはかなり使えるが、もろ刃でもあり、聴き手の価値観に左右されすぎて、全く「聴いていない」ということにもなりかねない。ちなみにファシリテーターの「場をみる」初歩的な合図としてよく語られるのが「自分の気持ちは場の鏡である」ということ。「自分が緊張している時は、場も緊張している」といったことだ。

このようにしっかりと要点を聴くには、論理的思考と情緒的思考の二つを用いることがいいだろう。

・聴くを促進させるコツ④-同調

最後の同調は、共感を相手に伝える聴き方である。言葉遣い、口調、話すテンポに限らず、表情、動作、姿勢などの非言語コミュニケーションも活用する。相手のペースやトーンを合わせることで共感性と親和性を高める。これは比較的容易いと思うので、「相づち」「復唱」「要約・言い換え」を補完する聴き方として理解しておくといいだろう。また一対一で聴く時は、向かい合うより斜めであったり、隣に並び、目線を合わせる、といったことも効果的である。

・まとめ(ファシリテーターとして「聴く」とは)

以上が「場をみる」ことに求められる対人スキル「聴く」に関する内容である。一対一であれば、「傾聴」に徹することで十分なのだが、コツ③に書いた「要約・言い換え」はファシリテーターとしてもっとも聴く際に求められることだ。同時多発的にコミュニケーションが発生したとき、要約と言い換えによって、発言者以外の人にもわかるように伝えたり、共有することで議論の行方不明が防げるからだ。もっとも、議論の行方不明、空中戦を避けるために「場の見える化」も求められるのだが、それはまた別に記したい。

それでは「聴く」ことの次は、ファシリテーターの最大の武器である「訊く」について書いていきたい。堀が述べる「傾聴で話を受け止めたなら、質問を使って話を深めていきます」という「訊き方」などについても触れていきたい。



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