恋をはじめよう。

最近、恋をしていない。


ちょっと前までは、

いつだって、誰かに恋をしていた。


いつからだろうか。


あの頃はたしかにあった、

恋愛専用の特等席は、


いつの間にかだれかに、

もしかすると自分自身で取り払い、


心のどこかにしまわれている。


あの椅子は、どこにいってしまったのか。

何故しまってしまったのか。

老朽化だろうか。


こんなみすぼらしい椅子では、

誰ももてなせないと恥じらい、

しまってしまったのだろうか。


はて、


そもそもどんな椅子だったかな。


おや、

ここかと思った場所に、ないぞ。



どこにしまったのかな。



隠したつもりはないけれど、

しばらく見ていない。



きっとどこかで、

ほこりをかぶっているのだろう。



特等席を用意していないせいか、



ここ最近は、

恋のチャンスがきても、

「忙しいから」と言って、

玄関先で帰ってもらってばかりだ。


急な訪問にまったく対応できていない。



本当にこのままでいいのだろうか。






窓の外をみると、

雨はもう止んでいる。


青い空が見えはじめている。



・・・・・・。



そうだ。



新しい椅子を買いに行こう。



とびきり綺麗でふかふかの椅子で、

新しい特等席をつくろう。


どうせ昔の椅子は、

誰かが座ってくたびれているんだ。


そんなの、

探す必要なんてない。


少し奮発して、

ついでにクッションも買おう。



椅子を置く部屋を整理して、

花も飾ってみようか。


急なトキメキの訪問に、

対応できる部屋をつくろう。



さぁ、

恋する準備をはじめよう。

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