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雑感73 梅ジュース

 今年はなぜか、夏至の日に何かをしたかった。何かは、たぶん何でもよくて、なかなか決まらなかった。何でもいいと思っている割には、スタート感が欲しかったのが原因かもしれない。
 東洋医学を聞きかじっているうちに、夏至は一年で一番熱量が多い日だと思うようになった。陰陽の陽の気が一番満ちる日。
 満ちるといえば、月の満ち欠けがある。世界的に活躍するサーカス劇団のシルク・ドゥ・ソレイユでは、新月の日に新しい企画を練り始め、満月の日に公演初日を迎えると聞いたことがある。わたしの好きなエピソードだ。エネルギーの波に乗る感じがいい。
 夏至の日が近づくにつれ、店先に梅の実が並ぶようになった。去年始めた梅干しを作ろう。わたしは、梅干しを作ることを夫に告げた。そして、意外なことを彼から聞く。
「梅ジュースを作ってほしい」
 今まで、梅酒や果実のジュースを作っても、それほど興味を示さず、飲みもしなかった人だ。作ってもいいけれど、最後に捨てるのは嫌だなぁと思ったので、本当に飲むのか確認した。
「梅ジュースは好きだよ」
 知らなかった。本当かどうかは、七月下旬にはわかるだろう。誰も手をつけず、残された梅ジュースを捨てる罪悪感だけは味わいたくない。
 日付が変わって夏至の日になった夜中に、梅干しと梅ジュースを作った。一番太陽のエネルギーが強い日なのだから、と願いを込めて。
 今、氷砂糖の中で揺れる梅の実を眺める毎日を過ごしている。できあがれば、初めて作った梅ジュースになる。

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