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2016年 104冊目『持たざる国からの脱却 日本経済は再生しうるか』

小泉進次郎さんが帯に「みんなが当たり前だと思っている景色を変えなければいけない」と書いています。

タイトルから中身が想像しづらいのですが、かなり面白い本で、お勧めです。

日本は経済成長率0%台、国際競争ランキング27位。
日本はなぜ長期にわたる低迷から抜け出さないでいるのか。

「世界の生産構造の激変」「ワーク・ライフ・バランス」などをキーワードに分析し、アメリカの強さの理由、ドイツ(忘れてしまいそうですが東ドイツと合併して欧州の病人と呼ばれていた)、スウェーデン(大きな政府と社会保障制度で経済成長できていなかった)などの成功例を参考に、日本の生き残りのための処方箋を描いています。

著者の松本崇さんは、財務省出身で内閣府事務次官を経験された方で、出てくるデータもご自身がまとめたものなどが出てきて、説得力があります。
わずか640円の新書なので必読だと思いました。

アメリカの強さは、もともと経営者と労働者をモジュール化(需要に合わせて入手、手放し可能)が出来ていた市場に、IT革命で製造までモジュール化できて、経営資源を市場の変化や戦略の変化に合わせて対応ができるようになったことに起因しているとあります。

アメリカにある日本の自動車工場の例が載っています。
1つは日本が直接運営していて、残りはアメリカ法人が運営していました。不況時にアメリカ法人の運営している工場は、レイオフをしました。

日本の工場は、時間調整などで個人の収入は減らしながらもレイオフはしなかったそうです。日本の工場は、その州から感謝されました。

次に好況になりました。

アメリカの工場は、一気に採用をし、増産に取組みました。
地域に新たな雇用を生み、工員の収入も増加しました。

ところが日本の工場は、不況になった際にレイオフするのを恐れ、増産に踏み切れず、雇用も生み出せませんでした。

市場が循環する際に、変化に対応できる方が業績が良くなるのは当たり前です。

一方で格差は大きくなっています。
1979年と比較するとトップ1%の収入は1億円増え、下位90%の収入は900ドル低下しました。

グローバルなサプライチェーンにより付加価値が国内に留まらなくなったからです。自分たちの収入が増えていたら、トップの収入が増えていても気になりませんが、自分たちの収入が減っていては容認できません。11年のウォール街を占拠しろは、これを背景に起きたわけです。

オバマ大統領は、15年には最低賃金を7.25ドルから10.1ドルに引き上げ、ニューヨークでは15ドルにし、対応しました。

サンダースやトランプは、これを更に改善する期待で支持を高めたわけですね。

アメリカは、変化により問題も起きていますが、問題を解決しつつ成長しているわけです。

ドイツは90年の東西ドイツの後、大きな財政負担により欧州の病人と呼ばれていました。

ところが、ここ10年はインダストリー4.0を標榜し、ヨーロッパどころか世界でも勝ち組の1国になっています。

全国各地に点在する中小企業群と研究機関の存在、マイスター制度をはじめ複線的な人材育成システムがあること、ユーロによりドイツ通貨が実際切り下げられたところに、02年からの労働市場改革が功を奏したのです。

労働市場改革は段階的に進められました。

02年のハルツ第Ⅰ法(失業の早期通知義務と派遣労働の規制緩和:同一派遣先への派遣期間の撤廃)

03年のハルツ第Ⅱ法(ミニジョブ制度の改革:医療年金などの社会保障負担を10%にする仕事で、対象を拡大)。

03年の解雇制限の緩和を定めた労働市場改革法(1年半の年収で金銭解雇制度導入)

04年のハルツ第Ⅲ法(職業紹介の機能強化。いわゆるハローワークの人員を4倍。一定期間後見つからない時は民間紹介を受ける権利付与)。

05年ハルツ第Ⅳ法(失業扶助と社会扶助の統合と新たな失業手当創出。給付水準の引き下げとミニジョブでも付与)。

これらにより、10年で派遣労働者は60万人増加、ミニジョブも140万人増加しました。

これにより失業率も11%台から4%台に低減しました。

ドイツはリストラが難しいイメージがありました。

しかし、02年以降、リストラできるようにし、リストラされた人が産業移動できるように育成と派遣、ミニジョブなどを拡充したわけです。

スウェーデンはどうでしょう。
スウェーデンも積極的労働市場政策なのです。
企業が選択と集中を行うために労働者を解雇する場合、解雇に基本制約は無く、労働者は一定の解雇予告期間ののちに解雇されます。

その代わりに、解雇された労働者がより良い仕事に就けるように職業訓練や職業紹介が積極的に行われると言うものです。

スウェーデンは、企業に対してもドライです。
企業が倒産しそうな時に倒産を防止する仕組みも存在しません。

以前ボルボとならぶSAABが経営危機になり、政府に支援を求めましたが拒否されました。

大小問わず、競争力のない企業は早々に退場し、国際競争力が強い企業だけでが生き残る事が当然とされています。

スウェーデンは高い税負担で有名ですが、税負担に比例して病気になった時の所得保障や年金額を受給できるのです。

払える時に高い負担をしておくと、いざと言う時に高い給付が受けられるので、所得より高く負担する人もいるのです。

つまり、社会保障制度は長期に困っている人のためのものではなく、自分自身が人生の節々で困難に直面した際のものとして設計されており、いわば保険のような側面があるのです。

これらを受けて日本についての処方箋も書かれています。

基本はドイツやスウェーデンを参考に、日本型にアレンジしましょうと言うもので、納得感が高いです。

企業が労働者を解雇する際の規制を緩和し、労働者を再教育する仕組みを整備し、労働移動を可能にする。

加えて、税制や社会保障を整備する。
という事です。

並行して、様々なものを見える化して、課題を明確にしましょうと言うものです。

極めて納得性が高いです。

あとは、どうやって実現するかですね。
とても参考になりました。

▼前回のブックレビューです。

▼新著『業績を最大化させる 現場が動くマネジメント』です。

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