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ハイエナに会いに行く。~ホーチミン~ミトー~

朝から白髭のヨーロピアンの姿は見えなかった。

夜から下のベッドに気配はなく、どうやら僕のいびきが耐えられなかったらしく部屋を移動したらしいのだ。

そういえば、白髭のヨーロピアンとスタッフの女の子が神妙な面持ちで話し込んでいたが、あれは僕のいびきがひどいので空いている部屋があれば変えてほしいと頼んでいたところだったのだろう。

真下のベッドで寝ているアジア人女性はまだスース―と寝息を立てている

白髭のヨーロピアンが神経質すぎるのか、アジア人女性が無頓着なのか、どちらかわからないが、いずれにせよ僕にはどうすることもできないのである。


ところで今日はミトーに行くと決めている。

ゲストハウスのエントランスをくぐると毎度のことながら生暖かい水蒸気が顔全体を覆う

行く気が削がれるが、一昨日、昨日とこの暑さに負けているのだから今後のことを考えても今日行っておかなければならなかった。

エントランスのドアを閉めようとすると、カウンターにいたスタッフの女の子が「閉めないで」と叫ぶ

僕は慌てて振り返ると苦い顔をして首を大きく横に振っている

エントランスのドアを解放しておいてほしいそうだ

僕はその通りドアを開放してバス停へと向かった。

なぜ窓を開放するのだろうか、閉め切ればクーラーのひんやりとした空間の中で仕事ができるのに

それともクーラーが苦手なのだろうか

それは考えづらかった。

なぜならベトナムに限らず東南アジアの公共の場は嫌というほどクーラーが効いていてこちらが風邪をひきそうになるくらい東南アジア人はクーラー好きという印象なのだ。

かといって東南アジア人全員が好きなわけではないだろうから、あのスタッフの子はその例外なのかもしれない。

そんな答えの出ないことを考えながら歩いていると、ベンタイン市場付近にあるバス停にたどり着いた

ここからミエンタイというバス停まで向かい、そこからミトーまでのバスに乗り換えるのだ。

このミエンタイというバス停が厄介なバス停で、何十台も似たようなバスが駐車してある上に、慣れた人でない限りわからない規則性で並んでいるのである。

僕は案内のおじさんにこのバスはどこにあるのだとチケットを見せながら尋ねるとめんどくさそうにあっちだと指で示す

しかし指をさしている方向はこれまた何十台も停まっていて、そっちに行ったところで到底わかりそうもなかった。

しかし案内しろとも言えないからとりあえず行ってみると案の定迷宮入りである。

これこそ右往左往である。

そこらにいる運転手らしき人にたずね歩きながらやっとのことでバスを見つけ乗り込んだ

座席に座り一息つくと汗が首筋から胸元にとめどなくしたたれ落ちる

座席の窓は全開である

嫌な予感がした

そしてバスは走りだした

嫌な予感は的中した

クーラーを効かせる気はさらさらないようで、窓が全開のまま走り出した。

車に乗せられた犬が鼻だけ出してなんとか風を感じるように、僕も窓に額をくっつけてなんとか風を感じようとした

しかし熱風が顔に当たっているようでむしろ気持ちが悪かった。

あのゲストハウスのスタッフの女の子を思い出した

なるほどとりわけベトナム人はクーラーが嫌いなようである。


つづく







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