ミーティングスポットで岡田利規が…!その制作経過をお伝えします

Creative Island Nakanoshima


クリエイティブアイランド中之島の活動の一環として、2021年より中之島の島内13か所に「ミーティングポイント」を設置しています。これは見た目にはバス停のようなサインスタンドで、ビルのロビーや施設のホールなどに設置して、各施設のつながりを可視化することを目的のひとつとしています。

今のところはフライヤーを配架するなどしている「ミーティングポイント」、これを活かした双方向型のコミュニケーションの可能性を探るために、2019年と2021年にチェルフィッチュ主宰・岡田利規さんとともに中之島でのリサーチを行ってきました。2019年には中之島を歩いてひと巡りするとともに、船に乗って川からのリサーチや「中之島リバークルーズ」を運航する一本松海運への取材を実施。2021年には「ミーティングポイント」を設置した各施設を巡り、また、長く中之島を拠点に活動を続けるgraf代表・服部滋樹さんとの対談も行いました。
こうしたリサーチを積み重ねた先で、ミーティングポイントを活用した岡田利規さんの作品を展開できればと計画していますが、はたしてどのような作品が生まれるのでしょうか。まだ完成形の見えない状況ではありますが、その試行錯誤のプロセスを3つの観点からここに公開いたします。

歴史の掘り起こしをどの程度まで行うか

土地のリサーチにおいて、歴史はひとつの大事な参照点となります。中之島の場合、さまざまな歴史的建築物という形でそれぞれの時代が表出しているともいえますが、一方で、その影に隠れて見えづらくなっている歴史も少なくありません。

橋に目を向けてみれば、北を堂島川、南を土佐堀川に挟まれた中之島は、東の天神橋から西の船津橋、端建蔵橋まで22の橋がかかっており、それぞれに歴史と成り立ち、構造が異なります。たとえば、その名前の由来に2つの説がある端建蔵橋は、宮本輝の小説「泥の河」にも登場、明治期には上を市電が走るために架け替えられたという歴史を持ち、昭和中期にも改築された…といった次第で、22の橋それぞれに物語を読み解くことができます。

あるいは旧町名。肥後島町、宗是町、常安町、湊橋町といったかつての町名にも歴史が刻まれており、宗是町であれば江戸時代の豪商・早川宗是がその名の由来となっています。

こうした歴史的なコンテクストを掘っていく作業は尽きることなく、それだけでもとても興味深いものですが、今回の作品を歴史に寄り添ったものとするのか、大枠の枠組みとして歴史を参照しながらフィクションだからこその創作とするか。または、過去だけでなく未来のレイヤーまで含めた内容として構想するのか。歴史との距離は本プロジェクトにとって大きな分岐点となりそうです。

現時点で岡田さんが興味を抱いているのは、中之島にも大きな被害が及んだ明治18年の大規模な洪水のこと。また、幾多の環境整備によって景観が整えられてきた中之島にあって、どこか忘れ去られたような空白地帯となっている中之島の西端、通称「西の鼻」です。2019年には岡田さんは、この「西の鼻」をモチーフに、能みたいな戯曲のラフスケッチ的なテキストをすでに執筆されています。

ミーティングポイントを使って何をどう導くのか

中之島の13か所にある「ミーティングポイント」の設置場所をあらためて確認すると、ミュージアム、ホテル、公共ホール、企業ビルなど、中之島の著しい文化的集積が感じられるとともに、これらすべてを日常的に活用している人はなかなかいないだろうと想像されます。たとえば、中之島のホテルは利用しているけれど、美術館へは足を運んだことがない。あるいは、中之島界隈に出かけたことはあるものの、立ち並ぶビル内に立ち入ったことがない。そうした人たちにとっても各スポットを回遊するキッカケとなることが期待されています。

ミーティングポイントに回遊性を持たせるためには、スタンプラリーのようなやり方が容易に想定されますが、今回の岡田利規さんとのプロジェクトでは作家、アーティストならではの目線を活かした展開をはかりたいところ。まずは、岡田さんによるテキストを印刷したA4サイズの用紙を各ミーティングスポットに配架して、13か所=13のテキストを展開させることが想定されています。さらには、プロジェクト終了後にはこれをまとめて小説として出版する可能性も考えられます。
つまり、それぞれのテキストは独立して読むことができると同時に、通して読むことであらたな物語が立ち上がるものとなり、といっても、参加者にポイントを巡る順=読む順序を指定することなく、どこからでも参加できる、読み進められるようなテキストが望まれるところ。

そもそも各ミーティングポイントが設置されているのは、見どころの多い近代建築だったり、眺めのいいロビー空間だったり、その施設が所有するコレクションだったりと、すでに魅力的なコンテンツをいくつも抱えています。それらを引き出すようなガイド的なテキストもありえますが、それが単に各施設の宣伝に資するものではつまらない。…って注文が多いですね。ただ、これまで見落とされていた何の変哲もないものが、テクストを読むことで突然クローズアップされて目に飛び込んでくるとしたらどうでしょう。屋上に立つアンテナ、足もとのマンホール…など、作品の舞台道具となりえるそうしたモチーフのハンティングを広く募集することも考えられそうです。

実際、岡田さんは2019年、『鉄道芸術祭』での貸し切りの電車内で行われた公演「text in the train」のために、さまざまなテキストや文字を京阪電車沿線で収集したことがあります。今後はリサーチのために参加者を募り、ワークショップ形式で一斉に何かを収集することも視野に入れて進められます。

テキストならではの力をいかに使うか

一般に流通しているテキストは、読む時間、読む場所を指定することができないのは当然ですが、今回のプロジェクトでは、読む場所はミーティングポイントに限られることが大きな特徴です。そこに時間のディレクションも加えることが可能なのかどうか。たとえば、先述の中之島の西端は、あまり開発の手が入ることなく東~中央部とはまた違った印象を受ける場所ですが、夕日の沈む時間帯の美しさは特筆すべきもの。日没の頃、参加者を自然と中之島の西端に向かわせるような仕掛けがありうるかもしれません。

大阪市民にも意識されていないことですが、中之島はふたつの川に挟まれた「島」。島の中と外という、異なる磁場をより強く意識させるものとしてテキストが機能を果たすとしたらどうすればよいか。たとえば、なんらかの理由で島の外に出ることができない幽霊のような人物を設定して、その人物がそれぞれの場所を訪れ、立ち去っていくといった物語の形式をとることも検討されています。
ここでいう幽霊とは、ホラーやオカルトの話ではなく、あくまでも幽霊という現象のこと。観客が立ち会うことでそれが現れ、観客がいなければ存在しないのと同じことになる。そういった「現象」が登場人物のように振舞うことが、指定された場所で読むテキストにはふさわしいかもしれません。

ささやかなことですが、テキストのタイトルから考えを進めることもできそうです。たとえば、各施設やミーティングポイントの名称をそのまま各テキストのタイトルとするのではなく、それぞれの空間に対して恣意的にあらためての名付けを行っていくこと。それだけでも、現実からちょっと離れるような仕掛けとなりえそうです。

近松門左衛門の「心中天網島」から、宮本輝「泥の河」、山崎豊子「白い巨塔」、高村薫「黄金を抱いて翔べ」、有栖川有栖「鍵の掛かった男」など、中之島を舞台に描かれた物語は少なくありません。13か所のミーティングポイントでの展開に加えて、参加者それぞれの読書体験をSNSなどで共有されるようううな仕組みをとることができれば、より重層的な物語となっていきそうな今回のプロジェクト。今の時代の、クリエイティブアイランド中之島の、そして、岡田利規さんならではの物語が生まれることをご期待ください。

文:竹内厚

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