『東京百景』又吉直樹
10月2日の月曜日、私は東京へ行く。
内定先の会社の、内定式に参加するためだ。
私が来春から所属する会社が執り行う内定式は、
受身型ではなく、内定者たちが主体性を持って参加する。
4〜5人一組のグループになり、定められたテーマに沿った創作物を、内定式当日に4分間の中で発表するのだ。
私は内定先の人事の方から8月にその旨を聞かされた時、「正気か?」と思った。
時はもう既に8月で、内定式は10月。
まだ会ったこともない、日本国内各地に散らばった「内定先が同じ」というカードだけ揃ったメンバーたちと、2ヶ月後にグループ発表しなくてはならない。
だが、「正気か?」と思った反面、
私が采配されたグループはびっくりするくらいに優秀な人たちで形成されていて、私がぼーっとしている間にチームのリーダーが決まり、次回のzoomミーティングの日程が決まり、スプレッドシートが作られGoogle上で共有されていた。
能動的で柔軟で、グループ内で起こる出来事を「自分ごと」として捉えられる人たちの集まりは、こんなにも集団として動きやすいんだと、チームのメンバーに教えてもらった。
そんなグループメンバーとの発表が、いよいよ明日に迫っている。
ワクワクと緊張と明日必要なスーツを鞄に詰めて、私は東京へ向かう。
又吉直樹さんが18歳で大阪から上京してきてから、東京で過ごした日々を書き連ねたエッセイ、『東京百景』。
又吉さんの感性を持って切り取られた、東京の風景100景。
それは決して、山頂で迎えるご来光だったり、大自然の澄んだ空気の中見られる星空だったり、四国の島から眺める海だったりのような、煌びやかで美しい風景ではないけれど、又吉さんの優しさや情けなさ、人情深さに触れられる景色。
又吉さんにしか見られない景色だ。
私も、来春から入社する会社の配属先で、私にしか見られない景色を100景切り取って、自分の中で大切にできるだろうか。
日々の何気ない出来事と場所を結びつけて、その土地を好きになれるだろうか。
ワクワクと緊張と明日必要なスーツを鞄に詰めて、私は東京へ向かっている。
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