私の作品が盗まれた!? ~Web小説作家の無断転載対策~ 第2章 【考察】無断転載の狙い ~敵はここまで考えている!?~
さて、前章では〝盗まれる側から見た無断転載の経緯〟をお話ししました。
ここでは対抗策を考えるために、無断転載者、即ち盗っ人(敵)の心理に考察を巡らせます。
まず、無断転載被害に遭った作家さんがなぜ激怒し、あるいは困惑しているのか、疑問に思われる向きもあるでしょう。ですがその疑問は、恐らくこの一言に集約されるものと、私は考えます。
——無料で公開されているものをわざわざ無断転載して、果たして何の旨味があるのか。
これについては、ざっと考えただけでも以下のような目論見が挙がってきます。無料で公開している作品を転載することで、実はこれだけの旨味があるのです。
1.上質な作品(無断転載)が投稿されているように見せかけて、投稿を募る。
2.上質な作品(無断転載)を利用して広告収入を得る。
3.上質な作品(無断転載)を盗っ人の名前で売り出す。
4.上質な作品(無断転載)を海外へ無断転売する。
5.上質な作品(無断転載)の著作権を主張し、作者から権利や金銭を巻き上げる。
以下、順に詳細を述べていきます。
1.上質な作品(無断転載)が投稿されているように見せかけて、投稿を募る。
まず思い浮かぶ悪用例は、〝投稿サイトとしての客引き(水準の底上げ)〟というものです。
上質な作品が投稿されているということは、私の頭で考えただけでも、次のような連想を招きます。
・投稿者の水準が総じて高い。無断転載サイト全体で良好な印象を与える。
・無断転載サイトに掲載されている作品で〝当たり〟に巡り会える可能性が高い。または〝ハズレ〟を引く可能性が小さい。
・無断転載サイトに投稿することで、上質な作品と同等あるいはそれ以上の待遇を受ける可能性がある。
これら連想を動機として、開設当初から〝水準の高い投稿サイト〟として、訪問者に〝無断転載サイトを継続利用する動機づけ〟を施すわけです。結果として無断転載サイトの注目度は上がり、次の目論見が現実を帯びてきます。
2.上質な作品(無断転載)を利用して広告収入を得る。
無断転載サイトの注目度が上がったなら、広告が効果を上げるようになります。某海賊版サイトは主に広告収入で利益を上げていましたね。要は〝他人のふんどしで相撲を取る〟というわけです。
つまり、作者の意図せぬところに収益が生じるわけですね。もちろん、これは大元のWeb小説サイトにとっても損害になります。収益源が横取りされるわけですから。
それどころか、良質な作品を選んで無断転載していくことで、無断転載サイトには〝ハズレが少ない〟〝当たりが多い〟という箔が付いていきます。
ここへ来て、利用者から見れば〝無断転載サイトの方が使い勝手がよく、魅力的〟という考えも浮かんでくるわけです。立場が大元のWeb小説サイトと逆転するわけですね。
3.上質な作品(無断転載)を盗っ人の名前で売り出す。
作者名を削っているところから、この意図があからさまに透けて見えます。のみならず、本家である作品を〝盗作〟呼ばわりして金や権利を巻き上げることすら考えていても不思議ではありません。
大元のWeb小説サイトより人気が出たら、無断転載サイトが「自分の方こそオリジナル」と主張し始めても全く不思議ではありません。サイトそのものの存在もさることながら、そこに掲載されている作品についてもです。
ここへ来て、作者の著作権は徹底的に侵害されることとなります。
実は、問題はこれだけに留まりません。まだ次の目論見があるからです。
4.上質な作品(無断転載)を海外へ無断転売する。
問題の無断転載サイトは翻訳者を募集しております。これが意味するところは——もうお察しでしょう。
本家のWeb小説サイトがまごついている間に、いち早く海外で翻訳版を無断転売するのです。もちろん作者名は盗っ人のものです。
海外の読者からしてみれば、無断転載だろうが最初に翻訳され届けられた方がオリジナルです。面白ければ売れるでしょうし、その収益は丸ごと盗っ人のものです。
——と、ここへ至ってもまだ問題は終わりません。次の目論見が控えているからです。
5.上質な作品(無断転載)の著作権を主張し、盗人側が作者から権利や金銭を巻き上げる。
これは実際に起こったことです。
2011年、『iPad』の商標権を巡る係争が中国で起こりました。中国上陸に先立って『iPad』の商標を登録していたとして、中国企業がApple社を相手に訴訟を起こしたのです。同様に、『iPhone』の商標も今なお世界各地で訴訟の種になっています。
商標権に何の関係が? ——と疑問に思われる方に向けては、こう申し上げましょう。
商標権とは、乱暴を承知で要約するなら〝名称に対する著作権〟です。正確にはマークや意匠を含めてのものになりますが、ここは〝本家より先回りして著作権を主張された〟例と捉えていただければ間違いないかと。
つまり、〝無断転載作品の名前と翻訳物を手にした盗っ人が、作者を差し置いて著作権を主張すること〟は、想定して然るべき事態なのです。
このことから、無断転載の狙いは〝作品の生み出す利益を丸ごと盗む〟ことにあると考察できます。
では、どのようにして無断転載に対抗するか。これについては次章でお話ししましょう。
(C)中村尚裕 2018 All Rights Reserved.
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