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零細企業のしょぼいDX

零細企業の社長をしてます。
2年半前にちっちゃいM&Aを実施して従業員1名の零細企業を買いました。
経営の勉強の為にnoteを読み漁ってますがスタートアップ界隈でゴリゴリやってる人の記事が多く、自分とはレベル違い過ぎて参考にならないなと思ってましたがreisaikigyou_maさんの「零細企業を買収した後に行ったDXとは呼べないDX」が非常に参考になりました。

自分よりもあとに零細企業を買収したのに短期間でDXを進めてるし凄いなーと思いつつ、参考にできる部分を参考にしながら弊社もDXをすすめてます。
記事を読んでから半年、当社もDX導入がある程度完了し業績も創業来最高売上達成したので買収してから2年半、当社で実施したDXというかIT活用の内容をまとめて紹介したいと思います。

買収経緯

ざっくりですが
独立決意して勤めてた会社を退職→タイミングよく登録してた後継者バンクから会社紹介→買うといった流れでした。

後継者バンクに登録して1年近く経過していて登録していた事さえ忘れていたのですが、会社辞めたのをまるで見計らったかのようなタイミングで辞めた直後に連絡がきました。

正直、何の仕事をするかも決めてない見切り発車で会社を辞めてたので、渡りに船といった感じで助かりました。

本当に運が良かった...

買った会社は従業員1名のほんとに小さい会社。サラリーマン経験しかなく怖気ずいて承継期間(創業者残留期間)1年間の契約を結びましたが正直長く設定し過ぎたなと思います。

この規模だと3ヵ月で十分ですし、DX推進して効率高めたい自分とオペレーションを変えられたくない前経営者で度々対立し1年間は全くDXは進められなかったからです。

船頭多くして船山に上るという諺の通りですね。

会社の状況

買収した会社はここ3年間の決算は自分の人件費くらいは賄えるかなくらいの黒字は出していて財務関係は問題なしと考えてたんですが、買収したあとにそれより前の決算を確認したら毎年収支はトントン。ここ3年の黒字は3年前に営業担当だった社員が辞めその浮いた人件費分だった事が分かりました。

当然営業が居ないので新規開拓ができておらず既存顧客からの売上も減少傾向。そこにコロナ流行の影響による売上減+自身の人件費が増えるので完全に赤字。

早急な財務と営業改善が必要でした。
財務に関しては助成金やコロナ融資など国の支援策が沢山あったのでそれらを活用して、初年度は前経営者への退職金もあり2000万円位の赤字でしたが難をしのげました。

1年経過し前経営者が退職。オペレーションの改善がスムーズにできる状況が整ったのでDX導入(IT化)を進めた所1年で売上は倍に、初年度の赤字分も全部取り返す事ができました。

やったこと

具体的にやった内容を効果の合った順に紹介します。

①ITインフラの更新
②Web対策(HPのSEO対策、Google広告の出稿)
②生産管理システムの見直し
③会計システムの見直し
④顧客管理の導入

①ITインフラの更新に関して

(買収当時の状況)

突然画面が消える壊れかけのモニタに10年物のPCが使われてました。CPUは2009年に発売されたAthlon II X2 240e 。

最新のCore i5 12400の性能を100とするとシングルコア性能は22、マルチコア性能は7です。メールやOfficeなどデスクワークで使用するアプリはCPUのシングルコア性能に依存するため、メールの返信やエクセルの操作がもっさりでイライラしました。
また動画資料を作ろうと動画作成ソフトを立ち上げると落ちるような環境でした。

流石に効率が悪いので自分のPCは買収後すぐに、そこそこのスペック(最新のデスクトップ用Core i5、RAM16GB、SSD512GB)の最新PCに更新、モニタも4Kモニタに変更。

勝手に変えたのでコロナで厳しく皆で節約を頑張ってるのに無駄遣いだーと社内でつるし上げにあいましたが「もう俺の会社なんだけどなー」なんて思いながら平謝りしてPCの更新を許してもらいました。

(やったこと)

前経営者退職後は従業員のPCも4KモニタとそれなりのスペックのPCに更新。ついでキーボード、マウスをPC付属のものからリアルフォースとロジクールMX Master 3マウスに変更。PC8万、モニタ5万、キーボード2.5万、マウス1.5万。一人あたり17万円の設備投資を実施。

社内サーバーは年代物のLinux PCにSambaを入れたものでした。HDD1台のみでデータが保管され、バックアップはSDカードにコピーという運用。Sambaの設定を変更しても何故か反映されなかったり、起動もシャットダウンも時間がかかり、電源切断手順を間違えるとデータが消える可能性があるという危険物だったのでSSD4台でRAID5を組んだSynologyのNASに更新。

ITインフラの更新はスムーズに移行できましたが、サーバー内のデータ整理には苦労しました。
というのもデータ管理がかなり適当でファイル管理基準のようなものはなく適当にサーバーへ放り込まれている状態だった為、迷宮化していたからです。

一つ一つデータを調べてファイル管理基準を作って整理整頓していく作業がめちゃくちゃ時間がかかりました。

まとめ


ITインフラ周りは気を使いそれなりに投資する。
やっぱりPCは処理速度が早くてモニタも大きい画面だと作業効率段違いです。

日本は世界的に見てもITインフラへの投資額が少ないそうですが現代では一番よく使う仕事道具なのである程度投資する事は大切だと思います。

②Web対策

(買収時の状況)

HPは前経営者が20年前のHP作成ソフトで作ったHP。
HP作成ソフトの会社は倒産していて後継ソフトはない。

デザインも00年代前半のフラッシュ全盛期みたいなデザインで古臭く、迷路のような作りで製品情報にたどり着くのも一苦労。2020年なのに問い合わせフォームや取説ダウンロードフォームはCGIで動いてました。Perlのソースコードなんて何年振りにみたことやら...

ITリテラシーもあまり高くなく最近のwebサービスは活用できていない。
新製品を発売開始した際にプレスリリースを打つこととなりPR Timesを使おうとしたら、プレスリリースというのは新聞社やテレビ局にFAXや手紙を郵送する事だぞ、何馬鹿なことをやっているんだと怒られ辟易。
まあ無視してPR Timesを使いましたが...

当然Web広告なんて活用してません。

(やったこと)

零細企業なんてお金も人もない、ないないづくしです。
コロナで補助金や融資に駆け回らないといけないので自身で営業活動する余裕もない。

残された手立てはGoogleさんだけです。
Googleさんに365日、24時間営業活動してもらうしか選択肢がありません。

Googleさんにしっかり働いて貰うためにやった事

その1:HPの見直し
HPは会社の顔となる大切な資産なので一新。
HPは内部SEO対策としてページスピード爆速とすべく、Jamstack構成(Gatsby.js+Contentful+Cloudflare Pages)で静的サイト化。問い合わせフォーム等の処理もCGIからCloud Functionsにリプレイス。

Cloudflare Pagesは他の静的ホスティングサービス(Vercel、Netlify、GitHub Pages)よりも無料利用枠が大きい上にCDN、AutoMinify、Brotli圧縮、HTTP/3等の高速化手法をワンクリックで設定できるのでオススメです。

HP一新後はLighthouseのスコアが50点台から90点台後半まで上昇しました。

創業してからコツコツHPを更新してきたのか400くらいページがありましたが全ページ作り直すのは手間だし不要なページも多かったので50ページくらいまで取捨選択。

平日に作業すると前経営者がめちゃくちゃ妨害してくるので土日にこっそり作り上げました。(自分が作り上げて来たものを壊されるようなものなので気持ち分からなくはないですが)

2年目以降は外部SEO対策として技術紹介記事や事例紹介記事などのオウンドメディアをコツコツ製作。

この2つの対策で1年半でアクセス数は4倍まで増加し、HP経由での問い合わせも6倍まで増えて売上改善にかなり貢献してくれています。

その2:Google広告
Google広告。毎月10万円のお布施をしております。
Web広告に関して自身も知見がなく試しに出してみたら結構効果がありました。

月10万円の広告費を十分ペイできる利益を生み出してくれており、販路も拡大。

広告出稿した製品の売上は前年比5倍以上に伸び、現在も成長中です。

(今後やりたいこと)

web広告に対する知見はほぼゼロであり、広告出稿してから運用テコ入れは一切せず放置している状態なので、今後は運用管理して広告効果を高めていきたい。
あと、他の製品も広告出稿して売上を伸ばしていく。

③生産管理システムの見直し

(買収時の状況)

ITツールを使って管理はしているものの複数のツールを使い、互いに連携できない為、同じ情報の入力作業が複数回発生しオペレーションが複雑化してました。
具体的には

Ⅰ:材料仕入れ時に弥生販売へ仕入れ入力。
Ⅱ:複数の材料を組み合わせて生産処理を弥生販売で実施。
Ⅲ:生産処理した商品をエクセルの在庫管理台帳に記載
Ⅳ:注文入ったらエクセルの在庫管理台帳に記載、
Ⅴ:弥生販売にも出荷情報入力
Ⅵ:スケジューラーに出荷情報を記入

何回説明されてもオペレーションを理解できませんでした。正直文章化しても何がなんだか。よくこれでミスなく回ってるなといった感じです。
既存社員の生産管理能力が高いのでなんとか回ってる状態で、この人が退職したり長期入院してしまうと完全に詰んでしまう。

(やったこと)

Google Workspaceで生産管理システムを自作、入力回数を三分の一に削減

具体的には
Googleフォームで仕入れた商品を入力すると、スプレッドシートに連携され在庫管理台帳の在庫数が記録されます。
在庫管理台帳の出荷日と出荷先を記入するとGoogleカレンダーに連携され、出荷予定日がスケジュール登録される仕組みを構築しました。
あとメイン材料を商品名で登録し、出荷時にその他細かい部材が在庫からマイナスされるようにし生産処理を省きました。

これで
Ⅰ:仕入れ時にGoogleフォームで入力
Ⅱ:出荷時にスプレッドシートの在庫管理台帳へ入力
とオペレーションがかなり簡略化でき誰でもできる作業に生まれ変わりました。

(今後やりたいこと)

販売予測と商品在庫のデータを組み合わせて自動で材料発注できる仕組みを組み立てる。

ダッシュボード機能を使って商品のABC分析とかデータ分析の結果を一覧で出す仕組みをつくって今後の経営方針に活用する。

データ分析サービスのTreasure Dataは月額3000ドル、troccoは月額10万円スタートと当社レベルの規模では手が出ないので、BigQueryを使って自作のデータ分析基盤を作る予定。

③会計システムの見直し

(買収時の状況)

給与管理       ⇒  フリーウェイ
見積、請求書管理 ⇒ 弥生販売
会計       ⇒ JDL
を使っており、各ツールで連携などは出来ません。

また弥生販売は節約?をしてアカウントを一つしか買っていなかった為、ネットワーク上で1人が操作していると他の人が作業できない状態。作業がバッティングして誰かが請求書の処理をしていると見積書作成が出来ないなどかなり非効率な運用となってました。

更にネットバンクは月額利用料がかかるという理由で使われておらず、定期的に従業員がATMに振込に行く運用がされてました。

正直従業員のATMまでの行って帰ってくる時給単価とネットバンクの月額利用料を比較すると後者のほうが格安です。

年収300万の時給は1562円。年収が100万上がるごとに時給は521円増えます。労働時間の節約が最大の節約になります。(計算が複雑になるので社会保険料の会社負担は割愛してます。社保を考慮すると8~12%ほど時給が上がります。)

改革前はリアルタイムで現預金残高がわからない上に従業員に通帳とカードを預けて数百万円の振込を実施してました。大変非効率ですし、横領防止は従業員の良心次第となるため、内部統制が機能していませんでした。(従業員の方は真面目で本当に信頼できる人なんですが、将来的な事を考えると必用です)

またクレジットカードや家賃の口座振替は三井住友、三菱UFJ、きらぼし銀行に分散されており、残額不足にならないように各口座に一定額入金させておくなどかなり非効率な口座管理でした。

(やったこと)

MFクラウドへ移行とネットバンク(GMOあおぞらネット銀行)の導入。
MFクラウドに関してはreisaikigyou_maさんの記事をめちゃくちゃ参考にさせてもらいました。

同じようなサービスのfreeeと比較しても人事労務等会計以外の機能も全部コミコミで月額2,980円というのは格安なのでMFクラウドを導入。

MFクラウドとネットバンクを導入した事で、
MFクラウドにて給与計算⇒FBデータ作成⇒ネットバンクから振込
見積もり、請求書管理⇒MFクラウドで実施
会計⇒MFクラウドで管理

全ての業務をMFクラウドで一括管理できるようになり、ある程度自動で会計連携されるので効率化が進みましたし会社の財務状況も逐次把握出来るようになったのでかなり効果あったかなと思います。

振込はGMOあおぞらネット銀行に一本化。実店舗のある銀行は月額3000円&振込手数料330円が多いのですが、GMOあおぞらネット銀行は月額0円&振込手数料145円です。
複数口座作れ、従業員ごとにアクセス権限を設定できます。メイン口座と振込用口座を作り、従業員は振込用口座でのみ振込可能とし、50万円を超える振込は私の承認が必要となるようにしました。

口座振替はGMOあおぞらネット銀行に集約。社会保険料などネット銀行非対応の引き落としはネットバンク無料プランのある三井住友銀行に集約しました。
社会保険料や日本政策金融公庫とか政府系の口座振替は実店舗の銀行しか対応してないので早く対応して欲しいです。

あとreisaikigyou_maさんの記事で紹介のあったUPSIDERカードも導入。還元率1.5%と高還元率です。新規カードの発行が早く、申し込みの翌日か翌々日に届きます。

オフィスの消耗品は近所のホームセンターで現金購入していたのですが、従業員用カードを作りAmazonかヨドバシドットコムでクレジットカード決済(アマかヨドにない場合はホームセンターでクレジット決済)に変更して買い物の時間を削減。

クレジット決済の場合、MFクラウドに連携されるため、会計入力の手間も管理も大幅に削減できてます。


④顧客管理の導入

(買収時の状況)

顧客データの管理は顧客リストがエクセルに1枚あるだけ。
あとは迷宮と化したサーバー内を探索するか、過去のメール履歴から顧客データを探すしかない状態でした。

また社内の固定電話はナンバーディスプレイ機能がなく、誰からの電話かも分からない状態。最初のうちは電話に出て顧客が名乗り出ても既存顧客なのか新規顧客なのか判断ができず苦労しました。


(やった事)

・電話をクラウドPBXに移行+ナンバーディスプレイ機能を契約
・Hubspotの導入

クラウドPBXを導入する事で固定電話へかかってきた電話をどこでも携帯で受けられるようになったのは大きいです。これで会社を離れて営業活動などができる環境が整いました。

またクラウドPBXのクラウド電話帳に既存顧客を登録し既存顧客なのか新規顧客なのか判断できるようになったのはめちゃくちゃ大きい、精神負担が全然違います。

というか月額数百円の差なんで固定電話の時代からナンバーディスプレイオプション入っておいてもらいたかった。

顧客情報に関してはHubspotを導入し顧客とのやり取りは全部CRMに蓄積する運用を構築、といっても営業担当はまだいないので私しか使ってませんが。

営業職を雇ったあとに導入した場合、入力業務が増えたと文句を言われそうなので、雇入れ前にオペレーションを構築することにしました。

HubspotとSalesforceのどちらにしようか迷いましたが、Hubspotはテンプレートが決まっていてカスタマイズしにくいという所が、もともとオペレーションのテンプレートがない自社にとっては都合が良かった(Hubspotのテンプレートを自社のオペレーションにそのまま落とし込めばよかったので)為、Hubspotにしました。

既に既存のオペレーションがあり、カスタマイズしてSFAを使うならセールスフォースのほうがいいのかなと思います。

まとめ

人もお金も不足しているうちのような零細企業の活路はDXしかないのかなと思っています。

ウェブ投資をすればホームページのアクセスが増えて売上が上がり、システム投資をすれば業務が効率化される。顧客管理システム投資をすれば有用な顧客データリストが増える。

DXで資産の積み重ねが加速している事を実感しています。

実際当社はDXを進めて1年で売上2倍弱と、それなりの結果も出せたので間違っては無いかと。
最近は便利なサービスがどんどん出てきてますし、月額コストも安いので試してみる価値ありです。