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公園で芋売ってたおっさんと友達になった話

冬の朝、公園に行くと、おっさんが芋売ってた。
焼き芋とか焼いていない芋とか、色々売ってた。

いつもなら絶対話しかけない。
チラ見してスルー確定だ。

でもその日は話しかけた。

焼き芋のいい匂いに誘われたのかもしれないし、
隣のスーパーの半額以下で叩き売られている芋たちに同情したからかもしれない。

4本も5本もサツマイモを詰め込んだ袋が350円。
完全にやっちゃってる。

「こんにちは。焼き芋一本ください。あとこの袋めちゃ安いですね。一つお願いします。」

「ありがとうございまっす!あの、お客さんが初客っス!マジ嬉しいっス!アザッス!」

元気が良く、人懐こくて、人たらしの空気を纏ったおっさんだった。

「いやちょっとマジで嬉しいんで、この袋タダでいいっスよ!」

いいわけがなかろう。

「値段わからなかったんで、とりあえず350って書いてみたんスけど、ぶっちゃけタダで売るつもりだったんスよ!」

聞いた話では、おっさんは芋を育てるためだけに、毎週末、隣の隣の県まで通っているらしい。
熱量エグくない?

そうまでして育てた芋を、生活に不便してるわけでもない、公園にいるその辺の人に無料で配るという行為は、僕の理解の範疇を超えていた。

「そういうわけにはいかないんで。」と、無理やり350円支払った。


焼き芋を食べながらおっさんと話していると、
二人目の客が来た。

「サツマイモ5本で350円てなんなん。やばいやん!あんた、もっとちゃんと取りや~」

気さくな、恰幅のいいおばちゃんだった。
おばちゃんは昔、都会で小料理屋をやっていたらしく、
おっさんのありえない値段設定にずっとぶつぶつ言っていた。

おばちゃんはおしゃべりだった。
chatGPTなんじゃないかくらいのスピードで、途切れることなく話した。
僕とおっさんは「へぇ」とか「ほぉ」とか言っているだけだった。


三人で話している間にも、何人かお客さんが来た。

おっさんは全員に
「マジあざっす!この袋タダでいいっす!」
と言っていた。

そしてそのたび、おばちゃんに
「そんなんじゃいかんで!」
と怒られていた。


昼頃になると、いかれた0円芋袋は完売した。

焼き芋も飛ぶように売れ、
おっさんの周りには7人も8人もジモティーが集まって、焼き芋を食べていた。
ちょっとしたパーティーだ。

おばちゃんは15分くらい前から何故か客引きを始め、
道行く人に片っ端から話しかけていた。

おっさんは、しきりに
「こんなに人が集まって嬉しい。本当にやってよかった。」
としんみり言っていた。


ついに、最後の焼き芋が売れた。

僕とおっさんと小料理屋のおばちゃんで集計してみると、
100本近く芋を売って、手元に残ったのは2450円だった。

ほとんど無料で配ったしまったんだから、
そりゃあそうなる。

でも、おっさんは満足そうだった。

すっからかんになった売り場と、
さっきまで芋パーティーが行われていた公園を眺めながら、
「本当にやってよかった。僕は人が好きだ。」
とつぶやいた。

おっさんの欲しかったもの、
見たかった景色が、
少しだけわかった気がした。



次の日、おっさんはいなかった。
その次の日もいなかった。

僕は冬が終わるまで何度もその公園に行ったが、
それっきり、おっさんと会うことはできなかった。

今年ももう8月だ。
きっと今頃、おっさんはせっせと隣の隣の町で芋を作っているのだろう。

このあっちぃ夏が終わって、肌寒くなってきたら。
またあの公園に行ってみようと思っている。

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