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科学研究の支援財団設立と維持の難しさ【結論まで無料、`17.10.7追記】~「ノーベル賞受賞の大隅さん、財団設立」(日経新聞)ほか~

1.はじめに~ノーベル賞受賞者・大隅さんの財団設立による基礎研究支援のニュース~

 1-1.メインブログで書いてきた研究助成金の記事について

研究においては、アイディアがあっても、ある程度、リソースがないとプロジェクトを進めることができません。本部の『仲見満月の研究室』では、いかにしてリソース、ここでは研究資金を手に入れるか、という情報を書いたり、まとめたりしてきました。例えば、最近の話題では、
 ・【2017.9.6_2155_人物関係図修正】カルピスと三島海雲記念財団の学術研究活動助成制度~田中淳夫「カルピスの日に思い出す、二人の「カルピスの父」(Yahoo!ニュース)ほか~

 ・給付型奨学金や学生に対する経済的支援をする大学や企業・団体の取り組み~「800万円支給の大学、返済支援する企業…知っておくべき奨学金活用術」(週刊朝日)~

といった、企業の設立財団による給付型奨学金や学術研究の助成システムを中心に紹介致しました。2つ目の研究助成には、一部、企業による寄付も含まれています。

 1-2.「ノーベル賞受賞の大隅さん、財団設立 基礎研究を支援」(日経新聞)の内容

それに対して、今月12日、ノーベル賞受賞者・大隅さんが賞金をもとに財団を設立し、基礎研究の支援をしてゆく事業を始めるというニュースが報道されました:
ノーベル賞受賞の大隅さん、財団設立 基礎研究を支援 (2017/9/12、日経新聞)

今までメインブログで紹介してきた企業や自治体による支援と違い、ノーベル賞の受賞者による科学研究の支援財団ということで、ここで報道内容を見てみましょう。 

ノーベル賞受賞の大隅さん、財団設立 基礎研究を支援 
2017/9/12 20:28

 昨年にノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大の大隅良典栄誉教授らは12日、基礎研究を支援する一般財団法人「大隅基礎科学創成財団」を設立したと発表した。まずはノーベル賞の賞金などから計1億円を拠出し、基礎研究への助成を始める。理事長を務める大隅さんは都内で記者会見し「科学を覆う閉塞感を少しでも取り払う一助にしたい」と語った。 

 研究助成は、簡単には答えが出ない挑戦的で面白い研究が対象となる。2018年春にも基礎生物学の分野で始める。 

 企業と大学の研究者の交流を促す仕組みづくりにも取り組む。大隅さんは「短期の共同研究ではなく、長期的な視点で双方に利点のある関係を築けるはずだ」と話した。 

 今後は個人や企業から寄付や会費を募り、財団全体で20億円程度の規模を目指すという。大隅さんは「(科学技術予算の)限られたパイを奪い合うのではなく、パイを大きくすることを真剣に考える必要がある」と語った。 

 今回の財団とは別に、東工大は大隅さんの寄付を原資に学生の進学などを支援する「大隅良典記念基金」を設けている。
(「ノーベル賞受賞の大隅さん、財団設立 基礎研究を支援 」2017/9/12、日経新聞)

財団の名前は、一般財団法人「大隅基礎科学創成財団」でありながら、大隅さんお一人ではなく、チームで設立することが窺えます。最初の財源として、「ノーベル賞の賞金などから計1億円を拠出」し、支援は「基礎研究への助成を始める」ところからのスタートということです。

助成対象は、「簡単には答えが出ない挑戦的で面白い研究」であり、来年春からさっそく「基礎生物学の分野で始める」と発表。ニュースを一読した感想として、ノーベル賞の賞金などから合わせて1億円でのスタートというのは、滑り出しとして好調なのか、私としては少々、疑問が残るものでした。

大隅さんたちの展望には、「企業と大学の研究者の交流を促す仕組みづくりにも取り組」み、「長期的な視点で双方に利点のある関係を」築くこと。更に大きな目的は、「大隅さんは「(科学技術予算の)限られたパイを奪い合うのではなく、パイを大きくすることを真剣に考える必要がある」と語っています。つまり、企業と大学との関係を深めて、新たな産学連携の仕組みづくりを行い、パイを大きくしていくことを視野に入れている財団設立ということなのでしょう。 

設立は、大学教員という職業研究者ですが、最初から企業と組み、基礎研究を支援していく方向での助成財団の設立は、研究一辺倒ではない、大学職員でいうと、海外の大学の資金集めをして来る部門のプロ集団を思わせる発想です。大隅さんたちは、今後、「個人や企業から寄付や会費を募り、財団全体で20億円程度の規模を目指」しています。

 1-3.大隅さんの研究助成に見えるもの

あと、単なる大学教員にとどまらない質は、「今回の財団とは別に、東工大は大隅さんの寄付を原資に学生の進学などを支援する「大隅良典記念基金」を設けて」いるところからも、大隅さんの研究者にしては「あきんどさ」を感じさせられます。

日経新聞にはない追加情報としては、朝日新聞デジタルのニュースより、
 ・財団は、「ノーベル賞や米財団のブレークスルー賞の賞金から大隅氏が1億円を出資して設立」
 ・企業には年100万円の会費で会員登録を求める
 ・市民の寄付は1千円から(詳細は公式サイト(http://www.ofsf.or.jp/))
(「基礎研究を長い目で支援 ノーベル賞大隅氏が財団設立」 2017年9月13日、朝日新聞デジタルより)

の3つがありました。

注目すべきは、「市民の寄付は1千円から」、つまり500円玉2枚、野口英世さんのお札1枚から、私たちは寄付することができること。クラウドファンディングと同じくらい、市民が寄付できるスタート額の敷居が低く、私なんかは、気軽すぎて、朝日新聞デジタルの記事に貼られたURLをクリックしそうになってしまいました。
(追記:悩んだ末、10月7日に財団の口座に1千円、振り込みました)

私は、大隅さんの名を冠した財団のスタートは、運営がうまくいくことを願っております。しかし、世の中には、大隅さんらと同じく、ノーベル賞を受けた科学者の関わっていた研究助成の財団維持がうまくいかず、解散となった前例が存在しました。それは、今年3月に解散したとされる小柴さんが理事長だった「平成基礎科学財団」の例です。次の第2項では、「平成基礎科学財団」の経緯を見ていくことで、科学研究の助成財団を運営し、維持する難しさについて、考えてみましょう。


2.科学研究の支援目的の財団維持の難しさ~「ノーベル賞・小柴氏設立の財団解散へ 財政・人事苦しく」(朝日新聞デジタル)から考える~

「ニュートリノの観測」と聞くよりも、「アイスクリームが好きらしい」という科学者と聞けば、私も親しみを抱いてしまう、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊・東大特別栄誉教授(90)。実は、この小柴さんが理事長をしていた「平成基礎科学財団」は、今年の3月に解散していたらしいのです。詳しい経緯に関しては、次の朝日新聞デジタルのニュースで明らかとなっています。

ノーベル賞・小柴氏設立の財団解散へ 財政・人事苦しく
川村剛志 2016年10月24日10時57分
 
 ニュートリノの観測で2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊・東大特別栄誉教授(90)が設立し、理事長を務める「平成基礎科学財団」(東京都千代田区)が来年3月末で解散することが明らかになった。同財団によると、「財政上の問題と人事上の問題」からだという。

 小柴さんは03年、ノーベル賞の賞金などを投じ、基礎科学の振興を目的に財団を設立。理科教育で功績があった個人や団体に「小柴昌俊科学教育賞」を贈ったり、学生向けの科学教室を100回近く開いたりしてきた。  

 財団の運営費は地方自治体や個人などからの賛助会費でまかなってきたが、近年、退会者が増え、自治体からの会費が減少。運営の見通しがつかない状況になってきたという。財団理事らの高齢化も理由といい、小柴さんは「若い世代に事業を引き継ぐのは好ましくなく、彼らには研究に専心していただきたい」などとコメントしている。  

 また、小柴さんは「財団の活動が、今後の基礎科学振興のあり方の一つの先例となることを願っています」ともコメントしている。財団によると、10~12月の科学教室は予定通り開催し、今年度の小柴昌俊科学教育賞も来年3月に発表するという。(川村剛志)
(「ノーベル賞・小柴氏設立の財団解散へ 財政・人事苦しく」(2016年10月24日、朝日新聞デジタル))

上記の報道により、「平成基礎科学財団」の解散は、「財政上の問題と人事上の問題」があったことが分かります。2003年、小柴さんがノーベル賞の賞金などをもとに、科学研究の支援を行うべく財団を設立し、「財団の運営費は地方自治体や個人などからの賛助会費でまかなって」きました。しかし、「近年、退会者が増え、自治体からの会費が減少。運営の見通しがつかない状況になってきた」ことがありました。

加えて、職員の高齢化もあって、「小柴さんは「若い世代に事業を引き継ぐのは好ましくなく、彼らには研究に専心していただきたい」」という考えがあり、「若い世代に事業を引き継ぐのは好ましくなく、彼らには研究に専心していただきたい」とコメントしました。どうも、「平成基礎科学財団」の解散には、
 ・財団の運営費の減少
 ・地方自治体や個人などからの賛助会から退会者の増加
 ・職員の高齢化、および小柴さんの「若い世代に事業を引き継ぐのは好ましくなく、彼らには研究に専心していただきたい」という考え

の3点が関わっていると思われます。経緯を読んだ限りでは、運営費用を自治体や個人を会員にして、そこから費用を賄っていたところが大きいと思われます。もっと言えば、「賛助会」に入ってもらった団体や個人から運営費用を集めていたことから、賛助会の構成員の経済状態の悪化によって、退会者の増加→運営費の減少となったのではないでしょうか。

遠因としては、博物館や美術館の「友の会」ならぬ、賛助会の会員になって回避を支払うというシステムは、プロジェクトを出資者がひとつひとつ決め、お金を出資できる形式の昨今のクラウドファンディングに比較すると、一般市民には敷居が高い方法だったこと。それが、間接的に運営費を減らすことになっていたとは言えないでしょうか。

逆に、先の「大隅基礎科学創成財団」は、新たに企業を巻き込み、資金調達することを手段としていると見られ、しかも、市民は会員にならずに1000円から寄付できる気軽な寄付方法です。それゆえ、小柴さんの「平成基礎科学財団」よりも、維持ができる可能性はあります。

更に、「平成基礎科学財団」の職員高齢化というものが財団解散の原因に挙がっていますが、小柴さんとしてはご自身が恒例だったこともあり、悪化する財団の運営に区切りをつけてしまいたかった気持ちもあったのかもしれません。

財団の運営健全化という経営者の視点を持つ人であれば、財政の健全化のため、資金調達の方法を行う部門を刷新するとか、外部の金融の専門機関と組んで新たな寄付の方法を考えるとか、手段をとっていたかもしれません。でも、それを「平成基礎科学財団」が実施せず、解散を決めたのは、小柴さんの先に挙げた気持ちが大きなものだったから。そう考えるのが、自然だと思いました。


3.まとめ~寄付システムの工夫や寄付方法の気軽さが鍵~

冒頭に取り上げた「大隅基礎科学創成財団」の運営は、
 ・企業には年100万円の会費で会員登録を求めるだけでなく、研究発展を発展させ、パイを大きなものにしていくという、研究上のパートナーの立場を求めていること
 ・市民は会員登録なしで、1000円から寄付ができること
という思想と寄付方法に支えられて、スタートしました。

第2項で見てきた「平成基礎科学財団」に比較すると、「大隅基礎科学創成財団」については、「大隅さんは「(科学技術予算の)限られたパイを奪い合うのではなく、パイを大きくすることを真剣に考える必要がある」と語っていること、設立者自身が研究一辺倒の大学教員という科学者ではない性格が、財団のやり方に窺えます。そこからは、「閉じた科学研究」ではなく、「開いた科学研究」による財団の研究支援の姿勢が見えそうです。
(だからといって、私は報道を通じて知った、小柴さんの科学研究支援の様々なご活動が、閉じたものだとは全く考えておりません)

「大隅基礎科学創成財団」の維持にとって、鍵となるのは、やはり寄付システムの工夫や気軽さでしょう。そして、それらの手段によって集めた資金の一部で財団職員の給与を賄いつつ、財団自身が掲げている対象分野の助成をしていけるかが、これからの勝負どころだと私は考えております。

大隅さんを中心とするチームが、この財団を健全に運営し、長期にわたって維持することを応援しつつ、基礎研究の多くのプロジェクトが進むことを祈っております。

おしまい。


4.おまけ:まだある?!研究助成やクラウドファンディングの知恵

*本記事の含まれるマガジンは、投げ銭制を採用しております。
ですが、今回は、おまけとして、メインブログのほうで書いてきた研究助成や給付型奨学金、クラウドファンディング等の記事へのリンクをまとめた部分については、課金することと致しました。

資金面で頭を悩ませている方は、参考になるアイディアがあるかもしれません。

ご理解のもと、ここから先をお読みになりたい方は、お支払いをご検討のほど、よろしくお願い致します。

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